作品紹介→目が覚めたら私、超嫌われ者でした…:池谷理香子「シックス ハーフ」1巻
2巻レビュー→記憶喪失だけでなく、兄妹での恋愛まで:池谷理香子「シックスハーフ」2巻
関連作品レビュー→池谷理香子「微糖ロリポップ」
池谷理香子「シックス ハーフ」(3)
結局どうしても
家族っていう実感が持てない自分が苦しい
■3巻発売です。
バイクで事故って、記憶喪失になってしまった詩織は、援交をやっていた等々、過去の自分に関する噂を聞いて、戸惑いの淵に立たされる。兄・明夫に支えられ、段々と平穏を取り戻していく詩織だったが、明夫が幼なじみの瑞希と付き合いだした事から、事態は急転して!?明夫への想いが、段々とハッキリしていくなか、詩織の元に、一通の郵便が届くが。。。
~兄の真意、妹の心~
3巻発売となりました。未だ詩織の記憶は戻らず、3巻も相変わらずの状態で物語は進んでいきます。2巻の流れからすると、兄の真意が明らかになるのかなぁ、なんて思ったのですが、そこまで大きな変化は見られず。「昔からどうしてそうやって…(迷惑かけるの)」とちょっと語気を荒げて詩織に話した程度で、詩織が見た夢の正体は明らかにはなりませんでした。
そんな明夫に対して、今回大きくフィーチャーされたのが、妹のまーちゃんでした。これまで頑なに詩織を嫌っていた彼女。どうして嫌いになったのかなんてのは、以前の詩織の性格からすれば容易に想像できるのですが、今回描きたかったのは、原因などではなく、その根の深さ。いかんせん詩織の視点からのみ描かれるので、なかなか元いた側からの視点にシフトさせて読むことは難しいのですが、そうそう簡単に、今まで嫌っていた人と和解するなんてできないわけですよ。詩織の視点の場合、記憶喪失になって以降での付き合いでしかないので、簡単に今まであった垣根を越えてしまうことができるのですが、積み重ね積み重ねいたまーちゃんからすると、なかなかそうはいかないわけで。ましてやそれが、今の自己形成の一端を担ってすらいたとしたら、それはもうダメージも大きすぎるものなわけで。

自分を否定し続けた相手に対しての反骨によって出来上がっていた自分が、相手の中の否定の消失と共に消えてしまうような、そんな感覚なのかな、と。だからここで、彼女がすんなりと受け入れられるわけはなく、詩織が彼女に渡したプレゼントを捨ててしまったのも、そういった心理を象徴しているようで、すごく印象に残りました。あれで受け取っちゃ、絶対にいけないんですよ、彼女は。詩織の視点だと、なんて意固地な妹なのだろうと思うかもしれませんが、自己の消失がかかっているのだとしたらそれは必死。詩織が記憶喪失後の自分を必死に守ろうとしているように、まーちゃんもまた詩織の記憶喪失以前の自分を、必死に守ろうとしているのです。
~瑞希への敵意はどこから…~
さて、そんな中詩織が敵意むき出しにしているのが、瑞希さん。すごく良い人のように映る彼女ですが、一体何があるのか。現時点で詩織が彼女を嫌っているのは、明夫を取っていってしまうという想いがあるから。言ってみれば彼女のホームともいうべき場所は、彼の隣しかないわけで。それが今後、元カレやモデルという仕事に取って代わるかもしれませんが、少なくとも今は、ここにしか居場所は見出せていないわけで。それが失われるとなれば、そりゃあ必死に抵抗するわけですよ。しかしここで面白いのは、記憶喪失以前の詩織もまた、瑞希を嫌っていたということ。そもそも記憶喪失以前の詩織は皆々嫌っていたようなきらいはあるのですが、どうも父の死亡時の反応などを見ると、単純な理由だけには思えないのですよね。

「アンタのせいだ」なんてなかなか言わないですよ。それだけの理由が、そこにはあったんじゃないかな、と。一体何があったのか、非常に気になるところです。知ったら恐ろしそうではあるのですが…
~隠されている、本当の恐ろしさ~
なんて言って、この物語で一番恐ろしく厄介な相手は、明夫でもまーちゃんでも、瑞希でもないわけですよ。どう考えても、記憶喪失以前の自分というのが一番怖いわけで。その時の記憶が戻ってしまえば、喪失以降築き上げてきた価値観や関係性など、一瞬で吹き飛ばしてしまう可能性もあります。他者との関わりの中で、段々とその側面が隠されてきたように思いますが、常に大きな爆弾が落ちてくる可能性がある状況下におかれているという。すごくこわくないですかね、この状況。それをむき出しにせず、上手く隠しながら、淡々と淡々と物語を進める、その辺がすごく怖くて、そして面白い。もう、本当に盛り上がりとか関係なく、作者さんはその時限爆弾のスイッチを押せるわけですから、一瞬たりとも目が離せないんですよ、このお話は…!
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2巻レビュー→記憶喪失だけでなく、兄妹での恋愛まで:池谷理香子「シックスハーフ」2巻
関連作品レビュー→池谷理香子「微糖ロリポップ」

結局どうしても
家族っていう実感が持てない自分が苦しい
■3巻発売です。
バイクで事故って、記憶喪失になってしまった詩織は、援交をやっていた等々、過去の自分に関する噂を聞いて、戸惑いの淵に立たされる。兄・明夫に支えられ、段々と平穏を取り戻していく詩織だったが、明夫が幼なじみの瑞希と付き合いだした事から、事態は急転して!?明夫への想いが、段々とハッキリしていくなか、詩織の元に、一通の郵便が届くが。。。
~兄の真意、妹の心~
3巻発売となりました。未だ詩織の記憶は戻らず、3巻も相変わらずの状態で物語は進んでいきます。2巻の流れからすると、兄の真意が明らかになるのかなぁ、なんて思ったのですが、そこまで大きな変化は見られず。「昔からどうしてそうやって…(迷惑かけるの)」とちょっと語気を荒げて詩織に話した程度で、詩織が見た夢の正体は明らかにはなりませんでした。
そんな明夫に対して、今回大きくフィーチャーされたのが、妹のまーちゃんでした。これまで頑なに詩織を嫌っていた彼女。どうして嫌いになったのかなんてのは、以前の詩織の性格からすれば容易に想像できるのですが、今回描きたかったのは、原因などではなく、その根の深さ。いかんせん詩織の視点からのみ描かれるので、なかなか元いた側からの視点にシフトさせて読むことは難しいのですが、そうそう簡単に、今まで嫌っていた人と和解するなんてできないわけですよ。詩織の視点の場合、記憶喪失になって以降での付き合いでしかないので、簡単に今まであった垣根を越えてしまうことができるのですが、積み重ね積み重ねいたまーちゃんからすると、なかなかそうはいかないわけで。ましてやそれが、今の自己形成の一端を担ってすらいたとしたら、それはもうダメージも大きすぎるものなわけで。

自分を否定し続けた相手に対しての反骨によって出来上がっていた自分が、相手の中の否定の消失と共に消えてしまうような、そんな感覚なのかな、と。だからここで、彼女がすんなりと受け入れられるわけはなく、詩織が彼女に渡したプレゼントを捨ててしまったのも、そういった心理を象徴しているようで、すごく印象に残りました。あれで受け取っちゃ、絶対にいけないんですよ、彼女は。詩織の視点だと、なんて意固地な妹なのだろうと思うかもしれませんが、自己の消失がかかっているのだとしたらそれは必死。詩織が記憶喪失後の自分を必死に守ろうとしているように、まーちゃんもまた詩織の記憶喪失以前の自分を、必死に守ろうとしているのです。
~瑞希への敵意はどこから…~
さて、そんな中詩織が敵意むき出しにしているのが、瑞希さん。すごく良い人のように映る彼女ですが、一体何があるのか。現時点で詩織が彼女を嫌っているのは、明夫を取っていってしまうという想いがあるから。言ってみれば彼女のホームともいうべき場所は、彼の隣しかないわけで。それが今後、元カレやモデルという仕事に取って代わるかもしれませんが、少なくとも今は、ここにしか居場所は見出せていないわけで。それが失われるとなれば、そりゃあ必死に抵抗するわけですよ。しかしここで面白いのは、記憶喪失以前の詩織もまた、瑞希を嫌っていたということ。そもそも記憶喪失以前の詩織は皆々嫌っていたようなきらいはあるのですが、どうも父の死亡時の反応などを見ると、単純な理由だけには思えないのですよね。

「アンタのせいだ」なんてなかなか言わないですよ。それだけの理由が、そこにはあったんじゃないかな、と。一体何があったのか、非常に気になるところです。知ったら恐ろしそうではあるのですが…
~隠されている、本当の恐ろしさ~
なんて言って、この物語で一番恐ろしく厄介な相手は、明夫でもまーちゃんでも、瑞希でもないわけですよ。どう考えても、記憶喪失以前の自分というのが一番怖いわけで。その時の記憶が戻ってしまえば、喪失以降築き上げてきた価値観や関係性など、一瞬で吹き飛ばしてしまう可能性もあります。他者との関わりの中で、段々とその側面が隠されてきたように思いますが、常に大きな爆弾が落ちてくる可能性がある状況下におかれているという。すごくこわくないですかね、この状況。それをむき出しにせず、上手く隠しながら、淡々と淡々と物語を進める、その辺がすごく怖くて、そして面白い。もう、本当に盛り上がりとか関係なく、作者さんはその時限爆弾のスイッチを押せるわけですから、一瞬たりとも目が離せないんですよ、このお話は…!
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