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目が覚めたら私、超嫌われ者でした…:池谷理香子「シックス ハーフ」1巻関連作品レビュー→
池谷理香子「微糖ロリポップ」
池谷理香子「シックス ハーフ」(2)
どうしよう
あたし
このままじゃ完全に変態だ■2巻発売しました。
バイクで事故って、記憶喪失になってしまった詩織。喪失前の自分がどんなだったかもわからず、妹からは嫌われ、学校でも孤立。そんな中、唯一親身になって支えてくれた兄の明夫から、「嫌いだ」と言われる映像がある日詩織の脳裏に浮かぶ。過去の記憶なのか、それともただの想像なのか。記憶がないという免罪符がゆえに、戻ったときが怖い。思い悩む詩織の前に、明夫と幼なじみだという瑞希が現れるけど…!?
~記憶が戻るのが怖い~ さて、久しぶりですが2巻の発売です。記憶喪失という設定を、どう活かすかが注目のこの作品ですが、2巻も、というか巻を重ねたことでより面白くなってきました。記憶が戻らないヒロインを支える兄…なんて単純に語れるほど美しくシンプルな物語ではなく、そこに渦巻くのは、嫉妬、欺瞞、疑念…。記憶が戻らない辛さよりも、過去がわからない気持ち悪さが先行し、疑念渦巻く爽やかさ皆無の物語が展開されています。誰を信じれば良いのか、せめて自分を信じようにも、この世に意識を持って落ちてきたのがたったの2か月前。2か月でこの世界を生き抜くだけの、心の強さを持つのは、簡単ではありません。そして唯一頼りにしていた兄に、もし嫌われているのだとしたら…新しい関係で重ねる時間が増えれば増えるほどに、その恐怖は増していきます。

「記憶が戻るのが怖い」それが詩織の率直な想い。
1巻からすでに、記憶が戻って欲しいなどという願いはヒロインにはなく、しかしその心持ちが、今になって弊害をもたらすという構造。うーん、面白い。
~記憶喪失だけでなく…~ 1巻の時点では、記憶が戻らないことだけに絞って物語を進めていましたが、2巻からはさらにプラスアルファのダブルテーマで物語が進行。それは、詩織が実の兄である明夫に恋心を抱いてしまうというものでした。しかし一度鮮明に浮かび上がった、「嫌いだよ」と彼に告げられる光景に、今度はまさかのかわいい幼なじみの登場。詩織はどんどんとフラストレーションを溜めていきます。なんてその結果が、自分の恋心の自覚だったわけですが、実の兄に恋というのはまた驚きの展開です。確かにそういう傾向は見せてはいましたが、本当にそうしてくるとは。記憶喪失に、実の兄妹での恋愛、前者の上に後者が乗るという形ではありますが、ある意味鉄板の設定が二つ、贅沢に楽しめる内容となっています。
~汚いところも描く~ 一旦記憶喪失になれば、実の兄という血縁をそこまで感じないものなのでしょうか。なんとなく、家族というのは重ねた時間で作るものなのだという、作者さんの考えのようなものが感じられます。その考えは一貫していて、まだ時間を重ねていない自分よりも、家族ぐるみで付き合いをしていた瑞希の方が家族的なポジションを獲得しているという光景を目にしても、やはり。とはいえ瑞希も瑞希で問題ありで、真に家族的なポジションを獲得しているわけではありません。明夫に近づきたいがために、詩織をのけ者にするような形をとってしまった過去(詳細は明かされず)を持ち、それが今になって皺寄せとして現れてきます。ライバルでも、キチンと汚いところ(しかもそれが直接的にヒロインに悪意として向けられるわけではない)を描き出す所が、池谷先生のすごいところ。全員が全員、後ろ暗さや隠し事、そして負の感情を持っており、それが結果として、この作品の面白さを生み出しているのだと思います。
~帯がすごいことに~ 今回、もの凄い帯になっています。表紙側には、彼女に飛ばされた罵倒や陰口などがつらつらと…。それだけならまだ良いのですが、裏を見てみると、兄、元カレ、親友、幼なじみ、妹の5人からそれぞれ悪口を言われるという構図。
2巻帯「あたしって一体…!?」どころじゃないです、詩織さん。この中で一番インパクトあるのは、やっぱり妹ですかね。ひとりだけベタオンリーの彩色で、「死ねば良かったのに…」。
なんか彼女だけシュール系ギャグ漫画から飛び出してきたような印象があります。一人だけとにかく異質なんですよ。とはいえ、作中では彼女はどちらかというとわかりやすく、安心してみていられるキャラなんですよね。一番不気味なのは、どう考えても兄。自分への悪意を、しっかりと露にしてくれる人はむしろわかりやすく良いのですが、好意を向けてくれる人に関しては、信じて良いものなのかどうか…。絶対に簡単には終わらせてくれないでしょうし、3巻の展開もまた楽しみです。ちょっと怖いですけど、それもまた作品の面白さ。
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