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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.04.05
1106005340.jpg香魚子「シトラス」(1)


転校生なんてはじめてで
気になってしかたない
どんな子なんかな
なにが好きなんかな



■小さな田舎町・木ノ戸町でまっすぐに育ってきた志保は、今年で中学3年生。ピアノを弾くのが大好きで、音楽部所属。将来の夢は、音楽教室のないこの町で、ピアノ教室を開くこと。そんな志保のクラスに、ある日転入生がやってくる。東京からやってきた美少女・奈七美。美しい見ためで、一目を引く一方で、冷たく人を寄せ付けない性格の持ち主の彼女。彼女との出会いで、志保の全てが変わり始めるが…

 ついに来ましたよー!魚香子先生のオリジナル連載です!「さよなら私たち」(→レビュー)や「隣の彼方」(→レビュー)など短編集が尽くツボで、オリジナル連載を心待ちにしていたのですが、ついに来ました!のっけからテンションも高くなるってもんです。というわけで、「シトラス」のレビューお届けです。物語の舞台となるのは、おそらく九州をモデルとしていると思われる田舎の小さな町・木ノ戸町。小さな小さな、けれども景色の綺麗なその町で生まれ育った志保は、ピアノが大好きな中学3年生。擦れることなく育ち心優しく育った彼女の将来の夢は、ピアノ教室を開くこと。そんなある日、中学3年というこの時期に、東京から一人の女の子が転校してきます。奈七美という名のその美少女は、都会的な雰囲気と、クールで人を寄せ付けない雰囲気を纏っている子。出会ったその日から、彼女に目を奪われた志保は、彼女と仲良くなろうとするけれど、待っていたのは手厳しい返しで…というはじまり。


シトラス1-1
香魚子先生のキャラたちは、その淡さのあるタッチのせいか、どこか冷たさや生気のなさを感じさせる時があるのですが、それを吹き飛ばしみるみる温度を持たせるのが、涙。というかこのヒロインに限って言えば、かなりふわふわしていて珍しい感じ。


 心に傷を持つ奈七美、心に傷を持つことなく真っ直ぐに育った志保。奈七美この町から早く出たいと思っている一方で、志保はこの町が大好きで、この町での将来を思い描いている。とにかく何もかもが対局な二人の出会いが巻き起こす、小さな嵐。この二人の関係をベースに、志保の幼なじみの男の子に、問題児とのレッテルを貼られる男子と、話は広がりを見せていきます。青春群像劇ということで、誰か一人の視点が固定され展開されるのではなく、話毎に視点が入れ替わり、それぞれの思惑が明らかに。周りからはこう見えているけれど、自分はこんな風に思っているという部分を、視点の切り替えから描き出すわけですが、その描き方が絶妙で、良いのですよ。
 
 基本的には奈七美対その他というパターンから動きが生まれるわけですが、中学生という多感な年頃の場合、心に傷を持つ子とそうでない子がぶつかった場合、最終的に擦れていない方が救い上げるとしても、多少の傷は双方についてしまうわけで。このお話も、瑞々しくも非常に痛々しい物語となっています。中学生なんてのはコンプレックスの固まりみたいなもので、同時に自意識がすごく高まってくる時期でもあります。故に人間関係の中で、必要以上に傷ついてしまったり、逆に傷つけてしまったり。今思えば他愛もない些細なことですら、彼ら彼女らは本気で悩み、そしてそれを越えて一つ大人になっていく。高校入学前という、田舎町でいう別々の道を進む別れの時が近づいた時の、この心の削り合いが、痛くてどこかムズ痒くて、そしてどうにも目が離せないという。


シトラス1-2
男の子の気持ちも描く。どちらかというと男の子の方が全体的に擦れていない分、安心してみていられるかも。


 元々恋愛ど真ん中で行く先生ではないので、作品におけるトキメキ成分は少ないのですが、こちらは青春群像ということで、これから俄然高まってくる可能性大。そして何より、主要登場人物たちがそれぞれキャラが立っていて、そして魅力的。何といってもヒロインの志保の、とにかく真っ直ぐで優しいそのイノセンスっぷりが、とにかくイチオシではあるのですが、その他幼なじみの崇がまた。年上の高校生に恋してしまう彼、その想い方がすごく健気でかわゆいのです。だだもれ的にとびきり意識しているけれど、中学生と高校生という壁は厚く、踏み出すには至れない。ああっ、もうその感じイイ!とにかくオススメでございます。期待を裏切らない、素敵なお話でした。続きが楽しみです!


【男性へのガイド】
→描く群像は少女漫画的ではあるけれど、タッチと良い情景と良い、多くの人に受けそうな一作になっていると思います。ヒロインかわいいですし、男の子は不器用で親しみ深いですし。
【感想まとめ】
→良いですねー。まだぐさりと来るような鋭さは発揮していないものの、それでも香魚子節は健在。もちろんオススメです。本誌ではどこまで人気出るのかわかりませんが、だからこそ単行本買いましょう!


■作者他作品レビュー
香魚子/谷瑞恵「伯爵と妖精」


作品DATA
■著者:香魚子
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレット
■掲載誌:別冊マーガレット(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
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レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
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高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。