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Tag [新作レビュー] 2011.04.26
1106019020.jpg久世番子/大崎梢「平台がおまちかね 出版社営業・井辻智紀の業務日誌 」


本を作る人
本を売る人
そして読む人へ



■書店の片隅から平台の本をニヤニヤ見守る謎の人物!?イツジ智紀は老舗出版社・明林書房の新人営業マン。自分が担当することになったのは、それまで伝説の営業マンが担当していた地域で、なかなかハードルは高い…。個性的な書店員&ライバル出版社の営業に鍛えられながら、今日も「ご注文ありがとうございます!」。一人前の営業マンを目指す井辻くんが、新刊フェアのご案内から、ポップの暗号解読まで、日々の業務に奔走するハートフル・ミステリー!!

 「暴れん坊本屋さん」等、エッセイ系マンガで人気を博す、久世番子先生の真面目系作品。元々こっちの作風でやっており、ウチのサイトでも「ふたりめの事情」(→レビュー)などご紹介しておりますので、ご興味のある方は是非。原作付きのコミカライズ作品となります。出版社に勤める新人営業マンのお話。主人公は中堅以下の出版社に勤める、井辻くん。日々自分の担当区域の書店を回るのですが、自分が引き継ぐ以前にそこを担当していたのは、社内のみならず社外にもその評判を轟かせる伝説の営業マン。ゆえに最初は比べられ苦戦するのですが、他者営業や書店員さん、そして先輩に支えられながら、出版社営業として成長していく様子が描かれていきます。お仕事マンガに、ちょっとしたミステリーを仕掛けた1話読切り形式の作品となっています。


平台がおまちかね
何気なく見ている平台も、営業さん視点だとまさに戦場であり舞台であり…。様々なドラマが潜んでいます。


 原作付きとは言えど、久世番子先生自身も書店で働いていた経験があるわけで、知らない人間が描くよりもよりリアルに、書店や出版業界というものが描かれているのではないかと思います。出版社マンガというと、どうしても編集にスポットが当てられがちですが、こちらは営業と、同じ職業マンガでもなかなかに新鮮。書店に通っている者としては、編集さんよりも、店先にて陳列作品をチェックして書店員さんと話している営業さんの方が、より身近な印象があります。そんな営業さんの仕事、やりがい、そして様々な人たちとの触れ合いを描いていくわけですが、やはり如何せんキツくはあるも地味な仕事ですので、ミステリーというスパイスで物語として味付け。結構ちゃんとした謎解きがあって、なかなか読み応えがあります。単純な職業マンガとして読むのであれば、ちょいと邪魔に感じる方もおられるやもしれませんが、そういう所を狙った側面は薄いと思われ、そのことを承知の上でお読みになるのが良いかと思われます。
 
 いわゆる世間的な認知度の高い久世番子作品的な、ギャグチックな笑いはなく、あくまで日常コメディの中に落とし込まれた一つのネタレベルでの笑いがある程度です。このシフトチェンジはなかなかのもので、ばっちりハートフルコメディに仕上っているんですよね。そして泣かせるお話も当然あるわけで。絵本作家との関わりを描いた「絵本の神様」では思わず泣いてしまいました。もうね、本当に笑えるくらいにベタなんですが、絵本という題材がそれを許すというか。不意打ちすぎて完全に油断してました…。一口に「本」や「出版」と言っても、実に様々な媒体・仕事・人物が関わっており、しかも切り分けが意外と曖昧なのだなぁ、と。他社営業さんと頻繁に飲みに行くというのも、お仕事でというより、普通に友人と飲みにいっているような感覚で描かれていたり、ちょっと羨ましいなぁと思ってしまいました。


【男性へのガイド】
→主人公は男性ですし、皆々冴えない感じもなかなかに親しみやすいです。ハートフルなお話がお好きな方は是非とも。男女問わず読みやすい作品に仕上っていると思います。
【感想まとめ】
→平台に積まれていたのですが、目立たなかったですねぇ、この本は(笑)というわけで、表紙の印象のままに全体的に地味なお話ですが、それでも読めばそこには本に対する愛や情熱が溢れ、確かに心に響く作品となっていました。本好きとしては、こういうの読めただけでも良かったかも。


■作者他作品レビュー
久世番子「私の血はインクでできているのよ」
久世番子「ひねもすハトちゃん」
久世番子「神は細部に宿るのよ」1巻


作品DATA
■著者:久世番子
■出版社:新書館
■レーベル:WingsComics
■掲載誌:ウィングス
■全1巻
■価格:590円+税


■購入する→Amazon

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From:  * 2011/05/27 17:11 *  * [Edit] *  top↑

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




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2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




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レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。