
誠司の10年と
あたしの10年は違うと思う
■幼い頃に母親を亡くした葉瑠。それからはずっと、義理の父親である誠司と二人暮らしを続けてきた。出会った時は、まだ小学校に上がる前。でも気がつけば、葉瑠も高校受験を控えた中学3年生。そんなある日、葉瑠は誠司の祖父のお葬式に立ちあうことになる。そこで知る、実家と誠司との関係。そして同じタイミングで、いままで長く暮らしてきたアパートが取り壊されることになって…!?義理の父娘がお届けする、ほっこり同居物語。
以前ご紹介しました、河原和音先生原作の「友だちの話」(→レビュー)にて作画を担当された、山川あいじ先生の新連載となります。巻数ついたのはこれが初めてでしょうか?これはおめでたい。というわけで、「やじろべえ」のご紹介です。別冊マーガレット連載としてはかなりの異色作と言えるでしょう。この作品で描くのは、女子中高生の青春いっぱいの恋物語ではなく、血の繋がらない義父と紡ぐ、優しき家族愛です。物語のヒロインは、中学3年生で高校受験を控えた葉瑠。母親を幼くして亡くし、今は義理の父である誠司と一緒に暮らしています。血はつながらないけど、強い絆で結ばれる二人は、お互いに周りから「親バカ」「ファザコン」と言われる程度には仲良し。楽しいことばかりではないけれど、きちんと向き合って、傷ついた時、辛いときは支え合っていけば、きっと大丈夫。そんな二人の毎日に、きっとあなたもほっこりするはずです。

父だけど、呼ぶ時は名前で呼ぶ。積み重ねた10年という月日は、長いのか短いのか。10年経っても、いや10年経ち、15歳になった今だからこそ、よぎる考え、生まれる想いがある。とにかくですね、葉瑠ちゃんものすごく純粋で、もの凄く真面目なんです。すごく勇気づけられるんですよ、彼女の行動に。
子連れの女性との再婚に、当然家族は大反対。父の誠司は、ちょくちょく実家に顔は出すものの、やや折り合いが悪い状態にあり、祖父(誠司の父)が亡くなったことでそれが表面化。また慣れ親しんだアパートも、取り壊しのために出ていかなくてはならなくなってしまいます。変化というのは突然に訪れるもの。これをきっかけとして、積み重ねてきた二人の時間と絆は、少しずつ広がりを見せ、沢山の人との繋がりを生み出していくことになります。それは、誠司の大学時代の友人であったり、葉瑠の幼なじみの男の子であったり…。ベースとなるのは、親子の関係。いつも一緒にいるし、確かに強い絆で結ばれています。けれど、ずっと一緒にいるわけではなく、お互いに違う人間関係もあるわけで。そういったお互いに重ならない部分を、どう家族との領域に持って行くか、もしくは遠ざけておくのか。重なる部分、重ならない部分、重ねたくない部分を、どう折り合いをつけて飲み込んでいくのか。そんな心の揺れ動きを、温かくも瑞々しく描き出します。
こういったシチュエーションの作品だと、例えばドラマ化した佐原ミズ先生の「マイガール」であるとか、宇仁田ゆみ先生の「うさぎドロップ」(→レビュー)などがあり、難しいテーマではあるものの割と鉄板という印象があります。ただどちらかというと育てる側メインで描かれた先の2作品とは異なり、この作品は基本的に育てられてきた側からの視点で物語が進行。しかも非常に多感な、中学3年生。いつまでも子供でいられないけれど、まだまだ甘えたい気持ちもあり、そして恋に友情にと悩みだす年頃でもあります。それらを全てひっくるめて描くのは非常に難しいことではあるのですが、山川先生はそれを敢えて削ろうとはせず、全て物語に落とし込み話を進行している感が。そのためどこか統一感のない印象はあるのですが、そのために逆に丁寧というか、「ああ、ちゃんと描こうとしているんだな」と感じられて、すごく心地が良いです。妙な違和感と心地よさが同居する、不思議な読み味。現時点では恋愛要素薄めですが、掲載誌の性格上それはありえず、これからどう発展していくのか。その展開によって、物語自体の性格も大きく変わってきそうで、非常に注目。とりあえず表紙見て気になった方は、手に取って間違いないと思いますよ、はい。
【男性へのガイド】
→これは結構読みやすいんじゃないかと思います。家族もの、だけど家族愛賛美というよりは、個々としての想いもしっかり描く感じ。でも、それが良い。
【感想まとめ】
→山川先生は恋愛よりも、友情や家族愛発進で枝葉を伸ばしていく方が得意なのでしょうか。別マという構えで読んだので少々ビックリしたものの、あっという間に引き込まれました。面白いし、楽しみ。オススメで。しかしこれ、本誌ではウケてるんでしょうかね?それが凄く気になります。
作品DATA
■著者:山川あいじ
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
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