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Tag [オススメ] [BL] 2010.11.23
32179813.jpg小椋ムク「センチメンタルガーデンラバー」


おおきな
手をください
比呂を守れる
体が欲しい
どうか どうか どうか…!!



■野良猫のフジは、名前と付けてくれた優しい人間の比呂が好き。日々エサを貰っては、彼のひざの上で撫でてもらうのが楽しみ。ずっと側にいたいけれど、比呂のところには時々やって来る恋人らしき男がいた。しかも最近その男が比呂に乱暴をするようになったのをフジは知っている…。けれど自分は、猫だからなにもできない…。神様どうか、比呂を守れる、比呂を包み込んであげられる、おおきな手をください…!そう願ったフジの身に、起こった思いもよらない出来事とは…?野良猫フジとシマの、可愛いあったかファンタジックラブ、登場です。

 小椋ムク先生のBL作品でございます。昨年刊行されました、このBLがやばい!にて8位という高評価を得たこの作品。自分は全く知らず、単に東京漫画社だったから買ったのですが、良かったですよ!読み終わってほわほわしてました。猫と人間の優しい関係を描いた、可愛らしさと温かさの溢れる作品となっています。表題作は3編1シリーズ。主人公となるのは、野良猫2匹です。いつもエサをくれたり、撫でてくれたりする、名付け親の比呂が大好きなシマ。いつも一緒にいたいと願うけれど、彼には恋人の陰が。しかし最近、その恋人が比呂に暴力を振るっているようで、比呂の表情も彼を前にしたときは浮かない。自分は猫だから、彼にしてあげられることは少ない。せめて、彼を守ってあげられる、彼を包んであげられる大きな手があれば…!そう強く思ったシマは、気がつけばなんと人間の姿に。裸で言葉も喋れず、パニック状態の彼を、比呂は保護してくれたのですが…という流れ。


センチメンタルガーデンラバー1
側にいるだけでは足りない、言葉が欲しい、大きな手が欲しい、そんな願いが、彼らを人間の姿にさせた。



 あれ、野良猫2匹じゃないの?という問いかけもありそうですが、2話目はもう一匹の野良猫・シマが主人公となります。こちらもまた、心優しい飼い主に拾われ、ふとした出来事から強く言葉が欲しいと願った結果、人間になってしまうというストーリー。擬人化ともまた違う、完全な「人間化」を物語の要素として落とし込んだ形になっています。猫は猫らしく、寂しがりやでかつ、突然の人間化に適応できず戸惑い、一方の人間もまた、共通して今の恋人と上手くいっていないという状況にあり、そんな自分を優しく気遣ってくれる猫に心許しやすい状況になっています。猫たちの、大切な人を幸せにしたいという一途な願いは、恋愛という段階には足を踏み入れていない感情で、男の自分でもとても共感できる感覚でありました。一方の人間視点でも、男同士というところは置いておいても、恋人と上手くいっていないという状況そのものは甘受可能の感覚。そんな中ピュアに自分を思ってくれる存在がいたら、そりゃあ嬉しいしほわほわするし、にやにやしてしまうってもんです。

 表題作に関して言えば、主人公が猫ということもあるのでしょうか、リビドー起因のギラギラとした感情は一切なし。優しくも切ない関係性を描き出すことに絞った、実にイノセントな物語となっています。同時収録の読切りも、一作性描写があるものの、あってもキス止まり。どれも弱々しい優しい性格の持ち主に、不器用な男の子がお相手という組み合わせで、お互いに遠慮し合いながら、ワレモノを触るような接し方をするその様子が、切なさを想起させて実に良いです。表題作はもちろんのこと、不良少年と本屋の少年の心の通い合いを描いた「こころから」もまた秀逸。秀逸というか、そこまで作品としてBLを評価するアンテナは持ち合わせてはいないので、多分自分の好みの感覚とガッチリ合わさったと言う方が正しいのか。とにかくタイトルにあるような、センチメンタルさが際立った一作。エロ描写の無さは、有り余るピュアさに変換。男性にも読む余地が多分にある一作に仕上っていると思います。少なくとも個人的には、今まで読んできた中でもかなり上位に入るBL作品かと。


【男性へのガイド】
→BL基準でいえばかなり読みやすいのではないかと思います。あくまでBLですけど、ラブだけでない様々な優しい感情があるので、その分。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→表紙の絵柄で若干敬遠していたのですが、これは良かった。オススメですっ!


作品DATA
■著者:小椋ムク
■出版社:東京漫画社
■レーベル:マーブル
■掲載誌:カタログ
■全1巻
■価格:619円+税


■購入する→Amazon

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