このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.11.25
1102980004.jpg磯谷友紀「屋根裏の魔女」


誰かを泣かせたり
誰かを苦しめても
こうやって
誰かとつながっていくしかないんだな



■高校の文化祭に向けて準備が進む季節。演劇部が企画しているのは、舞台「魔女リリト」。聖書に登場する、「夜の魔女」リリトを描いた物語だ。脚本担当の明日実は、幼なじみの朝実と放課後、話をしながら脚本を考えているときに、ふと自分の中に眠っていた「魔女」の存在に気づく。大人になる直前、不安定に交錯する恋と揺れ動く心模様を、鮮やかに、そして残酷に描き出す、オムニバス・ストーリー。

 「本屋の森のあかり」(→レビュー)の磯谷友紀先生の描く、オムニバス・ストーリーです。舞台となるのは、とある高校。文化祭が迫り、各部、各クラスが準備を進める中、演劇部は舞台「魔女リリト」の準備に動いていた。脚本担当の明日実は、ふとした瞬間、自分の中に眠っていた「魔女」の存在に気づくが…というところから、物語はスタート。魔女の存在に気づくと言っても、魔法が使えるとかいうファンタジックなお話ではありません。男をたぶらかす、孤高な存在としての魔女。一種の比喩表現として、「魔女」という言葉が用いられます。大人になる直前、友情に、恋に、不安定に揺れ動く少女たちの心を描き、そんな彼女たちを「魔女」とする。初々しさや爽やかさではない、むしろ苦みが効いた甘くない物語。舞台「魔女リリト」に関わる生徒達のそんな心模様が、オムニバス形式で描かれていきます。


屋根裏の魔女
心情描写をモチーフに託すだけではなく、言葉でもしっかりと伝える。よりわかりやすさ、親しみやすさが出ますよね。


 リリトとは、聖書などに登場する夜の妖怪で、夜の魔女とも言われる存在なのだそうです(Wikipedia参照)。物語のスタートは、幼なじみとの関係に悩む女子高生がヒロイン。ずっと好きで、幼なじみと一度付き合ったものの、付き合ったらなんだか関係そのものが気持ち悪くなってしまい、別れて今に至ります。舞台「魔女リリト」の脚本を書いている刹那、ふと自分の中の魔女を自覚、幼なじみに対して思わぬ行動をとってしまいます。そんな自分を、魔女リリトに重ねるのですが、彼女に限らず、登場するヒロイン達は、どこか寂しげであり、悲しげ。魔女とは即ち寂しき存在ではあるのですが、女子高生をヒロインとしている物語でこの徹底っぷりはなかなかのもの。それゆえに少女達の心模様が瑞々しくはっきりと映し出されており、作品全体が独特の雰囲気で包み込まれています。
 
 自分の中だけにある秘めた想いに、どう対処してよいのか分からず、結果彼氏や好きな相手に対して思わぬ行動を取ってしまう。そんな彼女に対し、予想外の行動で受けとめてくれる相手役が、この作品たちの肝。ヒロインの脳内だけで完結してしまいかねない様々な悩みを、相手役の男の子達が引き出し、動きに変える、その展開のさせ方が毎度上手。恋に悩む魔女という存在は、男がいるから成り立つわけで。けれども男達は、自分が与えた影響に気づけず、時に相手を魔女だとすら思う。そんなある意味一方通行同士の関係が、自分も高校生の時に抱いていた人間関係での悩みを想起させ、時折ギュッと胸をつかまれたような感覚に陥ることがありました。全体での物語構成も綺麗。1話目で持ってきた話の結末を、視点を変えて最後の話で迎える。しかも万事オッケー幸せ一杯という形ではなく、喪失感の中に、小さな希望が浮かぶという形がなんとも。リリトをはじめ、聖書ネタを物語に落とし込み、統一感も演出。うん、これは良かった。一冊通して、大事に大事に読んでもらいたい作品です。


【男性へのガイド】
→女性こそ読んで面白いのかもですが、甘ったるい恋愛描写などはあまりなく、男性でも読める方は多いのではないかと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→「本屋の森のあかり」とはまた違った面白さ。こんな作品も描けるのかという驚きと喜びを、あなたにもぜひ味わって頂きたい。


作品DATA
■著者:磯谷友紀
■出版社:講談社
■レーベル:KCDX
■掲載誌:Kiss
■全1巻
■価格:562円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「Kiss」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。