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Tag [オススメ] 2011.06.06
1106030935.jpgりさり「いつか見た青い空」


私が人に善意を与えたいと願うように、
誰かが私に与えてくれている



■誰よりも妹をかわいがる姉。甘えんぼの妹。誰もが仲良し姉妹っていいよねと思うような姉妹だった。ところが母親の面会日、姉は突然妹に背中を向ける…。私があの時見た光景。忘れられない、施設の記憶。世界は私を傷つけ、ぎゅっと抱きしめた。名作「ふたりぼっち」を含む、施設で過ごした少女時代を、鋭い筆致で描いた、珠玉の物語を、あなたにお届けします。

 なんだかとっても目を引く表紙だったので、思わず手に取りました。どこで連載していた作品なのかと思ったら、Web(正確にはブログ)で連載していた作品を単行本化したお話みたいです。施設で育った作者さん自身の、私小説的な物語。施設での暮らしと、そこでの出来事を描き、当時の自分の心境を、今の自分が語るというような、独特の語り口での展開となっています。主人公は、施設で暮らす小学生の女の子・さり。そこの施設には、沢山の子供達が一緒に暮らしていて、当然色々な性格の子供達がいます。姉にずっとついてまわる妹に、妹をかわいがる姉。逆に妹ばかりをいじめる姉。そしてたまに会いにきてくれる、お母さんの記憶。。。子供の時に思ったこと、そして今だから言えること。その二つが重なり混ざり、心に刺さる言葉を生み出します。
 

いつか見た青い空
語られる、その時の気持ち、今の気持ち。文字量は多いが、整然とした文章なのでスッと頭に心に入ってくる。


 施設を描いた作品は沢山あるのですが、実際に施設で暮らしていた方が、その時の体験をそのままに描くということで、やはり重みやリアリティが全然違います。例えば、物心ついた時から親はいないので、家族という血の繋がりの中で認識される「兄弟・姉妹」という感覚がわからず、なんでそんなユニットがあるのだろうと思った…とか、母を知らない妹は、とにかく優しくしてくれる姉に母性を見出すけれど、それは姉と二人でいるときだけ、母と会えば姉の母性は消え去り姉妹の関係は崩れる…とか、これは絶対に中にいて、長い時間をかけて噛み砕かないと出てこない言葉だよなぁ、と。やけに冷静に分析できているその語りに驚くと共に、少し寂しく、そして知れて良かったという気持ちが溢れてきます。

 施設の中にも幸せはありますし、そもそも彼女たちはそれがスタンダードで、悲しいだなんて想いやしないのです。けれども歳を重ね知る、自分たちの立場。でもこの物語の良い所は、後日談としてとびきりに幸せな話を用意しているところ。もうそれが、本当にベタ過ぎるくらいにベタなのですが、でも事実なんだからしょうがないじゃん、感動しちゃうじゃん、と。もう読んでておんおんと泣きそうになってしまいました(笑)
 
 絵柄は流行りのものではなく、どこか古くさいというか、堅さを感じさせる印象なのですが、それでもなお突き刺さる言葉の数々と、いやに上手い構成。話の展開はベタといえばベタなのですが、私小説という扱いならば俄然響くというもの。これはちょっと手に取ってもらいたい一作です。オススメで。


【男性へのガイド】
→少女時代ということで、女性のがシンクロしやすそうですが、別にそこまで気にならないと思いますよ。基本的には万人向けかと。
【感想まとめ】
→絵柄が万人受けするようなものではないですが、それを補って余りある内容。私小説ということで侮っていましたが、読めて良かったです。



作品DATA
■著者:りさり
■出版社:新書館
■レーベル:ウイングスコミックス(大判)
■掲載誌:Web掲載
■全1巻
■価格:950円+税


■購入する→Amazon

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