このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.06.19
1106033319.jpg松本テマリ「キュビズム・ラブ 」(1)


「涙だって出ません
 だって箱だもの」
「だが心は泣いているのだろう?」



■陸上部の試合に向かう途中で、交通事故に遭ったノリコ。目が覚めるとそこには、ノリコを心配そうに見つめる青年医師・篠田の姿があった。笑うと子供っぽくなる篠田に、すぐに好感を持つノリコ。けれどもなんだか違和感が…視界がヘン、声がヘン、体が動かない…そんな彼女に篠田が告げたのは、衝撃の事実だった。事故に遭ったノリコは肉体を失い、小さな黒い箱に入った、“脳”だけになってしまったのだと…

 「今日から㋮のつく自由業! 」の挿絵、コミカライズなどをされている松本テマリ先生の、ビーズログでの連載作品となります。こちらも原作付きの作品になります。物語の主人公は、表紙に映る男の人…ではなく、その男が抱えている“箱”になります。陸上の試合に向かう途中で事故に遭った中学生のノリコは、気がつくと見知らぬ一室で、白衣を着た青年に見守られていました。どういった状況かわからず困惑するノリコに、その白衣を着た青年・篠田は衝撃の事実を告げます。それは、今ノリコに残されているのは“脳”のみで、姿は“中くらいの黒い箱”になってしまったということ。視覚はある、思考もできる、会話もできる…けれど、動かす体はどこにもない。言葉を発する以外何もできない彼女は、優しく接してくれる医師・篠田との会話を通して、徐々に現状を受け入れていくのですが…というお話。


キュビズムラブ
自分が箱であることのためらい、そしてそれはやがて悲観へと変わっていく。


 研究の一環という形で、脳のみ救われる…というシチュエーションは、例えば戸田誠二先生の読切り集「説得ゲーム」の中にも全く同じ形で出てくるなど、SFチックなお話であれば比較的出てくるものなのかもしれません。しかしこの作品では、タイトルからもわかる通り、人間の尊厳とかいうものよりも「恋愛」推し。ある意味では恐ろしい状況であるにも関わらず、意外なほどにすんなりとその状況を受け入れたのは、まだヒロインが中学生であるということ以上に、真摯に接してくれる青年医師・篠田の存在があったからに違いありません。自ら動くことができないという状況で、かつ接する人間もごくごく僅かという中、自分のことを第一に考え色々と考え接してくれる男性に対して、並々ならぬ好意を持つというのは、至極自然な流れなわけで。
 
 外見が“箱”である以上、心情表現に於いて表情などを用いることが出来ない分、若干の不利はあるのですが、それを補って余りある描写の数々。機能として、白い息を出せるようにしたというのはナイスです。絵的に動揺やドキドキが見てとれるのは、マンガとしては非常に大きなプラスです。
 
 このプロジェクトのメイン担当ということで、なんとなくマッドサイエンティスト的な側面を感じる方もいるかもしれませんが、篠田は非常にお人好しで、あまり裏表もなさそうな性格。ヒロインはヒロインで、自らは想うことしかできないという状況下で、切ない切ないピュアラブっぷりを大爆発させています。ここからどう転がして、着地させるのか気になるところではありますが、先の戸田誠二さんの作品とは違う終わり方が良いなぁ。。。でもシチュエーション的には悲恋しか望めないような気もあり…。またこの作品、以前ご紹介したことのある「公僕の警部」(→レビュー)と連動しているようで、あちらを読んでいる方はより楽しめるかもしれません。こちらの方が、視点として一段上にいる感じなので、多分こちらを読んでおけばあちらを読まずとも状況はある程度把握できそうではあります。


【男性へのガイド】
→なんとなく男性キャラに女性向け作品のそれっぽさは感じるものの、絵柄から受けるほどの読みにくさはないはず。切ないピュアラブがお好きな方は。
【感想まとめ】
→結末がどうなるのか、最後まで恋愛メインでいくのか、その2点のみだけでも非常に気になります。追いかけたいですね。


作品DATA
■著者:松本テマリ/芝村裕吏
■出版社:エンターブレイン
■レーベル:B's-LOGコミックス
■掲載誌:コミックビーズログ キュン!(連載中)
■既刊1巻
■価格:620円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「B's LOG」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

はじめまして
いつも楽しみに読ませていただいてます

この「箱」という設定を見た途端、SF『歌う船』を思い出したので、ついコメントさせていただきました。
あちらは脳だけのヒロインが宇宙船の操縦者(メインコンピュータの代わり)になっているという話なんですが、94年だか95年だかに出た某社の「本をオススメする」本(タイトル失念:この○○がすごい!みたいなので文庫本)で、恋愛小説ベスト10に入ってたぐらいの恋愛小説でもあるんです。
そして・・・ 悲恋じゃないんですよ!
カプセルの中の脳でしかないヒロインでも、ハッピーエンドになる可能性もあるということで。

まあ時代も違いますし、今だと泣かせる話の方がうけるかもしれませんが・・・
From: あ*ん * 2011/06/19 18:26 * URL * [Edit] *  top↑
外見じゃなくて中身を磨け!っていう、最近の若者への皮肉だろうか
From:   * 2011/06/20 14:22 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。