
彼の時は止まったのだ
■僕らはずっと一緒に過ごしてきた。いつでも、どんな時でも。。。
君と仲良くなったのは、初等部二年の時。久方ぶりに同じクラスになって、再び一緒に鼓動するようになったのは、高等部の時だったか。クラスメイトの中でも、ひと際浮き立って見える彼に、連れまわされるようにして、不思議な出来事にクビを突っ込んだのは、今では懐かしい思い出。そして今、全てを忘れてしまった彼のため、僕たちは再び記憶を手繰り寄せる。
十峯なるせ先生が原作付きで贈る、優しき幻想譚。護衛官のリンが、日毎赴くのは、誰も住んでいない大きなお屋敷。そこの庭先にベンチに佇むのは、小さい頃からの友人・カラク。2人ベンチに佇み、話すのは、高校の頃同じクラスになったときに体験した、たくさんの不思議な出来事に、ちょっとした冒険の話。クラスの中でもひと際浮き立っていたカラクは、唯一とも言っていい友人・リンを巻き込み、身の回りで起こるちょっとしたことに、ついつい首を突っ込んでいたのだ。巻き込まれるリンとしては、良い迷惑。けれども今となっては、良い思い出。自分が死んでしまったことさえも忘れてしまったカラクのため、リンは今日も誰も住まない屋敷に赴いて、思い出を手繰り寄せ始める。。。

感覚は鋭いが、無神経なカラク。天才にありがちな性格の持ち主。そういう人間には、お人よしの普通の少年がよく合う。
あらすじを見て頂いてもわかるように、ちょっと不思議なテイストを含んだお話。リンとカラクの2人の青年が、過去を手繰り寄せるように、2人が体験したあんなことやこんなことを語り合うという内容。導入とラストは現在の2人が描かれ、メインは全て回想という形で、少年時代の2人が描かれます。ごくごく普通で、ちょっとだけお人好しのリンと、変わり者で浮き者だけど、好奇心旺盛で頭の切れるリン。そんな2人が体験するのは、身の回りで起こる不思議な出来事。海で拾った人間の足のミイラを探す老婆や、近所のお屋敷で起こったとある事件…噂や不気味な出来事で済ませてしまうところを、好奇心旺盛なカラクは、率先して飛び込んでいってしまいます。しかも勘が鋭く頭がよいものだから、核心に迫ってしまい、事態はややこしいことに…というパターンとなります。
少年時代の回想で、小さな事件のはじまりから解決までを描き、物語としてひとつの盛り上がりをちょこちょこと作り、さらに大枠で、カラクの記憶が戻らないことを追うという、作り。「記憶を手繰り寄せる」という表現を使っていることから、恐らく回想を繰り返すことで、やがてカラクの死まで辿り着き、時間軸は“現在”と繋がるのかと思われます。まだどうなるかはわかりませんが、原作付きということから、構成は最終的に計算された美しいものになること必至。いかんせん死人を相手にしているからか(失礼すぎる表現)、トキメキや壮大さには欠けますが、その分ゆっくりと流れる時間の中に、不思議さと優しさが浮かび、良い安心感を届けてくれます。
【男性へのガイド】
→男二人の関係に萌えるってところに落ち着きそうな分、やっぱり女性向けかと思われますが。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→不思議なテイストのある作品。結構グロい表現とかあるのですが、包む雰囲気でもの凄くキレイに見えてしまうからなんとも。
作品DATA
■著者:十峯なるせ
■出版社:一迅社
■レーベル:ゼロサムコミックス
■掲載誌:ゼロサム(連載中)
■既刊1巻
■価格:552円+税
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