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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.04.04
merryrose.jpg都戸利津「燈港メリーローズ」(1)


僕はあなたに
命だって懸けているのに



■20世紀初頭、東西の人と文化が交わる、アジアの港町・燈港。過去に良くしてくれていた、遠縁のエドガーから届いた手紙を頼りに、長い船旅の果て、アゼリアは燈港を訪れる。しかしそこにエドガーの姿はなかった。頼る者なく町を彷徨い、罠に陥ったアゼリアの前に現れたのは、額に傷跡のある怪しげな男。助けられるがままに、その怪しげな紳士・オーガストについていったアゼリアは…

 「環状白馬線車掌の英さん」(→レビュー)や、「群青シネマ」(→レビュー)を描いている都戸利津先生の新作でございます。「英さん」ではヨーロッパを思わせる異国を舞台とした人間群像を描き、「群青シネマ」では昭和の日本を舞台に青春群像を描いたのですが、今度は20世紀初頭のアジアの港町を舞台に、物語を描いていきます。とはいえヒロインとなるのは、ヨーロッパ人の女性。遠縁のエドガーの手紙を頼りに、東西の人と文化が交わる港町・燈港を訪れた、アゼリアとその従者・ドロシー。しかし訪れてみてびっくり。その燈港は、うら若き二人の娘が無防備に歩いていて、無事に住むような治安の良い街ではなく、付いて早々に詐欺や窃盗…次々とトラブルに巻き込まれます。そんな中、怪しくも柔らかな物腰で、アゼリアたちを救ってくれたのは、燈港で美術商をしている男・オーガスト。アゼリアと同じ国の出身だという彼は、どうやらアゼリアのことを知っているようで…というストーリー。
 
 前作、前々作共に非常に美しい構成の素敵なストーリーを描いてくれた都戸利津先生ですが、今作もまた独特の雰囲気と共に、深みのある物語構成を予感させる期待感たっぷりの作品となっております。物語の軸となるのは、アゼリアが追いかけてきたエドガー(着いてみると彼は既に亡くなっていた)と、怪しき紳士・エドガーを初めとした数々の謎めいた人間関係。お嬢様ながら非常に勝ち気で姦しいヒロイン・アゼリアは、向こう見ずに華やかながらも危険な街・燈港の危ない部分に首を突っ込んで行き、その暴走を、相手を掌握する術に長けたオーガストが、フォローするという関係。そのオーガストの思惑も明らかでなく、なぜ命を賭してまでアゼリアを守ろうとするのか、どうしてこの街に住んでいるのか、そして額にある傷はどうしてできたのか、、、気にしはじめたらキリがないほどの謎に溢れています。


メリーローズ
命を懸けるまでの覚悟。その言葉には、単に駆け引き上手というだけでなく、何か強い意志めいたものを感じます。


 都戸先生の作品に共通するように、静かで雰囲気先行のスタート。けれども物語が進むうちに、あちこちに仕掛けられたスイッチが作動して、最後には見事に綺麗な物語が形作られている…というこれからを予感させる1巻。1巻の時点ではこれといった形が見えないのですが、あからさまな程に伏線を感じさせる登場人物たちが、もうワクワク感を刺激しまくりです。またエキゾチックな雰囲気の街を舞台に、おてんばなお嬢様が怪しげな紳士に守られつつ駆け回るというシチュエーションが個人的には◎です。ただこれだけだと、都戸先生の作品が初見の読者さんは、味気ないとフェードアウトしていきそうな気がしないでもないわけですが、それを求めると物語的に無理が出てきてしまう気もするわけで、難しい所ではあります。もう少し、物語の本丸が見えてくるとまた違うのかもしれませんが。


【男性へのガイド】
→この活劇を楽しいと思うのは、女性の方が多いのではなかろうか。というのも、オーガストの振る舞いが魅力的であり、アゼリア的に楽しむとすごく楽しいから。とはいえ舞台、雰囲気を楽しむということも十分可能で、読みにくさはないとは思います。
【感想まとめ】
→1巻のみだと多くの人にオススメしづらいところがあるかもしれませんが、多分最終的には綺麗な形になるんだろうなぁと。そういう期待感込みでのあれです。



作品DATA
■著者:都戸利津
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:別冊花とゆめ(連載中)
■既刊1巻
■価格:524円+税


■購入する→Amazon

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