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Tag [新作レビュー] 2010.11.10
1102969569.jpgいくえみ綾「爛爛」


ちょっと
ものすごい
天才なもので



■ここは野々花町一丁目。そこに住む双子姉妹の“あずき”と“ちまき”は中学2年生だが、とある事情で、あずきは他人に触れず、ちまきは帽子を脱げず、ふたりとも学校へは通っていなかった。いとこの有平だけが、二人のことを本当に理解してくれる気の置けない友達だったけど、ある日隣りに越してきた、有平と同い年の男の子・州浜琥珀と出会ったことで、摩訶不思議な物語の幕が開けた…!ここはここは野々花町一丁目、何がおきてもおかしくないの。

 いくえみ綾先生の、別冊マーガレットでの連載作となります。野々花町一丁目という町に住む、双子の女の子の物語。主人公となる双子は、とある事情で人に触れることができない“あずき”と、とある事情で帽子をぬぐことができない“ちまき”の二人。どちらも「ちょっとものすごい天才」ということで、普段は学校には通わず、テストの時だけ顔を出すという生活を送っています。そんな彼女達の友達は、いとこで年上の有平だけだったのですが、ある日お隣に有平と同い年の男の子・琥珀が越してきたことで、その状況は一変。琥珀に興味を持ったあずきとちまきは、有平も巻き込んで、ちょっと積極的にコンタクトを取っていきます。いつしか普通に話し、遊ぶようになった4人は、意を決して二人の秘密を琥珀に明かすのですが…というストーリー。子ども達が面白おかしく駆け回る、ファンタジックで摩訶不思議な物語となっています。


爛爛
天才ゆえの高い警戒心と、子どもゆえの強い好奇心。その間で、揺れに揺れる。


 主人公二人の秘密とは、超能力的なチカラを持っているというもの。人の肌に触れられないあずきは、触れた相手の本心が見えてしまうという能力を持っており、一度触れれば相手の嫌な部分が一気に脳内に流れ込み、気持ち悪くなってしまうのです。一方のあずきは、帽子を取ると空に浮かんでしまうという性質の持ち主。しかもそのチカラは触れた人間にも移るため、夜な夜な気分が良い時は、ちまきと一緒に夜間飛行を楽しんでいます。そんな二人が興味を持った、お隣さんの男の子。パッと見イケメン、けれどそれだけじゃない。実に不思議な感性を持つ主人公二人を相手にしても、全く動じることなく、むしろ話は合うし、興味も持ってくれるというまさかの展開。しかしそれは、単に彼が変な感性の持ち主というだけでなく、もちろん…というね。ちなみに従兄の有平は、良い意味で「バカ」という言葉の似合う、とっても単純で元気な男の子です。そんな4人が織り成す、摩訶不思議な物語。世界は小さくとも、事は大きい。不思議なチカラを持つ子どもの視点から、野々花町一丁目という町とそこに暮らす人々を覗くことが出来る、なんだか不思議な味わいのあるお話となっています。
 
 この作品で個人的に特筆すべきだと思ったのは、従兄の有平。何か特別なものを持っていて、かつ感性が合う者同士ということで、どんどん仲良くなっていく琥珀とちまきとあずき。そんな3人を尻目に、何も特別なものを持たない有平は、自分が本来いた「ちまきとあずきの理解者」という立場から追われていくような感覚を味わい、若干の寂しさを感じるようになります。しかしそれでも年上だからと、己のスタンスを崩さない彼。登場人物の中では、一番能力的に平凡で、一番作りが単純な男の子。けれども特殊な性質の持ち主達が集う中で、唯一普通である彼は、読者と物語の世界との間のギャップを埋める架け橋となってくれます。「ドラゴンボール」にヤムチャ視点が欠かせないように、また彼の存在も必要不可欠なのです。1巻完結の短い物語の中、彼視点での物語を一話用意したいくえみ先生は、本当に素晴らしいと思うし、実際に彼視点のお話があったからこそ、物語は宙に浮かんでどこかに飛んでいくということありませんでした。


【男性へのガイド】
→これは読み手を選ぶいくえみ綾作品のような気も。男性も読めないことはないと思いますが。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→万人に受ける内容ではないと思うが、やはり節々に見せる上手さには唸らされてしまいます。


■作者他作品レビュー
いくえみ綾「いとしのニーナ」
いくえみ綾「そろえてちょうだい?」
いくえみ綾「潔く柔く」


作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:438円+税


■購入する→Amazon

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TEL+FARは危険!
From: OZ * 2012/04/18 15:12 * URL * [Edit] *  top↑

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