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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2011.03.30
1106005301.jpg藤末さくら「星の散歩」


あなたがいないのに
私は前に進んでいいの?



■短編6編を収録。それでは表題作をご紹介。
 妹との学校からの帰り道、佑花と妹の千花が見つけたのは、小さな小さな子猫。妹が強く「飼いたい!」と言うけれど、お母さんは動物嫌い。家に帰って飼えないか頼んでみるけれど、結果は案の定No。ダメダメばかりで、自分の言うことなんて何にも聞いてくれないし、加えてお母さんは妹に甘い。不満の募った祐花は、その猫を神社に隠し、夜な夜な家を抜け出しては面倒を見ることにするけれど・・・
 
 「あのコと一緒」(→レビュー)の藤末さくら先生の新作短編集です。日常の中の喪失と再生を描いた、静かな作品が中心となっています。表題作をはじめ、6編の読切りが収録されています。どれも喪失や生きにくさを抱えながら生きる女性たちが主人公。大きな起伏のある物語たちではありませんが、静かに深く心に響く作品たちが多い印象です。それではいくつか気に入ったお話をご紹介しましょう。
 
 まずは3話目に収録されている、「5丁目のおんなのこ」。一年前に旦那を事故で亡くし、今は小さな息子と二人暮らしのエッコが物語の主人公です。お墓参りに寄った先で出会ったのは、昔から見知った関係である、そこのお寺の息子兄弟と、久々に再会した友達のハルカ。久々の再会に、少しだけ心躍ったエッコを待っていたのは、もう一つの再会でした。働き先の花屋に訪れたのは、中学のときに付き合っていた相手。「あのころに戻りたい・・・」そんな想いが頭をよぎったエッコは…というストーリー。「喪失と出会い」と標榜されているように、こちらもまた、旦那との別れと、初恋の相手との再会というエッセンスを含んだ物語。夫を想う気持ちはある。けれども突然の再会は、どうしたって心を揺らす。その狭間で迷いつつも、最終的に一つの答えを出すエッコの姿に、とても心打たれました。夫が亡くなったからこそ、誰かにすがりたいし、頼りたいんじゃないかと想いつつも、息子がいる以上、一人でも強くならなくちゃならないというその描写が、ある意味とても痛々しく、非常に印象深かったのです。


藤末さくら「星の散歩」
喪失を経るからこそ、自分の立ち止まりをより強く自覚。どうすれば先に進めるのか、先に進むべきなのか。思い悩む。


 もうひとつは、表題作にもなっている「星の散歩」。掲載誌がBE・LOVE(「ちはやふる」などを連載している雑誌)ということもあり、物語の主人公は比較的年齢層の高い(と言っても20代後半とか)話が多いのですが、同時に出てくる選択肢として、子供を主人公に据えるというものもあり、このお話はそんな、小学生の姉妹を描いたお話となっています。あらすじについては冒頭でご紹介したので割愛しますが、小学生とはいってもかわいらしさを前面に押し出したような「子供かわいい!」系のお話ではなく、自らの幼少期を回顧するような形で、ややほろ苦さを含んだストーリーとなっています。物語の軸となるのは、「まだまだ甘えたいけれど、妹がいるのでお姉ちゃんらしくしなくちゃいけない」という所からくるジレンマのようなもので、歳の近い兄弟のいる人なら誰しもが経験したような感覚。そこに、とある非日常的なイベントを交えて、より印象的にしているのですが、その話運びが上手く、一つの短編として、非常に満足度の高い作品となっていました。
 
 そういえばつい最近、日曜の夕方にやっているちびまるこちゃんで、まるこがお姉ちゃんばっかりお母さんから贔屓されていてずるい!みたいな気持ちに陥るお話が放送されたのですが、こちらは全くの逆サイドからの視点で、いわばまるこのお姉ちゃん視点になります。この年頃の子って、「自分じゃない方が明らかに可愛がられてる!」とか思うわけですが、それが噴出して思い出話として語れるのって、意外と時間が経たないと難しいんですよね。自分も数年前、実家に帰った際に妹にそんな話をされて、「いやいや、お前の方が明らかに可愛がられてたろう」とか思ったり。本当に小さい頃の記憶って、些細なことまで覚えていて、例えば会話に「あのときお兄ちゃんの方がアイス多く盛りつけてあった」とか出てきて驚いたりしました。
 
 それぞれの物語に埋め込まれるメッセージは、至極シンプルで、そして暖かさを含むもの。その暖かさを手に入れるには、何かしらの喪失を経なくてはいけないわけですが、だからこそそのささやかな温もりが、愛おしく感じられるわけで。ふとしたときに、読み返したい物語だと思いました。
 

【男性へのガイド】
→女性メインのお話なので、やはり女性の共感が大きい作品かと思います。男の人は、作中で損してるパターンも多いですし、ただそういうところがリアルでもあるわけで、そういうところが良いという方はぜひとも。
【感想まとめ】
→もうちょっとドライなお話が多いのかとおもいきや、もうちょっと傷が深くて、そして最後にちょっと温かかったです。少しイメージと違いましたが、また違った引き出しを見れて、作者さんのファンとしては満足。一つの短編集として捉えるのならば、ややインパクト不足かと思えるかもしれませんが。




作品DATA
■著者:藤末さくら
■出版社:講談社
■レーベル:KC BE・LOVE
■掲載誌:BE LOVE
■全1巻
■価格:419円+税


■購入する→藤末さくら「星の散歩」

カテゴリ「BE・LOVE」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

この記事に関係のない内容ですみません(>_<)

いつもブログ楽しく読んでいます♪レビューもすごく丁寧でこのブログを読んでから気になる少女漫画が急増しました!(笑)

ところで「さあ秘密をはじめよう」という漫画はご存知ですか?
主人公がかわいくて最近私のお気に入りの漫画なのですが、ざっと目を通したところレビューが見当たらなかったので紹介したくなりコメント致しました*

もしすでにご存知でしたら申し訳ありませんm(__)m
よろしければ読んでみてください♪

これからも更新楽しみにしてます(*^^*)!
From: 美佳 * 2011/04/03 00:14 * URL * [Edit] *  top↑
お返事遅れてしまい申し訳ありません!

いつも見て下さり、本当にありがとうございます!
拙いレビューばかりですが、少しでもお役に立てたのでしたら光栄です。。。

「さあ秘密をはじめよう」はタイトルは知っているのですが、読んだことなかったですー。
今度機会があったら読んでみようと思います。

コメントありがとうございました!
From: いづき@管理人 * 2011/04/23 21:08 * URL * [Edit] *  top↑

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