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Tag [新作レビュー] [オススメ] [読み切り/短編] 2010.11.30
1102980041.jpg香魚子「隣の彼方」


人の体に傷つけるくらいなら
わたしを傷つければよかったんだ   



■読切り4編を収録。それでは表題作をご紹介。
 家が隣同士の凌太とは、小さい頃からよく家族ぐるみで一緒にいたけど、中二でクラスが離れてからは、ほとんど話をしなくなってしまっていた。高校生になり、同じ学校へと進学したあやは、3年ぶりに凌太と同じクラスになる。「宿題終わったら見せて。」「ええー?今のうちからそんなで、この先大丈夫?」「中学も高校も同じ学校行くから。帰りはボディーガードしてやるし。」「ふーん、ありがと。」…そんな会話を、小学校の時にしていたことが、今では信じられない。中学の時、あの日あの時、彼の放った言葉が、私の返した言葉が、今も心の奥にトゲとして残る。また元通りに戻れるかもしれない、そんな淡い期待を抱きながら、迎えた春   
 
 香魚子先生の読切り集でございます。1冊目の読切り集「さよなら私たち」(→レビュー)がものすごくツボで、全力でオススメしたのですが、今作もまた、痛々しいまでに切なく、むき出しになった少女達の心情が迫ってくる珠玉の読切り集となっております。表題作は「隣の彼方」。表紙に映る少女が主人公となるこのお話は、お隣に住む同い年の幼なじみとの関係を描いた物語。昔は仲良く過ごしていたものの、中学の時、幼なじみの凌太から告げられた想いを蔑ろにしてしまい、以来話すこともなくなってしまったヒロイン・あや。そんな二人が、同じ高校へと進学し、3年ぶりに同じクラスに。あの時から、ずっと彼のことを気にしていたあやは、もしかしたらこれをきっかけに元に戻れるかもと期待を抱くのですが、いつの間にかモテるようになりチャラさが増した凌太は、期待とは裏腹にあまり相手にしてくれません。それでも同じクラスである以上、何かと一緒になることは多く…というストーリー。


隣の彼方
この、切ないような、悲しいような、虚しいような、様々な感情が混ざったような表情が本当にツボ。表情の機微がわかりやすい女の子に対して、男の子は驚くほどに無表情。その辺もまた、女の子の表情の移り変わりを際立たせる。


 先の「隣の彼方」のあらましを読んで頂いてもわかるかと思いますが、特別な状況設定がされているわけではありません。どこにでもありそうな、そこら辺にありそうなシチュエーションで、物語は展開されます。けれども、その物語が度々グサリと心に突き刺さってくる。どこまでも透明感のある作品の空気感は、透明すぎるあまりに、ヒロインの心の内すらも包み隠すことなく見せつけてくるのですが、それが結果キレイで嬉しい部分よりも、悲しさや切なさを先行させる要因になっているのかもしれません。詩的なモノローグでは語らず、ありのままの事実と、その時の素直な気持ちを、丁寧に、丁寧に。どのお話もキラキラ綺麗な部分だけを見せるお話ではなく、ひとつふたつと重い要素を入れてくるのですが、そこから生まれる言葉たちがまたぐさぐさと心にささるのですよ。帯にある…

人の体に傷をつけるくらいなら
わたしを傷つければよかったんだ

 という言葉。物語を読む前は、ヒロイン自信の罪悪感から来るものなのかな、なんて思っていたのですが、まさか愛の告白とは。こんなにもスゴい愛の言葉は、少女漫画で見たことがないってくらい、衝撃的でした。
 
 その他収録されている読切りですが、個人的には「ひみつみっつ」がオススメ。仲良し女子3人組の関係を描いたお話なのですが、香魚子先生の描く女性同士のぶつかり合いというのが、実に面白いのですよ。汚い感情、独りよがりな考え…男としては、あまり見たくない、負の感情を隠すことなく、物語に投入。そのぶつかり合いから目が離せません。特にビンタ。なんていうか、このお話のビンタは、本当に痛みが伝わってくる感じです。心の痛みとでも言うのでしょうかね。ミニマムな世界の枠で物語が進行するあたりも、他の同時収録の作品に比べて親しみやすさがある気がします。
 
 残り2作、フルカラーのショートストーリー「ノストラダムスと榊くん」は、SFチックなお話。ショートストーリーらしからぬ、設定ながら最後しっかりまとめあげ、しっとりと終わらせます。カラーだけど、色使いが淡く、その辺も作品の雰囲気とマッチしている感じ。また最後の一作「Keep a diary」はひと捻りした、かなりブラックな作品に仕上っているのですが、最後に救いを示してくれたので、読後感は思いのほか良好。どれもマーガレットらしからぬ、独特の空気感が流れる作品となっておりますが、それでこそ香魚子先生。今回も全力でオススメ致しますよ!


【男性へのガイド】
→男性にもぜひとも読んでもらいたい一冊。女性同士のぶつかり合いも、一途に恋する様子も、見ていてとっても美しい。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→前作同様、これはオススメしないと。苦み、辛み、酸っぱみ溢れて、最後にほのかに甘い、そんな作品集。素晴らしかったです。


■作者他作品レビュー
香魚子「伯爵と妖精」



作品DATA
■著者:香魚子
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:438円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「別冊マーガレット」コメント (4)トラックバック(0)TOP▲
コメント

こんにちは。

巻頭の作品がフルカラーだったので驚きました。
それで値段は据え置きって、集英社って太っ腹・・・と思ってたら、ちょっとだけ高かったんですね。

「隣の彼方」って何となくSFっぽいタイトルだと思ってたのですが(巻頭の作品も「ノストラダムス・・・」だし)、ぜんぜん違うんですね。

いつのまにか別マで連載はじめてたんですね-。
こちらも楽しみですが、「伯爵と妖精」のペースが落ちるってことなのか、ちょっと心配です。
From: しろくま * 2010/12/03 18:55 * URL * [Edit] *  top↑
いつもたくさんのレビューありがとうございます。私は女なんですが、とても参考になるので購入する際には拝見させてもらっています。
以前、こちらを参考に香魚子先生の「さよなら私たち」を購入し、一発でファンになりました。今作もすぐに読んだのですが、すごく切なくてもどかしい思いでした。オススメ作品として選出されていて嬉しくてコメントしてしまいました!
これからもお身体に気を付けて、更新頑張ってください。
From: ごま * 2010/12/05 14:52 * URL * [Edit] *  top↑
ちょいと高めですが、内容的に納得の値段かな、という印象です。

別マ連載のシトラスも評判良さげで今から楽しみです。
オリジナル連載をずっと心待ちとしていた身からすると、
おそすぎだよ!と(笑)
From: いづき * 2010/12/12 23:59 * URL * [Edit] *  top↑
>>ごまさん

こんなブログタイトルですが、お客様は女性の方が多かったりします(笑)
「さよなら私たち」を読んだときは衝撃でした!
今作も期待通りのお話達で、本当に心から楽しませてもらいました!
ゆるゆると更新続けていきたいと思います。
ありがとうございますー
From: いづき * 2010/12/13 00:01 * URL * [Edit] *  top↑

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