作品紹介→*新作レビュー*榎本ナリコ「時間の歩き方」
榎本ナリコ「時間の歩き方」(2) 
オレは
君の心を
傷つけた
ごめんよ
■時間の行き来をくり返し、とあるきっかけから時間に弾かれて、時空を彷徨うことになった果子と未来人の遇太。元の世界に戻る方法を探すため、遇太が訪れたのは、時間の流れぬ亜空間にある、時間刑務所。そこには、時間旅行で禁止時効を犯した時間犯罪者たちが、数多く収容されている。「刑務所」という響きからくるイメージとは異なり、内部は静寂に満ちている。そこで出会った、看守の男の話を聞いた二人は…
~1年半ぶりの新刊~
実に1年半ぶりの新刊、「時間の歩き方」の2巻が発売になりました。榎本ナリコ先生が体調を崩されていたということもあり、これだけ新刊の発売が遅れてしまったようです。相変わらず時間のルール、移り変わりなど、状況の整理は読んでいて非常に大変ではあるのですが、イコールでそこまで詳細に作り込まれているということでもあるわけで、読んでいて同時に非常に楽しい作品でもあります。今回遇太たちが訪れたのは、時間の流れることのない「亜空間」にある、時間刑務所。何かしらの時間ペナルティを受けた者(時間によるものではなく、ルール違反による人為的なペナルティ)が収容されるこの場所に、遇太の父親がいるのではないかという思惑から、訪れたのでした。しかし、突入早々に問題発生。そこの看守と偶然はち合わせてしまい、展開は思わぬ方向に。彼の企みを黙っていることと引き換えに、自分たちの突入を見逃してもらうという交渉を経た後に、彼のとある計画とその背景が明らかになってきます。2巻は果子と遇太の物語ではなく、その看守と、とある一人の作家の人生を巡る物語が描かれていきます。
~時間軸が違う者同士が交わること~
いつの時代も、人と人が交われば、そこに少なからず、「想い」が生まれる。しかし時間軸が違うもの同士が交わることは、後々に大きな影響を与えかねないということから、それは人の手によって強く禁止されています。未来のとある時点までを「確定事項」とするのであれば、その過程を変化させてしまうのは、あまりに影響が大きい…とかいう理由だと思います。でもその「未来のとある時点」を最後の最後まで伸ばし続けていったら、はじまりから終わりまで、全てが決まっているという風に考えることもできます。自分たちが生きている今は、未来人からみたら確定事項であり、ある意味全ては決まっている…なんて運命論的なお話を。。。ってあれ、なんの話でしたっけ?
~時間に囚われるのか、想いに囚われるのか~
そうそう、タラベルのお話です。100年前にタラベルし、そこで出会った女性と、深く関わるではないにせよ、顔なじみのようになってしまった。これ以上の深入りは危険と、タラベルする時を、5年後に指定して飛ぶのですが、それが思わぬ結果を呼び込む形に。

5年も覚えていてくれた
彼女・月乃の時間では5年、しかし作家・長雨の時間では1日も経っていませんでした。万事を期して、5年後に設定したものの、それが結果として彼女の想いを加速させてしまった。中途半端に同じ場所を指定してしまったのが運の尽き。期待はしていなくとも、場所まで変えることができなかったのが、男のなさけなさとだらしなさを表しているようで、なんとも切ない。罪悪感は、きっと計り知れないものであったでしょう。読んでいるこちらまでツラく、切なくなってしまいました。そして時間管制局に捕まってしまうのですが、その時の彼の台詞がなんとも
いかにも作家らしい、キザな台詞。しかし、彼女の心はその時点でそこまで傷ついているわけではありません。それでもこう、言わざるを得なかった。それは、彼がどこまでも罪悪感を抱いていたからなのではないかなぁ、と思うのです。その後彼は、50年間もの間を、刑務所で眠ったまま過ごすことになります。犯した罪に比べて、余りに重い刑期。それは、あれから50年もの間、月乃が長雨のことを覚えていたからでした。それはむしろ、時間に囚われているというよりも、想いに囚われているという状況。なんとも素敵で、そしてなんとも残酷でありました。
~相手の命に自分の人生を託す~
刑期は、月乃が長雨のことを忘れるまでということだったのですが、現大女将の回想を見る限りでは、月乃は死ぬまで長雨のことを忘れていませんでした。結果的に刑期は、彼女が死ぬまでと同じ期間ということになり、彼女の想いを捉え続けている時間を、長雨は刑務所で体感(と言っても寝てるだけ)することになります。しかしこの刑期、どうやって算出しているのだろうか、と思うわけですよ。ただ覚えているだけであれば、それは犯罪にはなりません。だって再会したらば、月乃は途端に長雨のことを思い出したのですから。今回彼が捕まったのは、月乃に想いを寄せられてしまったから。そしてその刑期は、月乃が死ぬまでの間でした。ということから考えられるのは、月乃が50年間も彼のことを思い続けていたという可能性…は薄くて、多分本線は、何か重大な関わりを持ってしまって以降の記憶の保持期間は刑務所入りというもの。しかしながら、記憶消去しても残るほどに強烈な記憶は、絶対に死ぬまで忘れないわけで、つまりこの手の犯罪の刑期は、干渉した相手の余命に関わってくるということになります。そう考えると、なんだか不思議。自分の人生のその後を、相手の人生に託すわけですから。
そうそう、ちなみに昨日今日と、舞台になっている伊香保温泉に行ってきたのですが、いい感じに萎びた温泉街でなかなか楽しかったです。茶色が濃い、鉄っぽいお湯でしたが、よく温まれました。なんだかタイムリーで、温泉街の思い出がいい感じに脚色されました。まぁあんな若くて可愛い女将はいなかったわけですが(笑)
■購入する→Amazon
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オレは
君の心を
傷つけた
ごめんよ
■時間の行き来をくり返し、とあるきっかけから時間に弾かれて、時空を彷徨うことになった果子と未来人の遇太。元の世界に戻る方法を探すため、遇太が訪れたのは、時間の流れぬ亜空間にある、時間刑務所。そこには、時間旅行で禁止時効を犯した時間犯罪者たちが、数多く収容されている。「刑務所」という響きからくるイメージとは異なり、内部は静寂に満ちている。そこで出会った、看守の男の話を聞いた二人は…
~1年半ぶりの新刊~
実に1年半ぶりの新刊、「時間の歩き方」の2巻が発売になりました。榎本ナリコ先生が体調を崩されていたということもあり、これだけ新刊の発売が遅れてしまったようです。相変わらず時間のルール、移り変わりなど、状況の整理は読んでいて非常に大変ではあるのですが、イコールでそこまで詳細に作り込まれているということでもあるわけで、読んでいて同時に非常に楽しい作品でもあります。今回遇太たちが訪れたのは、時間の流れることのない「亜空間」にある、時間刑務所。何かしらの時間ペナルティを受けた者(時間によるものではなく、ルール違反による人為的なペナルティ)が収容されるこの場所に、遇太の父親がいるのではないかという思惑から、訪れたのでした。しかし、突入早々に問題発生。そこの看守と偶然はち合わせてしまい、展開は思わぬ方向に。彼の企みを黙っていることと引き換えに、自分たちの突入を見逃してもらうという交渉を経た後に、彼のとある計画とその背景が明らかになってきます。2巻は果子と遇太の物語ではなく、その看守と、とある一人の作家の人生を巡る物語が描かれていきます。
~時間軸が違う者同士が交わること~
いつの時代も、人と人が交われば、そこに少なからず、「想い」が生まれる。しかし時間軸が違うもの同士が交わることは、後々に大きな影響を与えかねないということから、それは人の手によって強く禁止されています。未来のとある時点までを「確定事項」とするのであれば、その過程を変化させてしまうのは、あまりに影響が大きい…とかいう理由だと思います。でもその「未来のとある時点」を最後の最後まで伸ばし続けていったら、はじまりから終わりまで、全てが決まっているという風に考えることもできます。自分たちが生きている今は、未来人からみたら確定事項であり、ある意味全ては決まっている…なんて運命論的なお話を。。。ってあれ、なんの話でしたっけ?
~時間に囚われるのか、想いに囚われるのか~
そうそう、タラベルのお話です。100年前にタラベルし、そこで出会った女性と、深く関わるではないにせよ、顔なじみのようになってしまった。これ以上の深入りは危険と、タラベルする時を、5年後に指定して飛ぶのですが、それが思わぬ結果を呼び込む形に。

5年も覚えていてくれた
彼女・月乃の時間では5年、しかし作家・長雨の時間では1日も経っていませんでした。万事を期して、5年後に設定したものの、それが結果として彼女の想いを加速させてしまった。中途半端に同じ場所を指定してしまったのが運の尽き。期待はしていなくとも、場所まで変えることができなかったのが、男のなさけなさとだらしなさを表しているようで、なんとも切ない。罪悪感は、きっと計り知れないものであったでしょう。読んでいるこちらまでツラく、切なくなってしまいました。そして時間管制局に捕まってしまうのですが、その時の彼の台詞がなんとも
オレは
キミの心を傷つけた
キミの心を傷つけた
いかにも作家らしい、キザな台詞。しかし、彼女の心はその時点でそこまで傷ついているわけではありません。それでもこう、言わざるを得なかった。それは、彼がどこまでも罪悪感を抱いていたからなのではないかなぁ、と思うのです。その後彼は、50年間もの間を、刑務所で眠ったまま過ごすことになります。犯した罪に比べて、余りに重い刑期。それは、あれから50年もの間、月乃が長雨のことを覚えていたからでした。それはむしろ、時間に囚われているというよりも、想いに囚われているという状況。なんとも素敵で、そしてなんとも残酷でありました。
~相手の命に自分の人生を託す~
刑期は、月乃が長雨のことを忘れるまでということだったのですが、現大女将の回想を見る限りでは、月乃は死ぬまで長雨のことを忘れていませんでした。結果的に刑期は、彼女が死ぬまでと同じ期間ということになり、彼女の想いを捉え続けている時間を、長雨は刑務所で体感(と言っても寝てるだけ)することになります。しかしこの刑期、どうやって算出しているのだろうか、と思うわけですよ。ただ覚えているだけであれば、それは犯罪にはなりません。だって再会したらば、月乃は途端に長雨のことを思い出したのですから。今回彼が捕まったのは、月乃に想いを寄せられてしまったから。そしてその刑期は、月乃が死ぬまでの間でした。ということから考えられるのは、月乃が50年間も彼のことを思い続けていたという可能性…は薄くて、多分本線は、何か重大な関わりを持ってしまって以降の記憶の保持期間は刑務所入りというもの。しかしながら、記憶消去しても残るほどに強烈な記憶は、絶対に死ぬまで忘れないわけで、つまりこの手の犯罪の刑期は、干渉した相手の余命に関わってくるということになります。そう考えると、なんだか不思議。自分の人生のその後を、相手の人生に託すわけですから。
そうそう、ちなみに昨日今日と、舞台になっている伊香保温泉に行ってきたのですが、いい感じに萎びた温泉街でなかなか楽しかったです。茶色が濃い、鉄っぽいお湯でしたが、よく温まれました。なんだかタイムリーで、温泉街の思い出がいい感じに脚色されました。まぁあんな若くて可愛い女将はいなかったわけですが(笑)
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