作品紹介→*新作レビュー* 勝田文「ちくたくぼんぼん」
勝田文「ちくたくぼんぼん」(2)
美しい鐘の音
これは恋した瞬間の音
■2巻発売しました。
善行に励むイワは、失恋乙女・央子をかくまうことに。塞ぎがちで自分のことをあまり話さない彼女の気持ちは良くわからなかったけれど、とにかく善行、彼女のためにとイワは走り回る。だが勝手に都一の部屋に入った央子ともみあって、大事なレコードを割ってしまう。絶望したイワは、三五に心中をもちかけるけれど…!?
~待望の第2巻~
1巻発売は2009年末、およそ一年ぶりの新刊となりました。1巻発売時は2話のみの収録であるにも関わらず、がっしりと心掴まれ、年末のオススメ作品ピックアップでも取り上げてしまったりしました。で、今回の2巻なのですが、全て表題作「ちくたくぼんぼん」収録で、本当に本当に面白かった。こんなに素晴らしい作品が読めることが嬉しくなって、帰省の新幹線の中で思わず目頭が熱くなったという(笑)だからこのレビュー、結構気合いを入れて臨んでいるのですが、正直なところ、この作品の魅力を伝えきれる自信が全くないです。いつものレビューでも、魅力を伝えられている感覚は全然ないのですが、それでもなお、語りたい魅力が多すぎるので。。。さてさて、だいぶ前置きが長くなりましたが、内容に触れて行きましょう。
~時計に重ねる~
この作品、タイトルにもなっているように、「時計」がメインモチーフとなっており、物語中では何かにつけて時計に重ね合わせて物事が語られます。三五の、イワの胸の鼓動から始まり、2巻ではその傾向がより顕著になりました。今回は大きな女の子・央子とのやりとりが序盤のメインコンテンツとなるのですが、彼女と彼女に思いを寄せる幼なじみの関係を、ミステリィ時計で表してみたり、央子の空中ブランコの様子を時計の振り子で表してみたり。また時計の鐘の音を、「恋をした瞬間の音」としたり、懐中時計を三五に重ねてみたり。「時間」と「心」と「関係性」を、「時計」という一つのモチーフに集約する、その上手さと美しさに、手法的な感動すら覚えてしまいます。無理矢理感もなく、物語として必然という持っていきかたがまたすごいというか。
~視点変化の秀逸さ~
この作品の、この物語の何がすごいと感じるのか、まだまだ説明できるようなレベルに噛み砕けていないので、当然のことながら説明など出来るはずもないのですが、読んでいてすごいなぁと思ったシーンを例に、少しでも感じてもらえればなぁ、と思います。それが、イワがサーカス団の助っ人となって、央子の空中ブランコの様子を見守るシーン。コマ背景が黒塗りになって、4ページに渡って一つのまとまりとして描かれるのですが…

まずは1・2ページ目。央子の台詞から始まるこのシーンなのですが、2コマ目以降はイワのモノローグが語られ、モノローグ的な視点は彼女に移ります。以後3ページ目まで彼女のモノローグが綴られるのですが、2ページ目最後のコマは、ひっくり返っているように、画的な視点は宙を舞っている央子のもの。二つの視点が、異なるアプローチで同居していることになります。

そして3~4ページ目。2ページ目左下に施されたコマ外の装飾が、今度は3ページ目右上に当たる形で繋がりを演出。この左下と右上という配置がまた絶妙なんですよ。単純に視点の流れという意味での繋がりを持たせるだけでなく、先の画的な視点の移り変わりという意味で、2ページ目は央子視点のひっくり返っているコマにかかる位置で左下、そして3ページ目は再びイワの視点に戻る形で右上での配置。
またモノローグのラストで三五と時計の事に触れ、央子メインであった物語から一気に転換。そして4ページ目は三五の視点へと転換し、左下のコマ背景を白抜きにすることで次のシーンへと繋げます。この流れの作りが、ただただすごいなぁ、と。そしてその中で違和感を放つ、4ページ1コマ目。実はこれも、先の空中ブランコのコマのように、上下が逆になっているんですよね。しかもシーンとしては、雨がしとしと降る港。雨が降るシーンを、敢えて上下逆で描くという。。。変です、すごく変なんです、違和感があるんですよ。でもそれがすごいと思えてしまう。多少の違和感があることで、よりこのシーンに深みが増す印象すらあります。
~コウモリと人間~
物語ラスト、三五はその姿を消してしまいますが、これもまたとある存在と重ねられたシーンでありました。それは、1巻にて登場した、コウモリの三五。名前だけでもあからさまにその姿が重ねられていますが、怪我を負っている:病気を抱えているなど、その状況、行動なども被る部分が多いです。今回時計屋から姿を消した三五ですが、コウモリの三五も時計から飛び出し、その姿を消してしまいました。このままコウモリの三五に重ね合わせたら、もうイワの元には戻ってこないことになってしまいますが、帰る場所、帰る仲間のいるコウモリの三五とは違い、人間の三五は今の場所以外に帰る場所はありません。飛び出したという部分で重ねるのではなく、あるべき場所に戻ったという捉え方で、最後三五がきっともどってきてくれることを期待して3巻を待つのでした。ああ、今から楽しみで仕方がないです。多分3巻が出るのもだいぶ時間がかかるのでしょうが、それでもそれでも、いつまでも待ちたいとおもいます。
■購入する→Amazon

美しい鐘の音
これは恋した瞬間の音
■2巻発売しました。
善行に励むイワは、失恋乙女・央子をかくまうことに。塞ぎがちで自分のことをあまり話さない彼女の気持ちは良くわからなかったけれど、とにかく善行、彼女のためにとイワは走り回る。だが勝手に都一の部屋に入った央子ともみあって、大事なレコードを割ってしまう。絶望したイワは、三五に心中をもちかけるけれど…!?
~待望の第2巻~
1巻発売は2009年末、およそ一年ぶりの新刊となりました。1巻発売時は2話のみの収録であるにも関わらず、がっしりと心掴まれ、年末のオススメ作品ピックアップでも取り上げてしまったりしました。で、今回の2巻なのですが、全て表題作「ちくたくぼんぼん」収録で、本当に本当に面白かった。こんなに素晴らしい作品が読めることが嬉しくなって、帰省の新幹線の中で思わず目頭が熱くなったという(笑)だからこのレビュー、結構気合いを入れて臨んでいるのですが、正直なところ、この作品の魅力を伝えきれる自信が全くないです。いつものレビューでも、魅力を伝えられている感覚は全然ないのですが、それでもなお、語りたい魅力が多すぎるので。。。さてさて、だいぶ前置きが長くなりましたが、内容に触れて行きましょう。
~時計に重ねる~
この作品、タイトルにもなっているように、「時計」がメインモチーフとなっており、物語中では何かにつけて時計に重ね合わせて物事が語られます。三五の、イワの胸の鼓動から始まり、2巻ではその傾向がより顕著になりました。今回は大きな女の子・央子とのやりとりが序盤のメインコンテンツとなるのですが、彼女と彼女に思いを寄せる幼なじみの関係を、ミステリィ時計で表してみたり、央子の空中ブランコの様子を時計の振り子で表してみたり。また時計の鐘の音を、「恋をした瞬間の音」としたり、懐中時計を三五に重ねてみたり。「時間」と「心」と「関係性」を、「時計」という一つのモチーフに集約する、その上手さと美しさに、手法的な感動すら覚えてしまいます。無理矢理感もなく、物語として必然という持っていきかたがまたすごいというか。
~視点変化の秀逸さ~
この作品の、この物語の何がすごいと感じるのか、まだまだ説明できるようなレベルに噛み砕けていないので、当然のことながら説明など出来るはずもないのですが、読んでいてすごいなぁと思ったシーンを例に、少しでも感じてもらえればなぁ、と思います。それが、イワがサーカス団の助っ人となって、央子の空中ブランコの様子を見守るシーン。コマ背景が黒塗りになって、4ページに渡って一つのまとまりとして描かれるのですが…

まずは1・2ページ目。央子の台詞から始まるこのシーンなのですが、2コマ目以降はイワのモノローグが語られ、モノローグ的な視点は彼女に移ります。以後3ページ目まで彼女のモノローグが綴られるのですが、2ページ目最後のコマは、ひっくり返っているように、画的な視点は宙を舞っている央子のもの。二つの視点が、異なるアプローチで同居していることになります。

そして3~4ページ目。2ページ目左下に施されたコマ外の装飾が、今度は3ページ目右上に当たる形で繋がりを演出。この左下と右上という配置がまた絶妙なんですよ。単純に視点の流れという意味での繋がりを持たせるだけでなく、先の画的な視点の移り変わりという意味で、2ページ目は央子視点のひっくり返っているコマにかかる位置で左下、そして3ページ目は再びイワの視点に戻る形で右上での配置。
またモノローグのラストで三五と時計の事に触れ、央子メインであった物語から一気に転換。そして4ページ目は三五の視点へと転換し、左下のコマ背景を白抜きにすることで次のシーンへと繋げます。この流れの作りが、ただただすごいなぁ、と。そしてその中で違和感を放つ、4ページ1コマ目。実はこれも、先の空中ブランコのコマのように、上下が逆になっているんですよね。しかもシーンとしては、雨がしとしと降る港。雨が降るシーンを、敢えて上下逆で描くという。。。変です、すごく変なんです、違和感があるんですよ。でもそれがすごいと思えてしまう。多少の違和感があることで、よりこのシーンに深みが増す印象すらあります。
~コウモリと人間~
物語ラスト、三五はその姿を消してしまいますが、これもまたとある存在と重ねられたシーンでありました。それは、1巻にて登場した、コウモリの三五。名前だけでもあからさまにその姿が重ねられていますが、怪我を負っている:病気を抱えているなど、その状況、行動なども被る部分が多いです。今回時計屋から姿を消した三五ですが、コウモリの三五も時計から飛び出し、その姿を消してしまいました。このままコウモリの三五に重ね合わせたら、もうイワの元には戻ってこないことになってしまいますが、帰る場所、帰る仲間のいるコウモリの三五とは違い、人間の三五は今の場所以外に帰る場所はありません。飛び出したという部分で重ねるのではなく、あるべき場所に戻ったという捉え方で、最後三五がきっともどってきてくれることを期待して3巻を待つのでした。ああ、今から楽しみで仕方がないです。多分3巻が出るのもだいぶ時間がかかるのでしょうが、それでもそれでも、いつまでも待ちたいとおもいます。
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