このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.01.13
1103001562.jpg天堂きりん「手のひらサイズ。」


私たちは
幸せになれますか?
未来は
誰にもわかれへん



■お母ちゃんは、アタシが3歳、朝ねえちゃんが5歳、弟のほーちゃんが赤ちゃんのときに離婚した。とっても明るいお婆ちゃんに、逞しく時に厳しい母、しっかり者の長女に、おっちょこちょいな次女、そしてまだ洟垂れガキンチョの長男。貧乏だけど、それにも負けず、逞しく楽しく前向きに。温かな視点で描く、家族の危うさ、難しさ、素晴らしさ。。。なんいわの家族をめぐる、感動の人間模様!

 最近では「おひさまのはぐ」(→レビュー)を描いた天童きりん先生の新作でございます。今回は恋愛ものではなく、家族もの。夫との離婚を経て、祖母、母、子ども3人でぼろ家に暮らす大阪の一家を中心に描く、なにわ人間模様。メインで描かれるのは、表紙に映る3人の女性。子ども3人を養うため、日々の仕事に加えアルバイトまでこなす、厳しい母の灯里、大変な母を目の前にクールなしっかりものに育った4年生の長女・朝ちゃん、そしてとっても明るくちょっとおっちょこちょいな性格の小学2年生の次女・みゆう。家族を支えるもの、そして子どもとはいえ親の事情は理解できる歳の子、そして事情はわかるがまだまだ自分の思いを素直に通したい幼い次女。それぞれの視点から描く、家族内外の模様を、温かく切り取っていきます。


手のひらサイズ
いつもはつとめてしっかり者でいる子が、こらえきれず泣き出してしまう。こういうのに弱いんですよ。。。


 大阪が舞台ということで、非常にかしましいというか、賑やかな家族模様が描かれるのかと思いきや、むしろ印象的には逆。登場する子どもたちは、それぞれに裕福貧乏様々ながらも、それぞれに家庭の事情というものを抱え、心に少しの傷を抱えて日々を送っています。世代間での描き出しはあるものの、メインとなるのは長女・朝ちゃんを中心とした、4年生世代。いつまでも何もわからぬ子どもでいられない、けれどもその問題を抱えるには、キャパが小さ過ぎるし、どうしたらよいか分からない。それでも精一杯に、自分を支えてくれる人を守ろうとする、その一生懸命さと純粋さが本当に切なく、そんな彼ら彼女らを優しく抱いてくれる周囲の人間が、本当に温かいです。タイトルの「手のひらサイズ。」、それぞれの手の大きさは違うものの、その中で掬えるものを、掬おうという、そんな彼ら・彼女らの様子を表しているような、素敵なタイトルだと思います。
 
 結果として描かれるのは家族の絆や、人間の繋がり、温もりといったものですが、その過程はけっこう重ためで、しんみりしがち。大人だけで回すなら、重たいだけでもOKかもしれませんが、子どもがいるから、それだけだとちょっと厳しい。そんな重たさを、大阪という土地柄が、上手いこと緩和してくれている印象です。しかし、長女の朝ちゃん、かわいいですねー。大阪弁って、どちらかというと元気で時にやかましいぐらいの女性がデフォルトって印象だったのですが、彼女は憂いを帯びた表情から、ズバッとクールな言葉を関西弁で放ちます。こういうのも良いなぁ、とちょっと思ったのでした。なんて、まだ小4だから可愛げがありますが、大人の関西の方に、大きな声でズバッと言われたらきっと自分は死んでしまいます。



【男性へのガイド】
→家族的な温かさを描いた作品がお好きな方は、是非。恋愛要素は基本的にナシ。女手で支える視点というところにいかにシンクロできるかでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→温かい気持ちにさせてくれる、素敵な作品でした。面白かったです。



作品DATA
■著者:天童きりん
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:933円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「フィール・ヤング」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。