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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.05.24
1106025854.jpg水城せとな「脳内ポイズンベリー」(1)


ああ どうしよう
頭の中が大騒ぎだ



■櫻井いちこ(29)は、飲み会で会って以来気になっていた男子・早乙女(23)に偶然遭遇。ここで再び出会えたのは、何かの運命?それとも偶然?どちらにせよ、この状況はチャンス…声をかけたいけれど、自分のことを覚えているかわからないし…。「話かける?話しかけない?」「押してみる?引いてみる?」…いちこの脳内で繰り広げられる、めくるめく脳内会議。ポジティブ、ネガティブ、瞬間の感情に、過去の振り返り…脳内メンバーたちの会議は、やがて紛糾!!怒濤の新感覚ラブ・パニック、開幕!!

 「黒薔薇アリス」(→レビュー)、「失恋ショコラティエ」(→レビュー)などを連載している、水城せとな先生のコーラス連載作になります。3作同時連載ってことになるのでしょうか。集英社、秋田書店、小学館と3つの出版社で…と考えるとすごい。さて、そんな「脳内ポイズンベリー」ですが、先の2作とは少し異なる、ちょっと捻ったコミカルな作品となっています。物語は、三十路目前の櫻井いちこ(29)が以前飲み会で出会い気になっていた男の子・早乙女(23)に駅で偶然出会うことから始まります。彼の姿が目に入った途端、いちこの脳内では脳内会議が開始。それぞれポジティブだったりネガティブだったり、過去を引きずっていたり今しか見ていなかったり…といった、性質の異なった面々が、今この状況をどうすべきかを話合い、都度答えを出そうとしているのでした。
 

脳内ポイズンベリー
会議はいつも紛糾
ネガティブ思考の池田
ポジティブ思考の石橋
瞬間の感情に流されるハトコ
議長の吉田
そしてここには映っていないけれど、記録係の岸


 そのシチュエーションに応じて、議会のメンバーがあーでもないこーでもないと意見を戦わせるのですが、基本的にバラバラな考えの持ち主なので、いつも会議は紛糾。時には暴走して、思わぬ行動をヒロインにさせてしまったりします。イメージ的には、テレ朝の「ロンドンハーツ」のドッキリで、仕掛人の面々がモニタから支持を出す…みたいなシチュエーション。ただヒロインはそのことに自覚的でなく、基本的には脳内会議とは意識が分離した状態で物語は進んで行きます。相手にするのは、歳下でありまた不思議系な男の子。ということで、かなり扱いにくい存在で、会議のネタは尽きません。現実世界は比較的シリアスで、会議室はコメディ一辺倒という切り離し。それぞれ独立していてもそれなりに読めた作品になっていそうですが、これが二つ合わさることで、また違った味わいが生まれています。
 
 脳内会議のイメージは、比較的多くの作品で見られる題材で、さして新しいとは言えませんが、実績のある作家さんだけに、読ませる読ませる。会議のメンバーのどれもが、誰しもが持つ思考の持ち主であるだけに、どれも「そうそう、それ思うよね!」という事が多いです。どれもその思考のみをガッと伸ばしたキャラなので、基本的に発想が極端なのですが、それもまたメリハリが出て面白いです。こういうドタバタ系のお話は、大好物なので、スゴく楽しめました。
 
 物語の序盤の展開から、歳下の不思議ちゃんに頑張ってアプローチしていく引っ込み思案な三十路女の奮闘記なのかな…と思っていたのですが、物語中盤からヒロインが、「私はこんな女じゃないんです」とか言い出したり、なんだか結局どっちもすごく面倒くさい人に(笑)脳内会議の面々は噛み合ない…そして現実世界でも噛み合ない…と、俯瞰で見た時のドタバタ感がスゴいのですが、それがある意味では売りだとも思うので、私は好意的に受け取りますよ。個人的に、一番共感できるのはネガティブ思考の池田さんです。あれ、この人自分の中にもいるんじゃ…とか思ってしまいます。



【男性へのガイド】
→テンポの良さやコミカルさはプラスに作用するはず。水城せとな先生の作品はどれも男性がちょこちょこ読んでいるイメージですので、こちらも是非とも。
【感想まとめ】
→脳内会議が自覚的でない以上、落としどころはどうなるのかという部分が気になりますが、1巻すごく面白かったのでオススメで。


作品DATA
■著者:水城せとな
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックス コーラス
■掲載誌:コーラス(連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税


■購入する→Amazon

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