
ピアノという
大樹の葉越しにこぼれ落ちて来る
音の光
■手嶋織斗は、ヨーロッパから帰国した天才調律師。最後まで和解できなかった父の死をきっかけに、日本に帰って来たのだった。その父が遺した、山奥の喫茶店。人もまばらにしか訪れないこの店で、店員の青年と、形見のピアノと共に、新たな生活をはじめる。店は青年に任せ、自分は調律の仕事を引き受けながら、幼い頃に失踪した母親の行方を追う。ピアノの調律を通じて、持ち主たちの心の傷やわだかまりをも、織斗はやさしく癒し、解きほぐしてゆく。。。
とあるピアノ調律師の、数奇な運命を描いた作品。原作は大ヒットコミック「BOYS BE…」のイタバシマサヒロ先生です。そんな方が、なぜflowersで…?という感じなのですが、細かいことは気にせずご紹介していきましょう。主人公は、ヨーロッパで天才調律師として有名な、手嶋織斗。折り合いの悪かった父が亡くなったと聞いて、帰国するところから、この物語は始まります。厳格な父親が遺したのは、山奥に佇む喫茶店と、形見のピアノ。そしてそのピアノの中から、失踪した彼の母親からの手紙を発見し、彼はそこに残りながら母を探す決意をします。喫茶店の営業は、そこで元々働いていた青年に任せ、自分は麓の小さな町で調律師をしながら日々を送ります。ピアノを通して見えてくる、それぞれの家庭、人物。ピアノが紡ぐ、音と人間の繋がりを、静かに描いていきます。

調律のシーンが一つの見所。私の実家にもピアノがあって、定期的に調律師の方に来て頂いていたのですが、イメージにあるのは作業着風の服装のおじさん(追記:どうも家にきてた調律師の方が特殊だったようです。。。)。それなりに汚れやすい仕事だと思うのですが、敢えてそれを白シャツでこなす、その優雅さ。
雰囲気的には、青年向け雑誌でも連載していて良さそうな印象の作品。ピアノの調律師という職業をベースに、話のたびにピアノを直し、読切り形式で物語を形成。その中に、失踪した彼の母親を探すというストーリーを用意して、作品としての繋がりを生み出します。1巻時点では、特にこれといったストーリー進捗はなく、同じ位置に立ち止まっている感も受けますが、同時にピアノ調律を通して地元の人間と触れ合い、人と人との繋がりを広げ作り上げて行くという部分で、十分物語としては楽しめる段階にあり、退屈さは感じません。基本的に幸せな結末。「BOYS BE…」もオムニバス形式でしたから、そういう意味で、楽しませ方は心得ているのだと思います。
ピアノとスローライフという、優雅なモチーフの中に沈む、彼の生家のドロドロ具合と、母親との関係。一歩間違えば昼ドラチックな方向に行きそうなものですが、そういう感じは受けず。いや、この後の展開次第だとは思いますが。派手さは全くないですが、良い意味で落ち着いており、flowers読者の方々的には丁度良いのかもしれません。トキメキは皆無ですが、安らぎはあります。
【男性へのガイド】
→職業人を描くという部分では、青年誌にあるようなマンガのそれっぽさを感じることも。絵的に完全に女性向けであるのが、男性にはハードルになるか。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→全体的に静かで、盛り上がりに欠けるも、回を重ねることで深みが増してきそう。
作品DATA
■著者:イタバシマサヒロ/有留杏一
■出版社:小学館
■レーベル:flowersフラワーコミックス
■掲載誌:flowers(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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