
…乗り換えませんか
こっちの電車は山に行きますけど
あっちの電車は
海に出ますよ
■鉄道をテーマにした読切り7編を収録。それでは1話目、「浪漫避行にのっとって」をご紹介。
「高校生でスリだなんて、親が泣くよ!」
「呼び出し一」や「ウツボラ」、「同級生」(→レビュー)などの中村明日美子先生の描く、電車をモチーフとして取り入れた読切り集、その名も「鉄道少女漫画」。白泉社での一般向けの読切り集は、「片恋の日記少女」(→レビュー)、「曲がり角のボクら」(→レビュー)に続いて、3冊目になるでしょうか。メロディに掲載された話が2作、そして「楽園」掲載の話が4作、加えて書き下ろし1作という構成になっています。

本物の鉄道だけでなく、鉄道模型がモチーフになったりも。そして抜け目なく小田急線。ほぼ全てが小田急線のお話です。
「鉄道」という部分はもちろんのこと、「少女漫画」と銘打っているだけあって、その殆どが少女が主人公。一部主人公が男性のお話もありますが、しっかりと女の子が登場します。鉄道と少女というと、なんとなく結びつかないイメージがありますが、マニア的な見方ではなく、日々の生活に結びついた鉄道風景というものがメイン。それは通学に使う路線であったり、駅のホームであったり、線路であったり。。。とはいえ日常系の落ち着いた話かと言えばそうではなく、かなり非日常的な要素・展開を取り入れて、目まぐるしく展開が入れ替わる一風変わったストーリーの方が多い印象です(例えば先にご紹介した「浪漫避行にのっとって」も、スリの女の子が主人公という一風変わった設定)。
鉄道と少女という組み合わせは、例えば以前ご紹介した「片恋の日記少女」にも描かれていて、中村明日美子先生的にはごくごく普通のテーマであったのかもしれません。個人的にお気に入りだったのは、「彼の住むイリューダ」と「立体交差の駅」。「彼の住むイリューダ」は、海外へと発つ高校生の女の子が、好きだった男の子の下駄箱に手紙を忍ばせ、一日中彼のことを駅で待ち続けるその様子を描いたお話。ただそれだけなのですが、全体通して白色メインの淡いタッチでの描写が続き、それが青春時代の眩しさや、ヒロインのイノセンスさを表しているようで、読み終わったときになんとも言えない温かさを感じることができるのですよ。最後の締めもお見事で、西村京太郎的エッセンスがスパイスとして効いているのもまた良し。

人物と人物の間に度々差し込まれる、鉄道風景のカット。鉄道や駅の風景を差し込むことにより、絶妙な「間」を形成。電車の過ぎる騒音と、流れる風のあとに残るのは、揺らめく髪と静寂。絵と文字を見ているだけなのに、音が聞こえ、風を感じているような、そんな気分になります。
「立体交差の駅」は、駅で別れ話をしている一人の女性と、そんな彼女とひょんなことからやりとりをするようになった、女子高生のお話。野球少女という設定もさることながら、そのオトナの女性のお相手が女性ということで、所謂百合的要素を含んだストーリーになっています。恋愛すらも知らない少女が、女性同士の恋愛に触れて、心をざわつかせる。恋愛未満の、触れてはいけないものに触れてしまった、けれども心惹かれる、そんなヒロインの様子が素敵です。
その殆どが小田急線が舞台。個人的には全く縁のなかった鉄道ですが、ロマンスカーをはじめとして、都会と田舎を結ぶ独特の風景が続く個性的な路線というイメージがあります。ちなみに旧型ロマンスカーは、私の地元の長野で「ゆけむり号」とかいう名前に変わって走っており、帰省した際にたまにその姿を見かけたりします。長野電鉄最長の4両なのですが(電鉄は基本3両か2両)、車両の先が尖っているので、4両と言えどバランスが悪く見えるという(笑)余談が長くなってしまいましたが、オススメでございます。
【男性へのガイド】
→楽園は元々男女どっち向けかわからないような雑誌ですし、全体通して読みやすいんじゃないかと思いますよ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これは良かった。鉄道と少女という、ミスマッチさが逆に絶妙の味わいを。是非是非ご一読を。
作品DATA
■著者:中村明日美子
■出版社:白泉社
■レーベル:
■掲載誌:楽園 メロディ
■全1巻
■価格:714円+税
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