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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.03.20
1106004476.jpg野口芽衣「フィンランディア-サンタ養成学校-」(1)


カイン!
私のサンタになってください!



■中学卒業を期に、サンタのアシスタント妖精「トントゥ」になるため、フィンランドのサンタクロース養成学校に単身留学した愛里。やる気は人一倍あるけれど、ドジで方向オンチで向こう見ずな愛里は、同居人でクラスメイトのクールなサンタ候補生・カインにいつも迷惑をかけてばかり。それでもカインのアシスタントになることを勝手に決意した愛里は、カインの毒舌にも、北極圏の寒さにも負けず挫けず頑張っています!将来の夢は、サンタクロースorトントゥ?ふたりの見習いが、サンタの街・フィンランディアからとっておきのプレゼントをあなたに…

 フィンランドのラップランドにあるフィンランディアという町の、サンタ養成学校に単身留学した女子高生の物語。ヒロインは、サンタクロースに憧れすぎて、中学卒業を期にフィンランドに単身留学してきた愛里。地元のホストファミリーの元、サンタのアシスタントである妖精・トントゥの見習いとして、日々一生懸命生活をしています。けれどもやる気ばかりが先回り。方向オンチでついつい暴走しがちな彼女は、やる気とは裏腹に、同居人でクラスメイトのサンタ見習い・カインに迷惑をかけてばかり。それでもホストファミリーと仲良くなりたい…という一心から、カインのトントゥになることを勝手に決意した愛里は、カインの毒舌を浴びながらも、めげずにトントゥとしての道を歩もうとするのですが…というお話。


フィンランディア1
サンタが好きすぎて、サンタを目の前にすると時に暴走してしまう。カインのサンタ濃度が高まったときも例外でなく。ただその甘え方…というか懐き方が犬のようで、可愛らしいです。


 サンタ養成学校という設定や、妖精を目指すなんて設定から、ファンタジー作品を想起される方も多いかもしれませんが、ファンタジー要素は一切なし。サンタ好きな少女が、単身フィンランドに渡って留学生活を送る、ハートフルコメディとなっています。とりあえず最初に何を言いたいかというと、ヒロインの愛里がかわいすぎて困るということですよ。サンタマニアという変な趣向の持ち主であることもさることながら、暴走しがちで迷惑をかけてばかりの巻き込み型の残念な女の子。加えて丁寧語がデフォということもあり、先日ご紹介した残念なヒロイン、「祓魔師な嫁ですが」(→レビュー)の鈴音や、「フェティッシュベリー」(→レビュー)のひよりの系譜を受け継いでいる気がしないでもありません。いやー、最近残念かわいいキャラが好きでして、もうドツボですよ、はい。とはいえ彼女の場合、暴走の契機となるのは、サンタという一点のみ。基本的には情熱溢れる、他人想いで心の優しい子なのであります。
 
 サンタを心から愛していて前向きでへこたれない性格の愛里と、サンタ見習いでありながらサンタとビジネスだと語り、どこか後ろ暗いところのあるカイン。誰に対しても一定の距離をとるカインに対して、愛里は体当たりでぶつかっていくことで、カインの閉ざされた心の内や過去を知り、また一つ近づいて行くというのが、主とした物語の流れになります。愛里がカインにここまで懐くのは、ホストファミリーであると同時に、サンタであるから。現状、サンタ―トントゥという関係をベースに築いていこうとする愛里に対して、そこまでサンタに思い入れのないカインは、もうちょっと思春期の男の子っぽく愛里を意識。ここからどう、男の子ー女の子という関係に移っていくのか、今後はその過程をにやにやしつつ楽しむことになると思われます。


フィンランディア2
この発言も「サンタとトントゥとして」という見えない前置きが。一瞬勘違いしそうになりますが、そんな彼女の無防備すぎる言動に、カインも逐一ドキドキ。


 サンタやトントゥというのはもちろん見所の一つではあるのですが、基本的には一人の少女と少年の、心の交流を描いたハートフルな人間ドラマが売りとなります。お互いの足りない部分を補い合うような二人のかけ合いは、見ているだけで暖かい気持ちになれる素敵な組み合わせ。またフィンランドという土地柄から、キャラクターの衣装が可愛げなところも素敵ですね。というか愛里ちゃん、天然すぎて結構ギリギリの台詞とかもスパっと言っちゃって結構どきどきするシーンもあったり。「私のサンタになってください!!」なんて台詞も、この場所だからこそ字面通りに受け取れるわけですが、実際に言われたら「ええええっ!!どういう意味!?(赤面)」みたいなことになりそうです。もちろんオススメで。


【男性へのガイド】
→むしろアヴァルスであることが不思議なくらいですよ!カインのちょっとしたへたれっぷりもまた良し。これは暖かい、良い物語。
【感想まとめ】
→愛里の可愛らしさもさることながら、彼女を中心に作り出す、人と人の繋がりが暖かくすごく幸せな気持ちに。これもひとつのプレゼントなのかもしれません。オススメです。



作品DATA
■著者:野口芽以
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックスアヴァルス
■掲載誌:アヴァルス(連載中)
■既刊1巻
■価格:571円+税


■購入する→Amazon

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