
そうかこれは
“あたたかい”だ
■空の上では神様が、大好きな女の子をひねもす眺めておりました。雲の下、日のあたる部屋にあるピアノを、女の子が弾くと、こころに花が咲いたような気持ちになります。でも最近、女の子はうつむいて携帯電話をいじってばかり。ピアノには見向きもしません。空も見上げてくれません。哀しくなった神様は、いてもたってもいられずに、一つの大きな“罪”を起こしてしまいます…
「日本サンタクロース株式会社」(→レビュー)にてデビューされた、有田直央先生の新作です。青い表紙が目を引きます。デビュー作と同じように、こちらもまた、一風変わった設定を用いた、ファンタジーチックなストーリーとなっています。物語の主人公は、とある町を空から見守り、秩序を保っている神様。何千年も生きる神様の中、彼の年齢はまだ27年。精神年齢はまだまだ子供です。感情が生まれて7年、そんな彼が楽しみにしていたのは、下界でいつも女の子が弾いていたピアノ。その音色を聞くたびに、心がに花が咲いたような気持ちになっていたのですが、ここ最近はまったく音が聞こえず、見下ろせば彼女は俯いて携帯電話をいじってばかり。哀しくなった神様は、ひとつの大きな“罪”を犯すことにするのですが…

自分の思いはなかなか通じない。相手を想うが故の行動でも、裏目に出てしまうことも。それでもそれを乗り越えた先に、あたたかいものが待っている。
神様が犯す罪とは、携帯電話の電波を全く繋がらない状態にし、さらに自ら下界に降りて、その彼女・桜子の元に降り立ってしまうというもの。神様と言えど、自我が芽生えたばかりの彼は、若者っぽい見ためにすら中身が追いついていない、いわば幼稚園児のような精神年齢の持ち主。童心いっぱいに自分の想いを伝え、桜子の元に居座ることができた彼なのですが、やがてその勝手な行動は、大きな波を生み出し…というお話。心に傷を抱える一人の女子高生と、そんな彼女に恋をした、幼き神様の関係を描いた、ハートフルストーリーとなっております。
神様という存在は基本的に変化のない存在で、今回のようなケースはいわば歪みのようなもの。精神年齢が子供であり、かつ「成長」というパターンが起こりえない特殊な存在である主人公は、見る人にとってはかなりイライラする存在かもしれません。身勝手な存在ってのは、それだけで結構疲れてしまうわけですが、ましてや彼は神様で、しかも見ためとのギャップまでありという。主人公自身は、過程の中での変化はあれど、最終的にはスタート位置に帰るも、その中で、彼と関わった少女が一人、前向きに進む心を持つことができるという、ちょいと変わった構図が生まれています。神様ベースで考えると、救いを見せつつもなんともやるせないお話になっているのですが、桜子ベースで考えると、なかなか素敵なお話。費用対効果というと語弊がありますが、一人の女の子をきっかけに、ここまで他人に多くの影響が出るというのは、ハリウッド映画のようでもあり、結構贅沢。垢抜けなくとも、全体的にウォームカラーが似合いそうな、当たりの柔らかい物語の雰囲気も素敵です。
【男性へのガイド】
→ちょいと不思議なテイストの物語。誰視点で物語を楽しむかによって、受ける感覚は変わってきそうです。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→サンタクロース株式会社が、割とストレートに感動を呼び起こすお話だったので、今回のように捻った形でのストーリーは意外。神様に賛否両論別れそうなところです。
作品DATA
■著者:有田直央
■出版社:集英社
■レーベル:コーラスクイーンズコミックス
■掲載誌:コーラス(連載中)
■全1巻
■価格:457円+税
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