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Tag [新作レビュー] 2010.10.22
1102969002.jpg藤田麻貴「バロック騎士団」(1)


アンタはこれからアタシに
尽くして尽くして尽くしまくる義務があるわ



■各界のエリートを養成するという名門・斎華王学園。初等部からの持ち上がりが殆どで、中等部・高等部での編入は珍しいこの学園に、暴言女王と呼ばれる都は入学してくる。親の会社はこんな学園には似合わないような規模で、入学案内が送られてきた理由は全く不明。全寮制で、外出はおろか退学もできないというこの学園で、都はこの学園の謎に迫る。入学初日に一方的に成敗した男子・上総を従えて、都が行きつく先は…。いびつな真珠達のファンタジック学園ストーリー、開幕!!

 「楽園のトリル」(→レビュー)の藤田麻貴先生の新作のヒロインは、今までにないくらいに暴君な美女でした。突然届いた入学案内によって、導かれるように名門・斎華王学園に編入することになった、都。真っ直ぐ過ぎる性格で、自分の意思はどこまででも通す。口も早いが手を出すのも早い。そんな彼女は、編入早々にこの学園の不可解さに気がつきます。全寮制で外出はおろか退学も禁止。上には「特別寮」という特定の生徒のみが入寮できる施設とクラスがあり、そこに入ると外出できるらしい。それより何より、自分がこの学園に入学することになった経緯がわからない。そんな謎だらけの学園で、編入初日に成敗した、同じ編入組の男子・上総を従え、彼女はこの学園の謎に迫っていくことになります。そして同時に、彼女の体にも思わぬ変化が訪れ…というお話。


バロック騎士団
「駄犬!」は口癖。暴君っぷりを象徴する言い回しです。そんな彼女に、文句を言いつつもなんだかんだで付き合ってやる上総くん、あんたいい男やで。。。


 暴君ヒロインに、何かと面倒を見させられる料理上手の長身男…という組み合わせから、「とらドラ!」を彷彿とさせるのですが、こちらはあちらのように青春ラブコメを送るなんてことはなく、あくまでシリアスにランブルスクールデイズを送っていきます。特別な学園で、ヒロインが巻き込まれつつもなんやかんや…というのは「楽園のトリル」でも同じ。設定は違えど、藤田先生お得意のパターンとも言えるわけで、物語は特殊な設定を持ち込みつつもかなり安定している印象を与えてきます。結構謎が多い(というかそれが売りの一つなのですが)のに、そこが良い意味で気にならないというか。少々ファンタジックな要素を折り込みつつも、完全なファンタジー作品の領域には足を踏み入れないと思われ、親しみやすさもプラスされているのかな、という感じがします。
 
 メインは当然のことながら、学園の謎に迫るということなのですが、1巻時点でむしろ目を引いたのは、ヒロイン・都と上総のかけ合い。物語の中で唯一と言っていいほど、笑いを生み出すポイントとなっているのですが、基本は暴君・都が一方的に上総を困らせるというだけのワンパターン。けれども変化の激しい物語の移り変わりの中で、変わることなくくり返されるそのかけあいが、良きガス抜きとしての役割を果たしており、個人的にお気に入りとなりました。しかしながら、もったいないと思うのが、都の性格描写。「とらドラ!」の大河とは、基本的に外面的な対人行動は全く同じであるのですが、なまじ主人公である分、その異質っぷりを多少なりとも自分側の視点に置かねばならず、ややとっつきにくい感じに。主人公であるから思考が当然流れ込んでくるのですが、どうしてそのような結論に至るのか、変わりすぎていて理解しきれない部分が多々あるという状況になっています。これがもし、主人公でなく視点の交わりがないキャラクターであれば、単に「変な子」で済んだのかもしれないと思うと、もったいないなぁ、と。せめてどうしてこのような性格になったのか、軽くヒントでも与えておけばいいのにとか思ってしまいました。なんてゆくゆくは明らかになってきたりするのかもしれませんが。


【男性へのガイド】
→ヒロインのノリに、男の子の献身っぷり。「とらドラ!」をどことなく彷彿とさせますが、あくまで少女漫画仕様。設定から受け取る印象ほど読みやすくはないかと。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→ヒロインのあの性格は、なかなかとっつきづらい。それが話を動かす原動力になるのですが、もう少しフォローしてあげてもよさそうな。物語自体はよく動いて楽しいです。


■作者他作品レビュー


作品DATA
■著者:藤田麻貴
■出版社:秋田書店
■レーベル:プリンセスコミックス
■掲載誌:プリンセス(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

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