谷川史子「他人暮らし」
ああ私
誰かをちゃんと愛してみたい■純花、頼子、サワは33歳の同い年3人組。それぞれバツイチ、独身、主婦と立場は違うものの、気のおけない親友同士で、しばしば会っては楽しい時間を過ごしていた。そんなある日、両親が遺した一軒家に暮らす純花の元に、頼子とサワが転がり込んできて、一か月限定の共同生活を始めることに…!異なる結婚観を軽妙に描く表題作のほか、亡くなった同僚への想いを描く読切りも収録!とくとご覧あれ!
谷川史子先生の作品集です。3話収録の表題作シリーズの他に、読切り一編を収録しております。それでは表題作のご紹介をば。物語を作るのは、3人の女性。純花、頼子、サワは、33歳同い年の仲良し3人組。それぞれバツイチで独り身、仕事一筋の独身、エリートとの新婚ホヤホヤという、異なる立場にいるものの、気のおけない親友同士です。そんなある日、両親が遺した一軒家に一人で暮らすサワの元に、二人が転がりこんでくることに。頼子は自分の部屋に変質者が出たから、そしてサワはハネムーン前の痴話喧嘩で…。それぞれ一か月限定と約束した純花は、3人と一緒に生活することになるのですが…というお話。それぞれ異なる結婚観を、それぞれの視点から描いていきます。

それぞれ立場が異なるからこそ、言える言葉、出せる答え。
それではそれぞれの感想を。まずはバツイチ独身で、今は悠々自適の生活をしている純花のお話。一度の離婚と、今回の共同生活を通して、他人と一緒に暮らすことに向いていないことを痛感させられる彼女。私は離婚はもちろん結婚すら経験していないので、バツイチの方の心情を計ることは到底できないわけですが、こう他人に介入されずに悠々自適の日々を送っている中で、それが妨げられる時の不愉快さはものすごくわかるわけで(笑)それが結果として、「自分って本当に小さな人間だ…。共同生活に向いていない…。」という思いを発生させるという。結婚したら、当然そういった自由は制約され、いわば我慢の積み重ねになるんですよね。彼女は自分のことを振り返り、「もっと愛してあげることができた」と自分を責めるわけですが、導かれた救いは、「もっと色々してもらおう」という形。なまじ独力であれこれ片付けてしまえる人は、あまり他人に頼るという感覚がない人でもあるわけで、それを一緒に生活しているときも無意識に貫いてしまう部分があるのかな、と。ちょっと目先を変えれば、意外と簡単に適応できるのでしょうが、なかなか難しいのですよねぇ。。。
お次は仕事を未だバリバリこなし、お相手不在の編集者・頼子。彼氏なし、実家に帰っても「結婚しないの?」は通り越して「結婚しないよね」なんて言われる始末。そんな彼女には最近、10歳歳下のバイトの男の子がいて…というストーリー。頼子としては、33歳という年齢であるが故になかなか冒険できないという躊躇があり、またこれだけ歳が離れていればそもそも相手してもらえないという想いがあったように映りました。未婚独身の社会人としては、このお話が一番親しみを持って読むことが出来たのですが、いかんせん私は20代の男子なので、シンクロするのはむしろお相手の男の子の方。そんな歳下的に言えば、33歳とかすごく素敵な年代で、しかもお仕事一緒にしているのであれば頼りがいのある憧れ的存在ですよ!とはいえ33歳ゆえの世間体や焦りを取り去る術は心得ておらず、なかなか難しいのかもしれんです。しかし33歳でもトキメクその感じがとっても素敵で…!トキメクと胸の底から風が吹いてくる感じ(だと勝手に思っている)のですが、この瞬間ときめいた時の描写、

ほらやっぱり風が吹いてる!
いつまでもトキメキを忘れずに生きたいものですよ、はい。
最後は新婚ホヤホヤのサワのお話。小さい頃からの夢は「お嫁さん」で、その夢を叶えるために、条件に合致したお相手と結婚。その後ろめたさに苛まれるというお話なのですが、条件ってやっぱりありませんかね?誰にも言わずとも。多分それって、人によって「こういう人が良い!」と「こういう人はイヤ!」という上でのハードルと、下でのハードルを設けている程度の違いはあれど、みんな持ってるものだと思うんですよ。それを意識した時に生まれる罪悪感を描くとは。それを明示的に意識してしまったとき、どう折り合いを付けるか。その答えの一つを、とてもとても優しい形で呈示してくれた谷川先生、すっごく真面目で、誠実な人なんだろうな、と勝手に思ったり。
どれも現在進行形で、切なさというよりはやるせなさが先行するお話たちなのですが、どれも自分を責めて、後悔するというパターン。そしてそれを他人が、相手が、友達が補うという構成を見せており、人と人の繋がりの素晴らしさを堪能できるお話となっています。また同時収録の読切りもすごく良かった!こちらは亡くなった同僚への想いを描く一作なのですが、本当に切なくて切なくて切なくて。。。次から始まる月曜日を、もっと大事に生きようと思える素晴らしいお話でした。
【男性へのガイド】→谷川史子先生ですし、オススメです。とはいえ結婚という部分については、男女間での違いというのもありそうで、谷川作品的には比較的女性よりな作品かも。
【感想まとめ】もちろんオススメです。切なさ控えめも、様々な幸せの見つけ方を教えてくれる、温かく幸せな気持ちになれる一冊です。
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谷川史子「手紙」谷川史子「P.S.アイラブユー」谷川史子「おひとり様物語」作品DATA■著者:谷川史子
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックスコーラス
■掲載誌:コーラス
■全1巻
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