
今日
できそこないのわたしのカラダは
あの人の何かを救ったかな
■未発達なカラダと、成熟した思考を持て余す6人の『少女』たち。
正気と狂気の境目、わたしは耐えた。彼も越えはしなかった
少女、それは一瞬の痛み。
気高く強く輝きを放つ『少女』たちを描いた、珠玉の6編!
やまがたさとみ先生の新作です。まーたとんでもなく危うい作品を描いたものだ!本当に読んだときは、こう言いようのない気持ちばかりが残りましたよ、はい。ということで、小学生から中学生までの、未発達なカラダと成熟した思考を持て余す『少女』たちにスポットを当てた読切り作品集でございます。各話のタイトルになっているのは、数字。7~16までと幅広くあるのですが、これらはヒロインの女の子の年齢を表しています。のっけからなかなか強烈な内容で、小学6年生の美少女が、20代と思しき怪しげな男に懇願され、駅の構内を一緒に歩くというもの。その中で少女自身の自分に対する想いというものが浮き彫りになるのですが、そこでの「わたしは12才にして「12才」に失格したんだ」というフレーズと、その後その男に対して思う言葉が、淫微でありながらもやけに救いのあるものに聞こえて、後に残るのでした。

少女に焦がれる男と、そんな彼を見つめ思う、少女。この構図が好き。というか、なんだかすごく印象に残りました。
その他の話の内容を軽くご紹介しましょう。2話目「10」は、転校を繰り返す口数少ない少女が、ピアノの先生に想いを告げられるというもの。3話目「11」は、若い伯父との身体的接触に、ちょっとした希望を見出してしまう女の子のお話。4話目「7」は、学童保育の帰り道にいる、ホームレスの優しいおじさんとの会話を楽しみにしている女の子のお話。5話目「13」は、通っている整骨院の先生に対して、自分の複雑な想いを抱く中学1年生のお話。そして最終話「16」は、変わりたくないと思う中、変化していく自分自身に恐れを抱く少女のお話。なんていうか、こうロリ系のエロ漫画のシチュエーションとして普通にありそうな導入の数々なのですが、落としどころはそこではなく、少女自身の心の中でお話は完結していきます。「少女性」なんてありふれた記号的な言葉に当て嵌めるのはちょいともったいない気がしますが、この作品を表す言葉を、私はそれ以外知らなくてですね。。。
最初の2話が、「不完全な自分」というものを自覚している美少女と、そんな少女に惹かれてしまうロリコン男という構図を描いており、それだけでなんだかイケないものを見ているような感覚に苛まれるのですが、それでもなお読み進めてしまう、自分の興味。とはいえ3話目以降は、そういった危うさというか、犯罪的な匂いは薄れ、「危うさ」という言葉に集約されるのは少女自身の心持ちという所に落ちていきます。「少女」というそれだけで、記号的な美しさを想起させるわけですが、実際はそんなことはなく、「少女」という枠の中で、当人たちも苦しみ時に傷つき、決して綺麗な部分でのみ出来ているわけではないんだと伝えてくるような内容。少女という、永遠ではない限られた時間と、その中でつく傷や苦しみが、危うさに変わり、より美しさに拍車をかけます。

どんな世界であれ、知るきっかけを作るのはいつだって大人。そして知り、考え、少女は変化・成長していく。
最終話では、「12までの少女というのは、何か美しい完全体のように思える」という価値観がまず語られて、その上で「そうやって自問自答する少女の姿もまた美しく思える」という答えが提示されるわけですが、それがこの物語の核となるものなのかなぁ、と漠然と思ったり。12才というラインで見ると、それぞれに違って映る各話。だからこそ、ボーダーラインとなる「12才」が、「13」にて強く意識され、また単行本としても「12」を表題作として持ってきたのだろうなぁ、と。とにもかくにも、危うい!あとがきにて描かれている、担当さんが「子どものいる女性というのが担保ですから!」と言ったとのエピソード。いや、本当にこれそうじゃないとマズいです(笑)これが独身の男とかが描いてたら、ちょっと引くレベル。少女だった人が描くからこそ、より説得力のある、メッセージ性の強い作品となっているのでしょう。
私は男性ですので、もちろん少女時代もございません。ゆえに共感といった形での読み方は出来ない(出来たとかいう輩がいたとしたら、そいつは妄想変態野郎だ)のですが、それでも普遍的にある「少女」という存在に、少しだけ触れることができたような感覚で、非常に印象に残る作品となりました。とりあえず、読んでみて欲しいです、男性も、女性も。
【男性へのガイド】
→じゃあこれを易々と男性に『読んでみ』とか言いづらいのはなぜだろう(笑)
【感想まとめ】
→いやビックリ。やまがたさとみ先生の作品は好きなのですが、こんなお話を描いてくるとは全く思っていなかったので、ビックリです。久々に強烈に印象に残った作品でした。
■作者他作品レビュー
傷つく心を隠すため、嘘と体を重ねつづける:やまがたさとみ「砂漠を泳ぐ、眠る」
作品DATA
■著者:やまがたさとみ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング
■全1巻
■価格:838円+税
■購入する→Amazon