びっけ「壁の中の天使」
初めて触れたときは
石のように冷たかった
今はもう温かい■「気持ちが込められた絵には魂が宿る
」
画材屋の店主の依頼で、売り出し中の画家・ロレンツによって描かれたのは、二人の天使。美しい少年の姿をしたその二人の天使・ユリウスとマリオンは、夜になり街が寝静まると、壁から抜け出し夜ごとの散策を楽しんでいたが、そこでユリウスは、一人の男と出会う。その男とは、彼を描いた画家・ロレンツ。夜だけの間、会うことができるその関係の先に、待っていたものとは…!?
「あめのちはれ」(→
レビュー)を連載中のびっけ先生のBL作品になります。茜新社の作品を紹介するのは、初めてなんじゃなかろうか。。。ヨーロッパの街で繰り広げられる、天使と人との恋物語です。主人公は二人。とある売り出し中の画家によって描かれた、画材屋の壁画の天使・ユリウスとマリオン。絵に描かれた天使や人物は、夜ごと絵から抜け出し、誰にも気づかれないように遊び回っているのですが、この二人も多分に漏れず。その羽根で、夜の街を飛び回っていたある日、ユリウスはとある建物から匂ってくる良い匂いにつられ、そちらへと向かって行ってしまいます。そこにいたのは、ユリウスたちを描いた画家・ロレンツ。隠れていたつもりが見つかってしまったユリウスは、それからも夜ごとにロレンツと会うようになるのですが…というお話。

人間との関わりあいで、今までになかった喜びを知る。その喜び方が純粋で、愛おしい。
壁画の天使が夜になると抜け出し、人間と言葉を交わし、心を通わせる。。。なんともロマンチックなおとぎ話。物語は2編4話とおまけが1話。1編はブロンドの髪の天使・ユリウスと、その画家のお話が描かれ、もう1編はもう一人の黒髪の天使・マリオンと小説家のお話が描かれます。どちらも本当に素敵なお話なんです。純粋無垢で真っ白な、天使と少年というモチーフ。そんな彼らに心癒され、いつしか夢中になっていく人間と、そんな彼を放っておけない天使たちの姿が、優しく優しく描かれます。天使という姿であること、そして夜しか会えないということから、紡がれるのは静けさに包まれた二人だけの時間。その二人の間に育ち行く雰囲気がもう堪らないのですよ。
ユリウスとロレンツのお話も素敵なのですが、個人的にはマリオンのお話がドツボ。一人壁に残ったマリオンが出会ったのは、傷心の小説家・レオ。レオと出会い、マリオンは読み書きを教えてもらうのですが、覚え立ての文字を使って書く手紙が、そのクールなキャラとは異なっていてニヤニヤが止まらないという。

感情があまり表に出ないマリオン。彼から手渡された手紙には、大人っぽく素っ気ない彼の振る舞いとは裏腹の、なんとも素敵でかわいらしい文章が…
たどたどしい文字で書かれた、初めての手紙の中。空が好き、星が好き、飛ぶのが好き…「好き」が並んだその最後に書かれていたのは、「レオが好き」の文字。恋愛感情とは別に、ただただ素直に書かれたその言葉が、天使の無垢さを表しているようでキュン死にですよ、はい。こういった演出もさることながら、そもそもストーリーがキッチリ纏まっていて、本当に感動的なんです。もうオススメ中のオススメです。
BL作品ですが、天使の少年がお相手ということで、出てくる描写はキス程度とかなりプラトニック。とにかく純粋さと優しさに包まれたお話なので、嫌悪感を抱く人は殆どいないのではないかと思います。びっけ先生の作品はどれも大好きなのですが、「真空融接」(→
レビュー)然り、BL作品の方が個人的には好みのような…。いやぁ、素敵なお話でした!
【男性へのガイド】→BLですから、オススメはできませんが、それでもおとぎ話的に読むのであれば。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】→ドツボ。素敵なお話でした。びっけ先生の作品はみなみな好きですが、心をグっと掴まれたのはこれが一番。
■作者他作品レビュー
びっけ「獏-BAKU-」作品DATA■著者:びっけ
■出版社:茜新社
■レーベル:EDGE COMICS
■掲載誌:OPERA
■全1巻
■価格:648円+税
■購入する→
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コメント
こんにちは。
この作品、書店で見つけてからず~っと気になってたのですけど、BLのコーナーで見つけたってことはきっとBLなんだろうなと思って躊躇してたら、やっぱりBLだったんですね・・・。
天使に性はないはずと思えば、厳密にはBLではないのかもしれないし、プラトニックな描写のみであれば読みやすいかもしれないですが・・・。
う~ん・・・、絵はきれいだし、びっけさんだし、BLでなければど真ん中間違いなさそうなんですけどね・・・ほんと、残念。
いや、単なるつぶやきです。すみません。
気が向いたら読んでみるかもしれないです。
そういえば、「マリオン」といえば、映画『ベルリン天使の詩』では天使が思いを寄せる人間の女性の役ですね。
From: しろくま * 2011/02/17 22:49 * URL * [
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どの作品を取り上げるにしても、自分なりにしっかりと読み込んで、その上で一生懸命レビューをしています。
各々の趣味・趣向・価値観の向こう側にある、読む読まないの判断はもちろん個々人の自由ではあるのですが、そういった中レビューしている記事に、読んでもいない段階で「残念」と書かれるのは、こちらとしても非常に残念であるとしか言いようがありません。
何もルールを設けていないないコメント欄である以上、どのような内容を書き込むもまた個々人の自由ではあるのですが、そういったコメントに対しては、それ以上の返事のしようがなく、ならばむしろ自分のブログを用意して書かれた方が余程生産的である気がします。
これもまた、単なるつぶやきです。すみません。
コメントありがとうございました。
From: いづき * 2011/02/18 00:50 * URL * [
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こんばんは
私は初めのころに読み始めた少女マンガ家が雁須磨子さんだったこともあって
えすとえむさんとか雁須磨子さん中心にBLも読むんですが。BLには大きくあって
BLありきでストーリーを作ったもの、BLっぽさだけを求めたもの、ストーリーにBLを
組み込んだものがあるとおもいます。
えすとえむさんとかこの作品のようにBLありきで作ったものは男性でも読みやすいかと思いますがどうでしょう?
壁の中の天使はどうすれば絵に帰らなくても大丈夫という話のくどさ以外はおもしろかったです。
From: 暗くても * 2011/02/18 19:07 * URL * [
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けんか腰になるのは感心しないですね。
「BLが苦手なようですが、レビューでも触れたとおり、BLといってもプラトニックなものでBLが苦手な方でも読みやすいです。素晴らしい作品ですから、試しに読んでみたら如何でしょう?」
とか、
「BLは苦手ですか。こちらの作品は、BLとしてはプラトニックな表現にとどまっていますが、しっかりとしたBL作品で、苦手な方にはおすすめしづらいです。残念ですね。よい作品と巡り合えることをお祈りしています」
とか、
いろいろと流し方はあるでしょう。
いづきさんのレビューだと、本文中では「BL作品ですが・・・嫌悪感を抱く人は殆どいないのではないかと思います」と言いながら、男性へのガイドでは「BLですから、オススメはできません」としていて、結局のところ、BLであることが気にならずに読めるものなのか、それともやっぱりBL好きな人向けの特殊作品なのか、そこのところがよく分からないのです。
(実のところ、わりと読んでみようという気持ちに傾いていたのですが、最後の「BLですから、オススメはできません」で気持ちが逆戻りしてしまったんです)
でも、よく分からないけど、魅力は感じているから(魅力を感じる理由の少なくとも一部は、やはりいづきさんのレビューで魅力的に評されているからです)、もしかしたら読んでみるかもしれないと締めているわけです。
「残念」っていうのは、BLであるという一点を除けば大きな魅力を感じていることの裏返しです。
ぜんぜん興味もないとか、ダメそうだとか、そういう作品には「残念」なんて気持ちは持たないですよ。期待があるからこその「残念」なんです。
私の文章表現力にも問題はあるのでしょう。
「BLであることが作品を読もうとする上での障害になっている」「BLであることに目をつぶれれば楽しめそう」ということは伝わりにくかったようです。
それはそれで仕方ないのですけど(こちらも敢えてはっきりとは書いていないので)、いずれにせよ、コメントに対して、けんか腰のレスはサイトに荒れた印象を与えてしまいます。
いくら冷静に正論を装っていても、自分の不快感を丸出しにしては、けんか腰に見えてしまうんです。
そういうレスをするくらいなら、「承認待ちコメント」のまま放置するか、削除するか、あるいはレスをつけずに放置するか、その方がマシですよ。
(私の希望ではなく、サイト運営の立場での一般論のつもりです;いづきさんなりのポリシーもあるのでしょうけど)
いづきさんのサイトなので、自由になさって結構なのですけど、老婆心からコメントさせていただきます。
まじめな方なんだなというのは、感じてますので、それだけにこういうレスは残念なんです。
From: しろくま * 2011/02/19 00:46 * URL * [
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必要以上にトゲのある返信をし、結果的に不快な印象を与えてしまったこと、お詫び致します。
申し訳ありませんでした。
ただ当人にその気がないにせよ、コメントによって受けるダメージというものが、想像以上に大きいということはご認識頂きたく思います。今回私に、他にも流し方はいくらでもあっただろうとおっしゃって頂いているのと同じく、先のコメントについても、そのような意思があったのだとしたら「残念」という一言で片付けずに、他の言葉で伝える術もまた、いくらでもあったのではないでしょうか。残念ながら私は、「残念」というネガティブな字面の向こうにある、ポジティブな意思を無条件に読み解けるほど、読解力に長けた人間ではありませんでした。そして同時に、そういったコメントを無条件に受け入れることのできる、器も大きさも持ち合わせておりません。ましてや最後に「ただの呟きです」と書かれているコメントに、それ以上の意図があったことを読み解き受け入れることなど到底できませんでした。その目的が何であるのかわからない、「ひとりごと・呟き」として完結しているコメントを残されたとしても、こちらとしてはどうすることもできないのです。
コメントというのは、不特定多数に向けて書かれるブログのエントリなどとは異なり、そのレビューないし書き手に向けて一直線に投げられ、突き刺さってきます。そして、どうしても目にしたくない言葉というものが、あります。発言者にとってはネガティブな意図のなかったかもしれない「残念」という言葉も、その言葉が字面通りに直接自分に投げられたような感覚さえ受け、想像以上に大きなストレスを感じることがあるのです。今回しろくまさんがこうやって、私のコメントレスに反応しておられるのも、しろくまさんに向けられた私のコメントに、少なからず快くない感覚を抱いたからでしょう。
これが多くのサイト管理人に通じるような、一般的な感覚なのかはわかりませんし、そのことをお伝えしたところでどうにかなる問題でもないとは思います。ただ、今回のやりとりを通じて、そう感じるサイト管理人もいるということを、少しでもわかっていただければと思います。また、もしその言葉が、ウチの記事ではなく作品そのものへ向けたものであったとしても、そういったコメントはこのブログ内に残して欲しくないのです。サイト管理の一般論(そもそも個人サイト運営に一般論があるのかわかりませんが)に対して、こちらは完全な個人の感覚でのお話になってしまい、申し訳なく思います。「感心しない」「老婆心」等のお言葉使いから、おそらく目上ないし年上の方なのだと思いますが、如何せん年下の個人ブログ管理者のワガママだと、少しでもその意図を汲んで頂ければ、幸いです。
なお、文中で矛盾を孕んでいるようでわからない部分があったとのご指摘がございますが、不快感を感じる人は少ない=多くの人が楽しめるということにはならないと考えています。作品の評価を表裏のみで捉えるのは、あまりに短絡的であり、レビューとしても白黒のみの単調なものになってしまいます。伝わっていないのは、私の文章の拙さ故。この件も、ご指摘を読む限り、私の文章の拙さが原因であるようですが、そういった、途中にあるグレーのグラデーションの部分を、しっかりと伝えていけるよう、これからもレビューを続けていければと思います。
From: いづき@管理人 * 2011/03/18 00:41 * URL * [
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From: * 2011/03/25 03:31 * * [
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ありがとうございます。
そういったコメント頂けると、レビューして良かったと心から思えるのですよ(つД`)・゚・
びっけ先生の作品は、みなみな優しさに包まれていて、読むとほっとできるというか、
すごく大切に大切に読みたい作品なんですよね。
もし機会がありましたら、他の作品もお手に取ってみて下さい。
From: いづき@管理人 * 2011/04/23 20:56 * URL * [
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