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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.04.17


1106016407.jpgヤマシタトモコ「ミラーボール・フラッシング・マジック」


先生
おれは
…先生の裸のことばかり考えてしまいます



■読切りを多数収録。
 中学生に口説かれる女、夫に肉体交渉する妻、10年来の方想いが終わる女、毒舌教師の裸を妄想する男子高生、すけべなシングルマザーの赤子を抱く悪人…恋と欲望、自己嫌悪に罪悪感、友情、様々な想いを凝縮した読切り10編。欲望を抱えた人間とは、かくも醜く、そして愛おしいのか。純愛は欲望を呼ぶ、濃密かつ爽やかな、強力作品集登場!!

 「HER」(→レビュー)、「ドントクライ、ガール」(→レビュー)で昨年のこのマンガがすごい!オンナ編にてワンツーフィニッシュを飾った、ヤマシタトモコ先生の新作読切り集でございます。発刊は祥伝社ということで、先の「HER」や「Love,Hate,Love.」(→レビュー)と同じ。表題作シリーズをはじめとした、どちらかというと短編としてもやや短い、ショートショートめいたお話が、多数収録されています。とりあえずの目玉な、表題作かと思われますので、そちらをご紹介しましょう。物語は、頭も軽ければ股もユルい彼女と口論(というか一方的に泣き叫ばれる)する一人の男の回想からはじまります。「なんでこんな女と付き合ってんだろ」「今夜こそ絶対に別れよう」そんな想いが頭をかすめたとき、物理的な意味で、もう一つ彼の頭を何かが霞めました。その物体は、ミラーボール。ありふれた夜の団地に突如降った、一つのミラーボールが、数々の人に小さなキセキを起こすことになるとは…


ミラーホ#12441;ールフラッシンク#12441;マシ#12441;ック
ミラーボールが起こす奇跡。瞬間的にも、物語的にも、絶妙すぎるアイテムとして登場。こんなバカらしくて面白い話があるのかと、ビックリでした。


 裏表紙側の帯に「純愛は欲望を呼ぶ」と書いてあるように、少年少女、いい歳した男女など、それぞれの性別・世代が抱える欲望というものが、やや強く出た内容となっています。のっけから、不美人ではないがやたらと男っぽい美術教師に対して、裸だのおっぱいだのあらぬ妄想を抱いてしまう男子高校生のお話が収録されており、なかなかのインパクトが。この他も主に、別に意識しなくても良いのだけど、目を向けざるを得ないようなエロ絡みの欲望が中心。表紙の配色からしてやや淫微な印象ではあるのですが、実際結構クセが強い印象です。とはいえさすがのストーリーテラー。そんなクセやドライさの連続の中にも、ズバンとトキメキを持ってくるのだからさすが。いや、むしろそういった運び方をするからこそ、揺り戻しでの感動が大きくなるのかもしれません。各々の中に潜む、ちょっとした変態的な部分や欲求不満な部分を増幅させた結果、このような不思議な風合いの作品が生まれたという感じ。どれも短く、小さくまとまっているのですが、非常に印象に残るのですよ。
 
 「ドントクライ~」の時もそうだったのですが、ち○こだなんだとかなり節操のないワードが頻繁に登場するのは、もうヤマシタ先生の性(さが)ってやつなのかもしれません。逆にピュアな主人公描くと、どこまでもプラトニックになるので、その落差がまた。。。そして男子主人公になると、一律「変態だけどすっごいピュア」になるという。一方女性の場合は、通して劣等感(特に比較相手がいるわけではありませんが)や焦りを感じており、それが行動・非行動の根源になっている印象があります。そうした中、最後に何かしらの希望の灯りを灯すところ、素敵です。


ミラーホ#12441;ールフラッシンク#12441;マシ#12441;ック1-2
トキメキ的な要素もあります。クセの強い作品が多数あるため、こういったシーンが逆に引き立ちます。


 個人的にお気に入りなのは、表題作シリーズの中の2話目。アラサー女子が、近所の中学生に想いを打ち明けられ、「付き合おう」と迫られるというお話。まずこの状況からしてありえないのですが、ありえない状況に冷めた感じで対応するヒロインがいい感じ。そして最後の、ミラーボールの奇跡からの表情が、もう…!その後のエピソードもまた良し。少年少女のトキメキも幾つかありましたが、一番ピュアピュアしてたのはこれだったような気が。このお話が凄く良いと思えるのは、単純に読んでいてヒロインや相手役の反応ややりとりがツボってのもあるのですが、先に述べた男のピュアさと、女性の劣等感的な感情が、より強く関係性の中に落とし込まれているような気がするから。この短い中で、その破壊力たるや。。。
 

【男性へのガイド】
→帯に花沢健吾先生が「男が読むべき漫画です」とのコメントを残されているように、男性が読んでこそ面白そうな作品もちらほら。
【感想まとめ】
→一つ一つ、当たり前のように面白く、満足。しかしながら、短編集とはいえやや統一感に欠ける印象が拭えないのと、またクセが強いことから大手をふってオススメという感じにしきれないのが歯がゆいところ。もちろん、面白いですよ、2回目ですけど。


■作者他作品レビュー
ヤマシタトモコ「恋の話がしたい」



作品DATA
■著者:ヤマシタトモコ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:648円+税


■購入する→Amazon

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