作品紹介→ジョージ朝倉「溺れるナイフ」
9巻レビュー→この年齢、この舞台だからこそ成立する物語《続刊レビュー》「溺れるナイフ」9巻
10巻レビュー→夏芽を照らし導く“光”:ジョージ朝倉「溺れるナイフ」10巻
11巻レビュー→大友の登場箇所が6コマしかなかった件:ジョージ朝倉「溺れるナイフ」11巻
関連作品レビュー→「ピース オブ ケイク」/「テケテケ★ランデブー」
ジョージ朝倉「溺れるナイフ」(12)
…それが大前提なの
■12巻発売です。
キスや、手が重なるたびに、2人を行き交い、高まる熱…。大友との甘く親密な出来事を予感しながらも、一度でも大友に、あの日の夜の出来事を重ねてしまったことに、夏芽は静かに怯える。大友とのすれ違い。コウとの思わぬ再会。大切なものを守りたくて、揺れる夏芽は…。気高くあやうい十代が、願う。光求める第十二巻!!
~1巻振りの本編です~
久々本編でございますよー。ということで、「溺れるナイフ」12巻です。11巻は番外編的に、夏芽と大友は殆ど登場することなく終わってしまったたのですが、ここで復帰です。12巻で描かれるのは、それぞれの進路を考えての、中学生活最後の時間をどう過ごすかというところ。夏芽は、芸能界と地元での生活について、進路先の高校について、そして大友とのこれからについて。夏芽の進路について大きな影響を与えるのが、芸能活動の成功と、大友との心の距離の問題。二人とも、ただ好きで一緒にいたいだけなのに、二人の想いだけではどうにもできない力が、そこには働いていたのでした。
~大友頑張ってます。こんなに大らかで心の大きい中学生、いるのかっていう~
大友はすごい頑張っているんですよ、もうこんなにも大らかで、心の大きい中学生がいるのかっていうくらいに。夏芽が芸能生活で成功したことで、自分との立ち位置での違いを感じるようになった大友。夏目はそんな彼の心情を察し、「引いてる?」と聞くのですが、素直に答えたその内容が、本当に大友らしくて素敵だったなぁ、と
素直に素直に、決して背伸びをしようとはせず、自分なりに。中学生なんて、ちょっと舞い上がっちゃったりして、変なこととか言っちゃいそうですけど、大友はこんなこと言ってくれるわけですよ。なかなかいないですよ、こんな中学生は。夏芽は大友はのことを「太陽」と形容していますが、戻ってくれば確かな日差して癒してくれる、ホームベース的な存在として、精神的に頼るのはすごくよくわかります。そんな大友に対して、夏芽はこんなことを言うわけですが…

わたしも
今がんばれるのはさ
いろんな言葉無視できるのはさ
ここに帰れば大友が
笑顔で迎えてくれるからなの
…それが大前提なの
それが大前提。しかしその大前提は、あえなく崩れさってしまいました。子ども達の前に立ちはだかるのは、いつだって理不尽なオトナの事情。それを突きつけられ、大友が下した決断は、結局の所、この夏芽の大前提を崩すものでした。いわばそれは、夏芽にとっての自分の存在を、否定してしまうようなもの。それが最終的にどういった結末を導くかを、大友は考えたのでしょうか。あのシーンは、その雰囲気から感じられる大事さ以上に、大きなポイントであったように思えてなりませんでした。12巻では「ふたりの結末」というところにまでは行きませんでしたが、ここから関係修復…というパターンは望めない気がしているのは、私だけではないのではないでしょうか。。。
~勝ち負けという土俵にしかいなかった夏目に、大友が与えたもの~
さて、それでも確かに大友が、夏芽に残したものはありました。今回も2度ほどそのフレーズが登場したのですが、夏芽はそもそも、「勝つ」ということを通して、次へと進んでいく子でした。例えば芸能活動に於いても、戻る戻らないで広能さんと揉めた時、こんなことを口走っています…

…わたし
「夏の足跡」見たとき
100%の敗北感で泣けました
芸能活動でのせめぎ合いは、「戦った上での勝ち負け」。もちろん競技的な意味ではなく、精神的な部分での勝負になります。また自身のトラウマに対しても、初詣のときにこんなことを思っていたり…
とにかく「勝つ」ことで、前へ進む。そんな彼女が、コウちゃんを前にしたとき、自分自身のちょっとした心情の変化に気づくことになります。

あのころ
ごめんわたしは自分のことばかりで
コウちゃんに笑っててほしいなんて発想すらなかった
あなたに勝ちたかった
自分を認めさせやきつけたかった
…でも
大友との関わりの中に芽生えた、「勝つ」ということ以外で自分を認めさせ、焼き付けさせること。コウちゃんとの関わりあいの中では、決して芽生えることの無かった感覚です。事実コウちゃんは、夏芽との関係について、付き合い立ての大友に対してこんな風に言っていたりします。
対峙しても、どうしても吹きだまりになってしまっていた二人の関係に、変化を与えるヒントを与えてくれた大友。いや、これ送りバントって感じがしなくもないのですが、そもそも大友って、送りバント今までも決めてるんですよね。
~バント職人・大友~
彼が華麗な送りバントを決めたのは、夏芽が芸能活動を再開するか迷っていた時に遡ります(いや、意外と最近)。夏芽のためにと台本まで用意して、田舎町にまで乗り込んできた広能さん一行。その中で、夏芽に芸能活動の再開を考えさせたのは、他でもない大友の働きかけがあったからでした。夏芽に素直に魅力を伝え、そして広能さんに想いを伝えた。徐々に前向きになってくる夏芽がそこにはおり、よし、あと一押し…というところでその役目を果たしたのは、大友ではなくコウちゃんだったのですよね。お祭りに行って決めると言った夏芽は、そこでコウちゃんの姿(幻想?)を見、芸能活動の再開を決意。この辺が、その後の役割を如実に表しているような気がしなくもないですが、いや、でもこれもまた大友らしいというか。まだ結果はわかりませんが、どうかそれが、大友にとって良い未来でありますように。
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9巻レビュー→この年齢、この舞台だからこそ成立する物語《続刊レビュー》「溺れるナイフ」9巻
10巻レビュー→夏芽を照らし導く“光”:ジョージ朝倉「溺れるナイフ」10巻
11巻レビュー→大友の登場箇所が6コマしかなかった件:ジョージ朝倉「溺れるナイフ」11巻
関連作品レビュー→「ピース オブ ケイク」/「テケテケ★ランデブー」

…それが大前提なの
■12巻発売です。
キスや、手が重なるたびに、2人を行き交い、高まる熱…。大友との甘く親密な出来事を予感しながらも、一度でも大友に、あの日の夜の出来事を重ねてしまったことに、夏芽は静かに怯える。大友とのすれ違い。コウとの思わぬ再会。大切なものを守りたくて、揺れる夏芽は…。気高くあやうい十代が、願う。光求める第十二巻!!
~1巻振りの本編です~
久々本編でございますよー。ということで、「溺れるナイフ」12巻です。11巻は番外編的に、夏芽と大友は殆ど登場することなく終わってしまったたのですが、ここで復帰です。12巻で描かれるのは、それぞれの進路を考えての、中学生活最後の時間をどう過ごすかというところ。夏芽は、芸能界と地元での生活について、進路先の高校について、そして大友とのこれからについて。夏芽の進路について大きな影響を与えるのが、芸能活動の成功と、大友との心の距離の問題。二人とも、ただ好きで一緒にいたいだけなのに、二人の想いだけではどうにもできない力が、そこには働いていたのでした。
~大友頑張ってます。こんなに大らかで心の大きい中学生、いるのかっていう~
大友はすごい頑張っているんですよ、もうこんなにも大らかで、心の大きい中学生がいるのかっていうくらいに。夏芽が芸能生活で成功したことで、自分との立ち位置での違いを感じるようになった大友。夏目はそんな彼の心情を察し、「引いてる?」と聞くのですが、素直に答えたその内容が、本当に大友らしくて素敵だったなぁ、と
けど 遠いっつうか
コイツスゲーところにいるんじゃのーとかは
普通に思うちょるけど
(中略)
いじけちょる訳じゃないけど 事実じゃ
けどよ 俺はなーんも力無いけどよ
ぶち応援しちょるけぇよ!
コイツスゲーところにいるんじゃのーとかは
普通に思うちょるけど
(中略)
いじけちょる訳じゃないけど 事実じゃ
けどよ 俺はなーんも力無いけどよ
ぶち応援しちょるけぇよ!
素直に素直に、決して背伸びをしようとはせず、自分なりに。中学生なんて、ちょっと舞い上がっちゃったりして、変なこととか言っちゃいそうですけど、大友はこんなこと言ってくれるわけですよ。なかなかいないですよ、こんな中学生は。夏芽は大友はのことを「太陽」と形容していますが、戻ってくれば確かな日差して癒してくれる、ホームベース的な存在として、精神的に頼るのはすごくよくわかります。そんな大友に対して、夏芽はこんなことを言うわけですが…

わたしも
今がんばれるのはさ
いろんな言葉無視できるのはさ
ここに帰れば大友が
笑顔で迎えてくれるからなの
…それが大前提なの
それが大前提。しかしその大前提は、あえなく崩れさってしまいました。子ども達の前に立ちはだかるのは、いつだって理不尽なオトナの事情。それを突きつけられ、大友が下した決断は、結局の所、この夏芽の大前提を崩すものでした。いわばそれは、夏芽にとっての自分の存在を、否定してしまうようなもの。それが最終的にどういった結末を導くかを、大友は考えたのでしょうか。あのシーンは、その雰囲気から感じられる大事さ以上に、大きなポイントであったように思えてなりませんでした。12巻では「ふたりの結末」というところにまでは行きませんでしたが、ここから関係修復…というパターンは望めない気がしているのは、私だけではないのではないでしょうか。。。
~勝ち負けという土俵にしかいなかった夏目に、大友が与えたもの~
さて、それでも確かに大友が、夏芽に残したものはありました。今回も2度ほどそのフレーズが登場したのですが、夏芽はそもそも、「勝つ」ということを通して、次へと進んでいく子でした。例えば芸能活動に於いても、戻る戻らないで広能さんと揉めた時、こんなことを口走っています…

…わたし
「夏の足跡」見たとき
100%の敗北感で泣けました
芸能活動でのせめぎ合いは、「戦った上での勝ち負け」。もちろん競技的な意味ではなく、精神的な部分での勝負になります。また自身のトラウマに対しても、初詣のときにこんなことを思っていたり…
神様どうか
戦って勝てる瞬間が
来ますように
戦って勝てる瞬間が
来ますように
とにかく「勝つ」ことで、前へ進む。そんな彼女が、コウちゃんを前にしたとき、自分自身のちょっとした心情の変化に気づくことになります。

あのころ
ごめんわたしは自分のことばかりで
コウちゃんに笑っててほしいなんて発想すらなかった
あなたに勝ちたかった
自分を認めさせやきつけたかった
…でも
大友との関わりの中に芽生えた、「勝つ」ということ以外で自分を認めさせ、焼き付けさせること。コウちゃんとの関わりあいの中では、決して芽生えることの無かった感覚です。事実コウちゃんは、夏芽との関係について、付き合い立ての大友に対してこんな風に言っていたりします。
あいつではあかん
どうしてもふきだまりになってしもうて
どうしてもふきだまりになってしもうて
対峙しても、どうしても吹きだまりになってしまっていた二人の関係に、変化を与えるヒントを与えてくれた大友。いや、これ送りバントって感じがしなくもないのですが、そもそも大友って、送りバント今までも決めてるんですよね。
~バント職人・大友~
彼が華麗な送りバントを決めたのは、夏芽が芸能活動を再開するか迷っていた時に遡ります(いや、意外と最近)。夏芽のためにと台本まで用意して、田舎町にまで乗り込んできた広能さん一行。その中で、夏芽に芸能活動の再開を考えさせたのは、他でもない大友の働きかけがあったからでした。夏芽に素直に魅力を伝え、そして広能さんに想いを伝えた。徐々に前向きになってくる夏芽がそこにはおり、よし、あと一押し…というところでその役目を果たしたのは、大友ではなくコウちゃんだったのですよね。お祭りに行って決めると言った夏芽は、そこでコウちゃんの姿(幻想?)を見、芸能活動の再開を決意。この辺が、その後の役割を如実に表しているような気がしなくもないですが、いや、でもこれもまた大友らしいというか。まだ結果はわかりませんが、どうかそれが、大友にとって良い未来でありますように。
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