
「涙だって出ません
だって箱だもの」
「だが心は泣いているのだろう?」
■陸上部の試合に向かう途中で、交通事故に遭ったノリコ。目が覚めるとそこには、ノリコを心配そうに見つめる青年医師・篠田の姿があった。笑うと子供っぽくなる篠田に、すぐに好感を持つノリコ。けれどもなんだか違和感が…視界がヘン、声がヘン、体が動かない…そんな彼女に篠田が告げたのは、衝撃の事実だった。事故に遭ったノリコは肉体を失い、小さな黒い箱に入った、“脳”だけになってしまったのだと…
「今日から㋮のつく自由業! 」の挿絵、コミカライズなどをされている松本テマリ先生の、ビーズログでの連載作品となります。こちらも原作付きの作品になります。物語の主人公は、表紙に映る男の人…ではなく、その男が抱えている“箱”になります。陸上の試合に向かう途中で事故に遭った中学生のノリコは、気がつくと見知らぬ一室で、白衣を着た青年に見守られていました。どういった状況かわからず困惑するノリコに、その白衣を着た青年・篠田は衝撃の事実を告げます。それは、今ノリコに残されているのは“脳”のみで、姿は“中くらいの黒い箱”になってしまったということ。視覚はある、思考もできる、会話もできる…けれど、動かす体はどこにもない。言葉を発する以外何もできない彼女は、優しく接してくれる医師・篠田との会話を通して、徐々に現状を受け入れていくのですが…というお話。

自分が箱であることのためらい、そしてそれはやがて悲観へと変わっていく。
研究の一環という形で、脳のみ救われる…というシチュエーションは、例えば戸田誠二先生の読切り集「説得ゲーム」の中にも全く同じ形で出てくるなど、SFチックなお話であれば比較的出てくるものなのかもしれません。しかしこの作品では、タイトルからもわかる通り、人間の尊厳とかいうものよりも「恋愛」推し。ある意味では恐ろしい状況であるにも関わらず、意外なほどにすんなりとその状況を受け入れたのは、まだヒロインが中学生であるということ以上に、真摯に接してくれる青年医師・篠田の存在があったからに違いありません。自ら動くことができないという状況で、かつ接する人間もごくごく僅かという中、自分のことを第一に考え色々と考え接してくれる男性に対して、並々ならぬ好意を持つというのは、至極自然な流れなわけで。
外見が“箱”である以上、心情表現に於いて表情などを用いることが出来ない分、若干の不利はあるのですが、それを補って余りある描写の数々。機能として、白い息を出せるようにしたというのはナイスです。絵的に動揺やドキドキが見てとれるのは、マンガとしては非常に大きなプラスです。
このプロジェクトのメイン担当ということで、なんとなくマッドサイエンティスト的な側面を感じる方もいるかもしれませんが、篠田は非常にお人好しで、あまり裏表もなさそうな性格。ヒロインはヒロインで、自らは想うことしかできないという状況下で、切ない切ないピュアラブっぷりを大爆発させています。ここからどう転がして、着地させるのか気になるところではありますが、先の戸田誠二さんの作品とは違う終わり方が良いなぁ。。。でもシチュエーション的には悲恋しか望めないような気もあり…。またこの作品、以前ご紹介したことのある「公僕の警部」(→レビュー)と連動しているようで、あちらを読んでいる方はより楽しめるかもしれません。こちらの方が、視点として一段上にいる感じなので、多分こちらを読んでおけばあちらを読まずとも状況はある程度把握できそうではあります。
【男性へのガイド】
→なんとなく男性キャラに女性向け作品のそれっぽさは感じるものの、絵柄から受けるほどの読みにくさはないはず。切ないピュアラブがお好きな方は。
【感想まとめ】
→結末がどうなるのか、最後まで恋愛メインでいくのか、その2点のみだけでも非常に気になります。追いかけたいですね。
作品DATA
■著者:松本テマリ/芝村裕吏
■出版社:エンターブレイン
■レーベル:B's-LOGコミックス
■掲載誌:コミックビーズログ キュン!(連載中)
■既刊1巻
■価格:620円+税
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