
言えない言葉は
二つに増えた
■克哉は共に暮らす親代わりの青年・透に道ならぬ恋心を抱いていた。けれどもそんなこと、言えるはずもない。その想いを胸に秘め、日々柔道に打ち込んでいた。そんなある日、亡くなった母の知り合いだという男から、母の死は事故ではなく轢き逃げ
山中ヒコ先生の新作…ってレビューしようしようと思ってるうちに2巻まで出て完結しちゃったよ!ということで、「エンドゲーム」のご紹介です。義理の親子の禁断の愛を描いたお話です。主人公は、孤児であった所を透に引き取られ、今は二人で暮らしている克哉。大きく逞しく育った彼は、日々柔道に打ち込み、全国的にも有名な選手に育っていました。そんな彼には、秘めた想いがひとつ。それが、親代わりに育ててくれた透のことを、思い続け日がなよからぬ妄想を繰り広げているということ。これが許されない想いであることを自覚し、日々我慢しながらの生活。そんなある日、亡くなった母の知り合いだという男から、母は轢き逃げで死んでいたことを告げられます。気になって過去の新聞記事を調べると、そこには松脂が現場から検出されたとの情報が。透は画家で、松脂を使ったターペンタインを使っていることから、克哉は透が轢き逃げの犯人ではないかとの疑念を抱くようになるのですが…というお話。

克哉の想いを秘めざるをえないしがらみは多い。動きたくても、動けない。
寡黙で黙々と部活に打ち込む、大柄な高校生と、弱々しく頼りなげで、けれども子供のことを第一に考え生活している画家の、疑似家族BL。禁断がいくつも重なるような、複雑な事情ではあるのですが、引き取り育ててくれた透が自分を孤児にした轢き逃げ犯であるかもしれないという疑念が一番大きな問題として主人公の前に横たわるため、その他の禁忌は比較的無意識のままに物語は流れていきます。主題として用いられる疑疑念で終わるはずもなく、真実は1巻ラスト~2巻にかけて明らかに。結果主人公は、積み重ねた大切な時間と、過去に冒した大きな過ちを心の計りにかけ、己の進退を決定していかなくてはならないのですが、その過程が切ない切ない。そしてドンピシャに狙ったタイミングで、過去の思い出を挟んできて、泣かすのですよ。ずるいです。
苦悩・葛藤する主人公に対し、透は何もしません。いや、できないと言った方が正しいのか。向かう先は悲しき未来、けれども自分の気持ちに嘘はつけず、日々を慈しむように記録の収めるその姿が、これまた切ないです。どちらも共に、ストイックというか、必要以上に我慢しちゃうんですよね。優しく切ない、良き作品でした。
物語は2巻半ばで一応完結。残りは番外編が組み込まれるのですが、ちょっとだけ切なさのある良き余韻を残しての最終回であっただけに、その後をガッツリ描かれるのは個人的にちょっと残念だったかもです。それであれば子供時代の思い出に絞ってもうひと泣かせとか。なんてワガママでしかないわけですが。何はともあれ、素敵なお話でした。
【男性へのガイド】
→BLですので。BLですので。はい。
【感想まとめ】
→ゼッタイにありえないであろう設定を、上手いこと物語の中に日常風景のように溶け込ませてしまう手腕はお見事。プラトニックに切ない物語は好物です。
■作者他作品レビュー
山中ヒコ「丸角屋の嫁とり」
山中ヒコ「森文大学男子寮物語」
作品DATA
■著者:山中ヒコ
■出版社:新書館
■レーベル:ディアプラスコミックス
■掲載誌:ディアプラス(連載中)
■全2巻
■価格:571円+税
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