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Tag [続刊レビュー] 2011.03.24
作品紹介→生まれも身分も違う、時代の終わりの一つの恋:みよしふるまち「東京ラストチカ」1巻



1106004550.jpgみよしふるまち「東京ラストチカ」(2)


あなたに、
出会えて、
よかった。



■2巻発売、完結しました。
 明治43年、東京。母を亡くし幼い弟を抱えた津村花は、子爵の有馬家に奉公に出ることに。そこで若き当主・有馬光亨と出会い、二人は次第に惹かれ合っていく。そんな中、花の身体に異変が…。当時死病とされていた、結核。仕事を辞め、隔離を余儀なくされた花を、何とか助けようとする光亨だが、一方で、花以外の抱える者たちの人生や、当主としての運命との天秤に悩む。時代は、明治末期を迎えていた。
 

~完結です~
 2巻にて完結しました。恐らく当初の予定通り。余計なエピソードを挟むことなく、ぐるり季節一周で、物語は完結を迎えました。1巻ラストで、これでもかというほどに匂わせていた悲恋の香り。花の咳の正体は、予想通り“結核”。当時「死病」と言われ、不治の病として知られていました。別れへのカウントダウン。物語は、明治~大正のロマンスの王道とも言える、悲恋の一途を辿っていきます。


~万年筆が紡ぐ二人の想い~
 想いも告げぬまま、明らかになった花の結核。お互いに気持ちは持ってはいたものの、二人を繫ぐにはその身分が、その時間が、あまりにも大きな壁となり邪魔をしていました。そして一度は選んだ、別れの道。死に別れではない、その前の、言葉で交わした別れ。そんな中、二人…いや動くことのできる光亨の背中を押したのは、意外にも花の弟である、秋吉と千鶴子でした。てか子供二人に諭されてやっと決心つくとか光亨どんだけダメ男やねんって気がしますが、主要登場人物が彼らしかいないのもまた事実。そんな子供に背中を押された形で屋敷を飛び出した光亨。そして感動の再会。もうその後は、切なさオンリーのベタなロマンスを展開します。
 
 そして最後、静かに別れるかと思いきや、光亨は花にかつて一度手渡した万年筆を再び花に託し、こんな言葉を残すのでした…
 

東京ラストチカ2-1
…手紙書くよ
僕が見たものは全部
君にあげる



 そんな光亨の言葉に花は、「お返事をします…」との言葉を返すのでした。二人のシーンはこれで終わり。その後物語は、明治から大正へと時が移ってからを映し出します。いわばエピローグ的なシーンの中に見られる、一つのコマ…
 
 
東京ラストチカ2-2
 そこに映っているのは、光亨の書斎と、その机の上にある箱と、その中にあるたくさんの手紙。この手紙が、花の死後も書き続けた、届かぬ手紙なのか、はたまた花から届いた手紙なのかは窺い知ることはできません。けれどもそこに積もる想いというのは、伝わってきます。前者であれば、どこまでも切なく、後者であれば、少しだけ救いが見られる。自分としては、花からの手紙というセンを推したいところですが、一体どちらなのでしょうね。でも最期まで、大事に大事に万年筆を握っていた花のことを考えると、きっと沢山の手紙を光亨に書いていたのではないかなぁ、と思えてならないのです。
 

~紡いだ先には、父がいる気がしなくもない~
 さて、先の光亨の「僕が見たものは全部、君にあげる」という言葉は、花への手紙という形を介して、最終的には光亨の習慣と化していきました。その具体的な内容は、エピローグにて「日記というか雑感というか…覚えておきたいことを書き留めておくという感じかな」という光亨の夢の中での言葉で表現されています。この時に使われているのは、もちろんあの万年筆。この万年筆というのは、花と光亨を繫ぐものであったと同時に、それ以前は、光亨と光亨の父を繫ぐ形見の品でもありました。
 
 そんな光亨と父ですが、父の死後も光亨は「あなたの心は最後までわからなかった」と、その関係の中に蟠りのようなものがあったことを明らかにしています。そのエピソードとして描かれているのは、その万年筆を父からプレゼントされた時のこと。父は光亨に対して万年筆をプレゼントするのですが、その万年筆を使って書いた光亨の小説を、破り捨ててしまいます。その原因は明らかにされていないのですが、その前に父は光亨に対してこんな言葉を残していました。


お前の仕事は机に向かってありもしないことを書き連ねることではない

 
 このメッセージを、光亨は物書きなどせず仕事をしろというニュアンスで受け取っていましたが、これを「ありもしないこと」という一点に絞るのであれば、あったことを書き、存在する人物のために書き連ねるようになった光亨のその行為は、父の想いを少しでも汲んでいるような気がして、それまで物語の中にあった全ての蟠りが、洗い流されたような気持ちにさせられます。いや、実際そんなことなかったのかもしれませんが、万年筆という一つのアイテムで紡いだ先に、そんなことがあったら素敵ではないですか。


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