
真川
好きなんて言ってゴメン
■言うつもりのなかった「好き」。受け入れられると思わなかった「自分」。考えもしなかった「関係」。好きだとだけ伝え、キッパリふられ、諦めよう。そう考えた美成は、後輩の真川に好きだと伝えた。しかし予想外に、その想いは受け入れられてしまう。しかしまともに人と付き合ったことがなかった美成は、受け入れられたら受け入れられたで、どう振る舞えば良いかわからない。好きな相手と向き合うのが、こんなにも怖くて、こんなにも幸せだなんて知らなかった…戸惑いながらもひたむきにする恋愛は、もどかしくて甘い。
ヤマシタトモコ先生のBL作品でございます。東京漫画社のマーブルということで、えげつないエロシーンはなし。とある一組の不器用なカップルを描いた、物語となっています。主人公は、地味な性格で、派手な幸せは追い求めないタイプの男・美成。自分がゲイであるという時点で、恋愛方面においては何も期待していない彼は、ある日キッパリあきらめることを目的として、バイト先の後輩・真川に「好きだ」と伝えます。しかし彼の予想とは異なり、なんとその告白が受け入れられてしまい、二人は両想いに。しかし付き合ったことも、そもそも付き合うということを夢想したこともない美成は、この状況に戸惑いまくり。どう振る舞えばいいのか、どう対峙したら良いのかわからず、ただただお互いに困惑していきます。けれども好きだという気持ちは変わりません。受け入れられて初めて直面する戸惑いに、正面から向き合っていく、そんな不器用な美成の一つの「恋」を、丁寧にそして少しおかしく描き出していきます。

恋愛ひとつで大泣き。しかも想いが通じているのに。そんな不器用さを持つ主人公。
主人公の美成は、とにかく好きな相手と付き合えるという発想がない人間。一応肉体関係を持つ相手はいますが、あくまで遊び人の相手ということで、付き合うとは違うという線引き。それゆえに、気楽さもあり、本当に付き合うとなると戸惑いまくりという状況に陥ってしまいます。そんななか発する、美成の台詞が、いちいちツボ…
「…つ つき合うってなんだ?」
「東京ウォーカー……それが正解?」
他にも絵文字を使う後輩に合わせて、なんとか絵文字を使おうとしたり。少女漫画のヒロインとかと、やっていることはある意味同じなのですが、彼はこの歳でしかもゲイということから、幸せを望まない体質が根深く染み付いてしまっています。だからこそ、抜け出すのが困難で、そして見ていてとても微笑ましくかわいらしい。ここまで不器用な男がかつていただろうかというくらい、印象的な存在となりました。
その他にも、読切りが3編ほど収録されています。それらは純粋な友情を起点としたような、若さ溢れるものから、女性が主人公となっているお話、そしてドMとゲイという異色の組み合わせのコメディと、様々。どれも上手いこと纏まっており、短編として見てもお得な一冊となっているのではないでしょうか。
【男性へのガイド】
→BLですのであれですが、レーベル的にも男性にとってはハードル低め。主人公が女性のお話もありますし。とはいえあくまでBL基準でございますが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→ヤマシタ先生のBLは何作か読んできましたが、やっぱり東京漫画社での作品が良いなぁ、と。なんとも不器用で、華やかさはないですが、それがまた良し。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー* ヤマシタトモコ「Love,Hate,Love.」
女はみな、かわいげな獣:ヤマシタトモコ「HER」
処女女子高生と裸族を同居させると…:ヤマシタトモコ「ドントクライ、ガール」
作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:東京漫画社
■レーベル:マーブルコミックス
■掲載誌:BGMほか
■全1巻
■価格:619円+税
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