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Tag [オススメ] [BL] 2010.11.07
1102942359.jpg雲田はるこ「野ばら」


僕はもう
二度と他人の人生を壊したくない



■両親を亡くし、若くして洋食カジワラの店主を務める梶原武は、そこに勤める離婚寸前の子持ち・神田惣一郎が最近気になって仕方がない。四十間際のオッサン相手が気になるなんて、とても変な話だけれど、他の男とは違う雰囲気を持っているのは確かだった。そんな中、武は神田不在中に離婚届をわたしに店を訪れた妻の冬子により、彼が元々ゲイであることを知る今までの自分への反応や態度から、神田が自分のことを好きなのではないかと思い当たるのだが…。小さくても華やかに、棘が刺されば痛いけど、それでも愛しい野ばらのような二人の人生がここにあります。

 久々のBL作品のご紹介です。雲田はるこ先生2冊目の単行本になります。4話完結の表題作の他、読切り2編を収録。それでは表題作をご紹介致しましょう。物語の舞台となるのは、とある小さな町の洋食屋さん。早くに両親を亡くし、祖母と共に洋食屋・カジワラを切り盛りする店主・梶原武は、そこに勤めるアラフォーの子持ち・神田惣一郎が最近気になる。華奢な体に、自分に対するちょっと変わった反応。その正体が何なのかわからないままであったものの、ある日離婚届を持って店に訪れた神田の妻により、その理由が明らかになります。それは、神田が元々ゲイであるというもの。既婚で子持ちという状況から、その発想は全くなかったものの、思い返せば思い当たる節も。そしてさらに思い返せば、神田が自分のことを好きなのではないかという考えにまで辿り着きます。それ以来、神田を強く意識するようになった武は…というお話。


野ばら
モネの存在が、二人を繫ぐ。この子がいなくとも、物語はまわったでしょうが、その関係は大きく性質の違うものになったはず。


 東京漫画社のマーブルは、そこまでドギツイ性描写がないため、自分でも比較的読みやすいレーベルとして認識しています。この作品も、BLでありながら、男のみの世界で回すのではなく、むしろ脇を固めるのは全員女性。主人公・武の祖母に、神田の妻、そして娘のモネの3人。祖母との関係により親子関係的な関係を、そしてモネの存在により、これまた親子愛、そして家族愛的な描写が加わり、個人的にはより読みやすさが加わったように感じました。またメイン二人の関係も、恋愛関係を通り越して、家族愛的な支え合いの精神から来る関係性が構築されていくので、拒否反応が出るどころか、むしろ自然に温かく状況を享受できている自分がおりました。
 
 あまりに遠慮するあまりに、女々しさが際立つ神田さんに若干イライラしつつも、年下らしくガンガン押していく武とのバランス感は絶妙。娘のモネ含めて、実に素敵な関係性を築いています。なんていうか、神田さんが女々しすぎているので、なんか3人いる構図でも、普通の親子を見ているようで、あまり違和感を感じないんですよね(笑)この話に限らず、絵柄がちょいと古めの少女漫画のそれを想起させる(読切り「みみクンシリーズ」で登場する、目の中にハートや、キラキラの多用など)のですが、時代感が明確になっていない上、その古くささが逆に懐かしさと温かさを生み出しているとも言えなくなく、これも一つの作風という捉え方が正しいのでしょう。表題作、読切り含め、やや変わった関係設定の元物語が展開されるのですが、描き出す気持ちはごくごくシンプル。やや大味に感じられる瞬間もあるかもしれませんが、わかりやすさはやっぱりプラス。良い作品でした。


【男性へのガイド】
→BLですので、そりゃ簡単には読めないかもしれないですが、家族愛的な部分に受け入れられる余地はあるかと思われます。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→描写の古くささは多少気になったものの、優しさと温かさ溢れる物語に感動。不自由な大人と自由な子どもの対比もしっかり落とし込まれ、終始物語を楽しむことができました。


作品DATA
■著者:雲田はるこ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:マーブルコミックス
■掲載誌:Cab
■全1巻
■価格:619円+税


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