作品紹介→高屋奈月「星は歌う」
6巻レビュー→ユーリがやってくれました《続刊レビュー》高屋奈月「星は歌う」6巻
7巻レビュー→傷を抱え寄り添う者たち《続刊レビュー》高屋奈月「星は歌う」7巻
8巻レビュー→辛気くさい空気が一変、突如として青春ラブコメに!:高屋奈月「星は歌う」8巻
9巻レビュー→恋、進路、高3の彼らに迫る選択のとき:高屋奈月「星は歌う」9巻
高屋奈月「星は歌う」(10)
悔しくて
かなしいのだ
彼女の気持ちを想う時
■10巻発売です。
二人で写真展に行った翌日から、千広が学校に来なくなってしまう…。事情が分からず心配するサクヤたち。そして久々に登校した千広の口から、サクヤたちは想いもよらぬ言葉を耳にする。「サクラが目を覚ましていて、会いに行ってきた」。加えて千広は、さらに驚きの決意をサクヤに告げて…。衝撃走る…片恋急展開の第10巻…!!
~良い表紙です~
10巻はサクラが表紙。実はこの作品、表紙の背景デザインは全く同じで、都度キャラクターだけが変わるという形なのですが、ブルーのバックに星が散りばめられている中、何故か桜が風に舞っているというデザイン。しかも桜の花びらは、最前面の目立つ位置に配置され、「星は歌う」というタイトルとある意味ミスマッチのデザインとも言えます。これはもちろん、サクラの登場を匂わせていたわけですが、サクラの登場はこの物語が始まってしばらく後。それだけでもすごいのですが、表紙としての完成を、10巻でやっと持ってくるというところがまたニクいです。
~衝撃的な展開~
9巻までに徐々に積み重ねてきた、幸せで前向きな雰囲気を一気にぶち壊すような急展開。もうこれだから高屋奈月先生は本当に嫌だ(超褒め言葉)。もう終始物語に釘付け。5巻あたりまでの重苦しさは、読んでいても不可解な部分が多く、苦しいものがあったのですが、状況が明らかになった今は、もう大丈夫。しっかりと噛み砕いて、それぞれの想いを受け入れられるようになっています。しかし千広の即決には驚きでした。まさかまさかの展開です。二人の間で揺れ動くかと思いきや、千広の想いは固く、一貫したものでした。
~千広の言葉に込められた決意~
目を覚ましたサクラを目の前にしたとき、千広の心はまだ固まっていませんでした。言葉は並べるけれど、この世界の不条理さを言葉にして並べるだけ。そんな彼の背中を押したのは、千広の引き取り手であった、叔母さん。
「じゃあ千広はどうしたいの?」
その言葉で、自分の想いを一つ一つ吐き出していった千広は、やがて明確にサクラをこれからも支えて行きたいと決意するようになります。そのときに紡がれた言葉たちは、千広がこの町で得たことの集大成とも言える内容で、本当に素晴らしかったな、と。前提知識がなく、冷静に見ると、結構ムズかゆい内容なのですが、過去があるからこそ、この言葉たちは活きるのです。

「一緒に
…宇宙人にも 魔法使いにもなれないけど
いつか今よりは少しは
誇れる人間になれるように」
途中の宇宙人と魔法使いのくだり。これは、千広とサクヤが出会ったときにも使われた言葉でした。
「俺は 自分以外ならなんでもいいよ
(中略)
幽霊でも魔法使いでも宇宙人でも
星のつかいでも
なんでもいいよ」
このときの千広は、「現実」に「自分」に絶望し、なれるものなら魔法使いでも宇宙人でも良いと、語ったのでした。それが10巻では、はっきりと「宇宙人にも 魔法使いにもなれない」と言い、今ある現実を見つめ、そして未来へと歩き出そうとしています。“現在”と“これから”を見据えた言葉を作るのは、町での暮らしで“過去”に得たフレーズ。一見奇妙に響くそのフレーズは、町で出会った人への感謝をもって、サクラを支えたいとする彼の想いが、実によく出た素敵な言葉だったと思います。
~手を繫ぐ~
またその際に、彼はサクラの手をぎゅっと握っているんですよね。

繫がれた手
この作品では、手を握る、手を繫ぐ、ということが「相手をひっぱる」という意味合いで語られ、重要なシーンでしばしば手を繫ぐ、手を握るシーンというのが描かれていました。

「手を繫ごう
落ちそうになっても
大丈夫 つないでれば
ひっぱれるよ」
そして同時に、千広は手を繫ぐことが苦手であるともモノローグで描かれていました。それは、いつかは離さなくては行けない時が来るから。これは他でもない、サクラの手を表しているわけですが、一度手放してしまったサクラの手を、再び強く握りしめるという意味でも、あのシーンはとても感動的だったんだぞ、と。そして最後は…
世界に
ひとりぼっちと思わないで
実はこの言葉もまた、過去にさかのぼると目にすることができるフレーズです。帯にも大きく書かれたその言葉が聞けるのは、6巻。その時はせーちゃんがサクに対して想った言葉なのですが…ああ、そうそう、今回のサクとせーちゃんのやりとりもまた、過去のやりとりとリンクしていて、実に泣かせる構成となっていたんですよ。
~答えは出していたサクと、どこまでもサク想いなせーちゃん~
今回千広にある意味ヒドい態度をとられ、フラレてしまったサクでしたが、意外にも立ち直りは早く、大きなダメージも受けていないようでした。今までの彼女であれば、落ちに落ちて立ち直れない状態にさえなってしまいそうな仕打ちにも関わらずです。そのヒントは、先に上げた6巻にありました。
「…だってあいつ
絶対“サクラ”を取るわよ…っ
そう言ったのは、せーちゃん。実は6巻の時点で、サクラが目を覚ましたら…という話がされており、そのとき既にせーちゃんは千広がサクラを選ぶことを予言していたのでした。そんなせーちゃんの心配を他所に、サクヤの決意は固く、こう言葉を返します。
「告白するとかしないとか
考えてない」
その上で、サクヤが語ったのは、「距離を取ったりせず、千広のそばにいる。この世界にひとりぼっちにしたくない」という想いでした。そしてその時が来たとしても、「最後までは、めそめそしたりしない」と。そう、既にサクヤの中では、答えが出ていたのです。たとえどんな状況になっても、ブレることのない強い決意が、そこにはあったのです。
そして同じくせーちゃんも、“その時”が来たときにどんな行動をとるか、話していました。6巻では、傷つくであろうサクヤを思い、泣いてしまったせーちゃんでしたが、サクヤの決意の前にこう強気に返します。

「言っとくけどなぐさめてなんてやらないわよ
指差して笑ってやる」
そんな中、ついにやってきてしまった“その時”、せーちゃんは・・・

やっぱり泣いてしまうのでした・・・
こんなにも、サクヤ想いのせーちゃん。自分じゃない、大好きな友達のために、ここまで真剣になれる彼女が、今まで以上に愛おしく思え、思わずうるうる来てしまいました。素直じゃないけれど、だからこそ、大事な人を思う心は頑で、純粋。サクヤとの対比で、心の内で自分を卑下することの多い彼女ですが、いやいや、あなたもすごい素敵な人だと思いますよ。そんな二人の、一番のハイライトとなったのは、せーちゃんが千広を殴ってしまい、一人教室で不貞腐れていたとき。彼女を追って、教室にやってきたサクヤは、「暴力はよくない」と諭し…

手を握る
繰り返し描かれてきた、関係性を描写する重要な表現。もうこれだけで、ご飯何杯もいけますよ…!本当にこの二人の関係は、素敵だと思うのです。
~その実全員の一番の理解者はユーリなのかもしれない~
散々千広だせーちゃんだサクヤだと言ってきましたが、正直なところ一番心に響いた言葉は、ユーリの言葉でした。
「でも一度好きだと思った人間は
きっと 時間が過ぎても
特別なんだ
どこかで」
男女の恋愛観を表す言葉としてよく、「男は名前を付けて保存、女は上書き保存」というフレーズが使われますが、このユーリの発言は、このフレーズをそのまま体現したものになります。もうね、これ本当に良くわかるんですよ。特に最後の「どこかで」ってのが絶妙。今その瞬間に最愛の人がいたとしても、初恋の相手を見たらドキッとするはずなんですよ、男は。それは浮気とかそういう感覚ではなく、本当に恋愛とは違う「どこか」で大切に持っている感覚というか。
しかしこの言葉をはじめとして、ユーリは本当に良い意味でフツーの男の子だなぁ、と。そして誰よりも、気配りができているし、思いやりがあります。なんだかんだで、サクヤにも千広にも理解を示し、傍若無人なせーちゃんとも普通によくやってる。何気にすごいことです。変な人たち相手に、自然に溶け込み仲間でいる。なかなか表にでませんが、もしかしたらとんでもなく器の大きい男なのかも知れません。彼がこの物語で担うのは、人と人との間に入る、緩衝材的ポジション。不器用で、時にぶつかり、時に離れすぎてしまうキャラクターたちを、壊れない・千切れないギリギリのラインで繋ぎ、動かす。こんなにも素敵な物語を享受できているのは、他でもない彼の働きがあるおかげ…なのかもしれません。
さて、次の11巻で最終巻となるそうです。いったいどんな結末になるのか、正直まったく予想ができないです。たぶん、至る所にそのヒントは隠されているのでしょうが、今はただ物語に身を任せていたい(笑)楽しみであると同時に、まだ終わって欲しくないという思いもあり。うーん、なんとも不思議な感覚です。
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6巻レビュー→ユーリがやってくれました《続刊レビュー》高屋奈月「星は歌う」6巻
7巻レビュー→傷を抱え寄り添う者たち《続刊レビュー》高屋奈月「星は歌う」7巻
8巻レビュー→辛気くさい空気が一変、突如として青春ラブコメに!:高屋奈月「星は歌う」8巻
9巻レビュー→恋、進路、高3の彼らに迫る選択のとき:高屋奈月「星は歌う」9巻

悔しくて
かなしいのだ
彼女の気持ちを想う時
■10巻発売です。
二人で写真展に行った翌日から、千広が学校に来なくなってしまう…。事情が分からず心配するサクヤたち。そして久々に登校した千広の口から、サクヤたちは想いもよらぬ言葉を耳にする。「サクラが目を覚ましていて、会いに行ってきた」。加えて千広は、さらに驚きの決意をサクヤに告げて…。衝撃走る…片恋急展開の第10巻…!!
~良い表紙です~
10巻はサクラが表紙。実はこの作品、表紙の背景デザインは全く同じで、都度キャラクターだけが変わるという形なのですが、ブルーのバックに星が散りばめられている中、何故か桜が風に舞っているというデザイン。しかも桜の花びらは、最前面の目立つ位置に配置され、「星は歌う」というタイトルとある意味ミスマッチのデザインとも言えます。これはもちろん、サクラの登場を匂わせていたわけですが、サクラの登場はこの物語が始まってしばらく後。それだけでもすごいのですが、表紙としての完成を、10巻でやっと持ってくるというところがまたニクいです。
~衝撃的な展開~
9巻までに徐々に積み重ねてきた、幸せで前向きな雰囲気を一気にぶち壊すような急展開。もうこれだから高屋奈月先生は本当に嫌だ(超褒め言葉)。もう終始物語に釘付け。5巻あたりまでの重苦しさは、読んでいても不可解な部分が多く、苦しいものがあったのですが、状況が明らかになった今は、もう大丈夫。しっかりと噛み砕いて、それぞれの想いを受け入れられるようになっています。しかし千広の即決には驚きでした。まさかまさかの展開です。二人の間で揺れ動くかと思いきや、千広の想いは固く、一貫したものでした。
~千広の言葉に込められた決意~
目を覚ましたサクラを目の前にしたとき、千広の心はまだ固まっていませんでした。言葉は並べるけれど、この世界の不条理さを言葉にして並べるだけ。そんな彼の背中を押したのは、千広の引き取り手であった、叔母さん。
「じゃあ千広はどうしたいの?」
その言葉で、自分の想いを一つ一つ吐き出していった千広は、やがて明確にサクラをこれからも支えて行きたいと決意するようになります。そのときに紡がれた言葉たちは、千広がこの町で得たことの集大成とも言える内容で、本当に素晴らしかったな、と。前提知識がなく、冷静に見ると、結構ムズかゆい内容なのですが、過去があるからこそ、この言葉たちは活きるのです。

「一緒に
…宇宙人にも 魔法使いにもなれないけど
いつか今よりは少しは
誇れる人間になれるように」
途中の宇宙人と魔法使いのくだり。これは、千広とサクヤが出会ったときにも使われた言葉でした。
「俺は 自分以外ならなんでもいいよ
(中略)
幽霊でも魔法使いでも宇宙人でも
星のつかいでも
なんでもいいよ」
このときの千広は、「現実」に「自分」に絶望し、なれるものなら魔法使いでも宇宙人でも良いと、語ったのでした。それが10巻では、はっきりと「宇宙人にも 魔法使いにもなれない」と言い、今ある現実を見つめ、そして未来へと歩き出そうとしています。“現在”と“これから”を見据えた言葉を作るのは、町での暮らしで“過去”に得たフレーズ。一見奇妙に響くそのフレーズは、町で出会った人への感謝をもって、サクラを支えたいとする彼の想いが、実によく出た素敵な言葉だったと思います。
~手を繫ぐ~
またその際に、彼はサクラの手をぎゅっと握っているんですよね。

繫がれた手
この作品では、手を握る、手を繫ぐ、ということが「相手をひっぱる」という意味合いで語られ、重要なシーンでしばしば手を繫ぐ、手を握るシーンというのが描かれていました。

「手を繫ごう
落ちそうになっても
大丈夫 つないでれば
ひっぱれるよ」
そして同時に、千広は手を繫ぐことが苦手であるともモノローグで描かれていました。それは、いつかは離さなくては行けない時が来るから。これは他でもない、サクラの手を表しているわけですが、一度手放してしまったサクラの手を、再び強く握りしめるという意味でも、あのシーンはとても感動的だったんだぞ、と。そして最後は…
世界に
ひとりぼっちと思わないで
実はこの言葉もまた、過去にさかのぼると目にすることができるフレーズです。帯にも大きく書かれたその言葉が聞けるのは、6巻。その時はせーちゃんがサクに対して想った言葉なのですが…ああ、そうそう、今回のサクとせーちゃんのやりとりもまた、過去のやりとりとリンクしていて、実に泣かせる構成となっていたんですよ。
~答えは出していたサクと、どこまでもサク想いなせーちゃん~
今回千広にある意味ヒドい態度をとられ、フラレてしまったサクでしたが、意外にも立ち直りは早く、大きなダメージも受けていないようでした。今までの彼女であれば、落ちに落ちて立ち直れない状態にさえなってしまいそうな仕打ちにも関わらずです。そのヒントは、先に上げた6巻にありました。
「…だってあいつ
絶対“サクラ”を取るわよ…っ
そう言ったのは、せーちゃん。実は6巻の時点で、サクラが目を覚ましたら…という話がされており、そのとき既にせーちゃんは千広がサクラを選ぶことを予言していたのでした。そんなせーちゃんの心配を他所に、サクヤの決意は固く、こう言葉を返します。
「告白するとかしないとか
考えてない」
その上で、サクヤが語ったのは、「距離を取ったりせず、千広のそばにいる。この世界にひとりぼっちにしたくない」という想いでした。そしてその時が来たとしても、「最後までは、めそめそしたりしない」と。そう、既にサクヤの中では、答えが出ていたのです。たとえどんな状況になっても、ブレることのない強い決意が、そこにはあったのです。
そして同じくせーちゃんも、“その時”が来たときにどんな行動をとるか、話していました。6巻では、傷つくであろうサクヤを思い、泣いてしまったせーちゃんでしたが、サクヤの決意の前にこう強気に返します。

「言っとくけどなぐさめてなんてやらないわよ
指差して笑ってやる」
そんな中、ついにやってきてしまった“その時”、せーちゃんは・・・

やっぱり泣いてしまうのでした・・・
こんなにも、サクヤ想いのせーちゃん。自分じゃない、大好きな友達のために、ここまで真剣になれる彼女が、今まで以上に愛おしく思え、思わずうるうる来てしまいました。素直じゃないけれど、だからこそ、大事な人を思う心は頑で、純粋。サクヤとの対比で、心の内で自分を卑下することの多い彼女ですが、いやいや、あなたもすごい素敵な人だと思いますよ。そんな二人の、一番のハイライトとなったのは、せーちゃんが千広を殴ってしまい、一人教室で不貞腐れていたとき。彼女を追って、教室にやってきたサクヤは、「暴力はよくない」と諭し…

手を握る
繰り返し描かれてきた、関係性を描写する重要な表現。もうこれだけで、ご飯何杯もいけますよ…!本当にこの二人の関係は、素敵だと思うのです。
~その実全員の一番の理解者はユーリなのかもしれない~
散々千広だせーちゃんだサクヤだと言ってきましたが、正直なところ一番心に響いた言葉は、ユーリの言葉でした。
「でも一度好きだと思った人間は
きっと 時間が過ぎても
特別なんだ
どこかで」
男女の恋愛観を表す言葉としてよく、「男は名前を付けて保存、女は上書き保存」というフレーズが使われますが、このユーリの発言は、このフレーズをそのまま体現したものになります。もうね、これ本当に良くわかるんですよ。特に最後の「どこかで」ってのが絶妙。今その瞬間に最愛の人がいたとしても、初恋の相手を見たらドキッとするはずなんですよ、男は。それは浮気とかそういう感覚ではなく、本当に恋愛とは違う「どこか」で大切に持っている感覚というか。
しかしこの言葉をはじめとして、ユーリは本当に良い意味でフツーの男の子だなぁ、と。そして誰よりも、気配りができているし、思いやりがあります。なんだかんだで、サクヤにも千広にも理解を示し、傍若無人なせーちゃんとも普通によくやってる。何気にすごいことです。変な人たち相手に、自然に溶け込み仲間でいる。なかなか表にでませんが、もしかしたらとんでもなく器の大きい男なのかも知れません。彼がこの物語で担うのは、人と人との間に入る、緩衝材的ポジション。不器用で、時にぶつかり、時に離れすぎてしまうキャラクターたちを、壊れない・千切れないギリギリのラインで繋ぎ、動かす。こんなにも素敵な物語を享受できているのは、他でもない彼の働きがあるおかげ…なのかもしれません。
さて、次の11巻で最終巻となるそうです。いったいどんな結末になるのか、正直まったく予想ができないです。たぶん、至る所にそのヒントは隠されているのでしょうが、今はただ物語に身を任せていたい(笑)楽しみであると同時に、まだ終わって欲しくないという思いもあり。うーん、なんとも不思議な感覚です。
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