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■普段は淡白だが、“お気に入り”への執着は人一倍強い高校生・木梨長十郎。ある日、裏山で出会ったお爺さんから、願いがかなうという鉢植えを託される。盆栽の類いかと思っていたら、根元から小さな女の子が。。。手のひらサイズのその子の名前はこいし。本人曰く、妖精らしい。長十郎に会って、恩返ししたいと話す彼女を、何事にも動じることのない長十郎は、優しく受け入れるけれど・・・?
「橙星」(→レビュー)や「獏屋鶴亀放浪ノ譚」(→レビュー)などを描いておられる、群青先生の新作でございます。ファンシーでファンタジックな物語を描く先生の新作は、手のひらサイズの妖精と、なんだかとっても緩くて不思議な感性を持った少年の触れ合いを描いたお話。とにかくマイペースで、縛られない緩くて自由な生活を送る高校生・長十郎は、ある日見知らぬお爺さんから貰った願いが叶うという鉢植えの根元に、女の子が埋まっているのを見つけます。「こいし」と名乗る手のひらサイズの彼女は、長十郎に会って恩返しをしたいと話すのですが、疑うことを知らない長十郎は、何の疑問も持たずに彼女を受け入れます。そしてその日を境に、長十郎の周りは慌ただしくなりはじめて…というストーリー。

人の願いを叶えるつもりが、自分の願いに正直に。人一倍執着心が強い長十郎に、これまたある意味執着心の強いこいし。人によってはイライラ、人によっては純粋でかわいい。
願いを叶える術は知ってはいるものの、「恩返し」という名目で片付けられるこいしの意図は、闇に包まれたまま。どこか後ろ暗そうな過去があり、ファンシーに見える少女が悲しい過去と心の傷を抱え、自分の居場所を探し続けるというモチーフは、「橙星」などをはじめ、群青先生の多くの作品で描かれてきたテーマだと言えるでしょう。こちらは手のひらサイズで、また違った風合いで物語が進行していくのかと思いきや、途中からなんと、自分の想いが強すぎて小学生サイズくらいになるというまさかの展開に。しかもくしゃみで大小スイッチングするというおまけつき。その後はサイズ変化を繰り返すこいしと、こちらもまた何か過去がありそうな長十郎のやりとりで、物語は進んで行きます。ゴールになる地点は見えないけれど、そこに至るまでには過去やトラウマを乗り越える苦しい過程が待っていそうで、多少の覚悟は必要かもしれません。
基本的に説明不足で、なんとも読者に不親切な物語となっているわけですが、それを許容させてしまう程度には、かわいらしく、そしてなんだかとても大切なことを描いているのではないかと思わせるシリアスさがあります。いや、基本ファンシーで、おとぎ話の世界みたいな感じなのですが。自分は群青先生の作品が好きで、いつも楽しみにしているのですが、それでも他人にオススメできるかと言われると、ちょっと気が引ける感じではあります(笑)不思議なんだけど、明るい不思議さではなく、ファンシーさの裏に隠された苦しさや痛みみたいなものが、トロトロと溢れ出てきているようで、やはり読み手を選ぶのではないかなぁ、と。長十郎に恋する、幼なじみの女の子のように、普通視点で語ってくれる子がいるのは嬉しいところ。
【男性へのガイド】
→男女関係なく、ちょっとした読み辛さがあるような気が。双方向のアンテナにひっかかりそうな可愛さは持ち合わせているので、プラマイゼロ?
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→私は群青先生の作品好きですので、はい。行き先はどうなるか分からないですが、それでも追いかけますよー。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー* 群青「黒甜ばくや薬笥ノ帖」
半人半妖の“しましま”たちと、人間たちが住む町で…:群青「しましま」
作品DATA
■著者:群青
■出版社:幻冬舎
■レーベル:幻冬舎コミックス
■掲載誌:スピカ(連載中)
■既刊1巻
■価格:619円+税
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