作品紹介→小畑友紀「僕等がいた」
14巻レビュー→作品読んで、思ったことをうだうだと…:小畑友紀「僕等がいた」14巻
関連作品紹介→「きみの勝ち」/「スミレはブルー」/小畑友紀「スミレはブルー」レビュー続編(既読者向け)
小畑友紀「僕等がいた」(15)
矢野があたしを
強くしたんだよ
■15巻発売です。
有里と暮らしていると聞かされ、その本心を誤解したまま去ろうとする七美に矢野が語ったのは、彼の過去。「理解しなくていい。七美だけは前に進め。」矢野の強い想いを受けとめた七美は、前に進むために竹内に別れを伝える。後日矢野と竹内は海釣りに出かけ、婚約指輪を投げ捨てた竹内は、「高橋が溺れている」と矢野に伝えるけれど…!?
~クライマックス前段階の15巻~
映画化の話がありますが、その直後のタイミングでの単行本発売。夏に発売とは聞いていましたが、まさか6月に読めるとは思っていなかったので、すごく嬉しいです。このペースだと、恐らく公開ぐらいのタイミングで、最終巻発売という感じでしょうか?どちらにせよ、「次が最終巻」との宣言がありましたので、これを含めるともう2冊しか読めないんですね。散々待たされて、イライラや諦めが募るときもありましたが、こうして明確に終わりを宣言されると、なんだか寂しいものがありますね。元々このブログは、「僕等がいた」の感想を書きたいから始めたようなもので、この作品の完結を期に、このブログの方も一区切りしてもいいかなぁ、なんて考えています。
~竹内くんあんた14巻の宣言は…~
さて、今回はクライマックス直前ということで、今までの絡まりこじれた関係が、徐々に解きほぐされていきます。そのきっかけを作るのは、竹内くんと千見寺さん。どちらも七美と向かい合おうともしない矢野の態度にしびれを切らし、核心を突くような言葉を残しています。二人とも、矢野のこと、そして七美のことが好きで好きでたまらないわけですが、二人の根底にある思惑は、ちょっとベクトルが違っていて、見ていて非常に興味深かったです。矢野に対して竹内くんは、こんなことを言うんですよね

高橋と笑ってるおまえはもっと良かった
…さらに言えば
おまえといる時の高橋の笑顔が最高だった
なんだかんだで竹内くんの根底にあるのは、揺るがない二人の関係性。高校の時の二人の印象が、未だに彼のことを支配しているように受け取れる発言です。そんな彼に対し、千見寺さんはあくまで個々人の問題として言葉を投げかけます。というのも彼女は、二人が恋人同士で過ごしてきた時期を目の当たりにしたことがなく、あくまで「高校時代の矢野」と「社会人としての高橋」しか知らないわけですから。全く別の環境で、別の方向で好きな二人を、くっつけて考えるのはなかなか難しいです。それでも問題の根源はそこに眠っているわけで、彼女なりに精一杯、体当たりで言葉をぶつけていくその姿が、本当に格好良く映りました。こんな友達、ほしいですよね。
~竹内くんあんた14巻の宣言は…~
さて、そんな格好いい千見寺さんとは異なり、ちょっと笑ってしまったのが、竹内くんです。数年間狙いに狙い続けた渾身のプロポーズを、わずか数コマの思考で断られるという不遇っぷりを発揮した彼ですが、今回もなんかちょっとカッコ悪かった。ちなみに前回の竹内くんと七美を振り返ると…

もう会わない
二度と
そう、最後のお別れを告げていたのでした。彼なりの、精一杯の言葉。有言実行の彼のことですから、その決意は固いでしょう。この別れが、永遠の別れとな…

元気?
おい、早いだろ……。そして無駄に後光が射してるがムカつきます(笑)「二度と会わない」と宣言してから、僅か3話での再開。しかもアプローチは竹内くんから。なんか、すごいいい役割果たしてるんですが、なんかカッコ悪いっすよ…竹内くん…。早かったなぁ、もうこれ小学生が使う「一生のおねがいだから~」の“一生”ぐらいの重みしかないです。それでもこれ、竹内くんのいい人っぷりを表しているというか、彼の七美の好きっぷりを表しているというか。恋人や元恋人としての距離感を作るのは非常に苦手なのと同時に、友達としてのポジショニングは素晴らしいものがあるな、と。カッコ良く決まらないところも、こう恋人のゾーンに飛び込めない安心感みたいなものを感じさせるというか。竹内くん、多分モテるでしょうが、絶対モテないと思うな(矛盾した表現)
あ、それとちょっと今回読んでて気づいたのですが…

七美、あなた世田谷区民だったのね。。。太子堂…というか西太子堂って言ったら、三軒茶屋のお隣で、若干オサレなイメージありますよ、うん。若手でも、編集ともなればそれなりに良いとこに住めるのですか…なんていう私は、若手社員らしく千葉在住。単純にコンプレックスですはい。引越したいです。。。
~幸せって何?~
さて、だいぶ脱線してしまいましたが、そもそも七美が太子堂在住だと判明したのは、酔った矢野が七美の家を訪れたから。そう、お酒が入っていたとはいえ、ついに矢野から高橋に会いにきたのでした。そこで二人は、あの時には話す事ができなかったことについて、お互いに話し始めます。どちらともなく、自然と。そんな中、七美が矢野にこんな一言を投げかけます。
この質問は、二人が出会って間もない高校1年の時、矢野から七美に向けられたものと同じ質問でした。この質問は七美の答えが印象的だったので、覚えている人も多いかと思います。その時の七美の答えは…

ほこほこするやつ
肉まんとか焼きイモみたいに
寒い時でもあっためるもの
心をポッとさせるもの
寒い時でもあったかい、ほこほこするもの。この質問を投げかけるとき、七美は矢野に、肉まんではありませんでしたが、たいやきを温めて手渡していました。ブレることない、彼女の幸せの価値観。そんな七美に対し、矢野が残した言葉は

…雪みたいなの
そこにあった矢野の想いとは。矢野は「雪みたい」という言葉を放つ前に、落ちてくる雪を手のひらで握り、溶かしています。そしてまた、矢野の表情を見るに、そこに浮かぶのは希望よりも辛い表情というような感じ。それを素直に受け取るならば、つかもうとしても、溶けてなくなってしまう儚いものというイメージでしょうか。七美の答えとはまるで正反対の、切ない切ない答え。これが今の彼を、形作っているものでした。
~死によって縛られ、死によって解かれる~
そもそも矢野は、幸せを願えるほどの状況に、長い間置かれることなく日々を過ごしてきました。大切な人との、2度の死別。それも、全てを捧げてでも良いと決意した相手に。それを彼は、心のどこかで「裏切り」と捉え、今までそれに縛られながら生きてくることになりました。そんな彼が、今回ついにその束縛から解放されることになります。それをしてくれたのが、山本さんのお母さんと、山本さん。山本さんのお母さんは、言ってみれば矢野の母親との死別を浄化し、そして山本さんは、あの言葉を伝えることによって、真の意味で奈々さんの呪いから矢野を解放したのかな、と。今まで山本さんが登場し続けることに対して自分は、懐疑的というか、むしろ批判的ですらあったのですが、今回の一件によって全てが腑に落ちました。
山本さん単体で捉えたとき、あの異様とも思える矢野への執着は、恐怖や嫌悪しか生みませんでした。皆さんもそうじゃないですか?「あれはやりすぎ」と。でもあれが、姉の言葉を伝えるためという想いがあったとしたら、それはそれで納得できるのですよ。もちろんそれのみで動いていたわけではないのは明白、だって山本さんは上京の理由に「欲しいものがある」と言っているわけですから。それでも、矢野が必要・救われたいという想いと共の陰に、少しでもそういった想いがあったのだとしたら、すごく救われるなぁ、と。もちろん「このタイミングで今さら?」って想いもあるのですが、もし仮にその言葉を彼女が矢野に早々に伝えてしまっていたとしたら、今の七美と矢野はないんじゃないかな、と思えるのもまた事実。だって今の二人は、奈々さんという存在がいたからこそ、より強い想いで結ばれたわけですから。
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関連作品紹介→「きみの勝ち」/「スミレはブルー」/小畑友紀「スミレはブルー」レビュー続編(既読者向け)

矢野があたしを
強くしたんだよ
■15巻発売です。
有里と暮らしていると聞かされ、その本心を誤解したまま去ろうとする七美に矢野が語ったのは、彼の過去。「理解しなくていい。七美だけは前に進め。」矢野の強い想いを受けとめた七美は、前に進むために竹内に別れを伝える。後日矢野と竹内は海釣りに出かけ、婚約指輪を投げ捨てた竹内は、「高橋が溺れている」と矢野に伝えるけれど…!?
~クライマックス前段階の15巻~
映画化の話がありますが、その直後のタイミングでの単行本発売。夏に発売とは聞いていましたが、まさか6月に読めるとは思っていなかったので、すごく嬉しいです。このペースだと、恐らく公開ぐらいのタイミングで、最終巻発売という感じでしょうか?どちらにせよ、「次が最終巻」との宣言がありましたので、これを含めるともう2冊しか読めないんですね。散々待たされて、イライラや諦めが募るときもありましたが、こうして明確に終わりを宣言されると、なんだか寂しいものがありますね。元々このブログは、「僕等がいた」の感想を書きたいから始めたようなもので、この作品の完結を期に、このブログの方も一区切りしてもいいかなぁ、なんて考えています。
~竹内くんあんた14巻の宣言は…~
さて、今回はクライマックス直前ということで、今までの絡まりこじれた関係が、徐々に解きほぐされていきます。そのきっかけを作るのは、竹内くんと千見寺さん。どちらも七美と向かい合おうともしない矢野の態度にしびれを切らし、核心を突くような言葉を残しています。二人とも、矢野のこと、そして七美のことが好きで好きでたまらないわけですが、二人の根底にある思惑は、ちょっとベクトルが違っていて、見ていて非常に興味深かったです。矢野に対して竹内くんは、こんなことを言うんですよね

高橋と笑ってるおまえはもっと良かった
…さらに言えば
おまえといる時の高橋の笑顔が最高だった
なんだかんだで竹内くんの根底にあるのは、揺るがない二人の関係性。高校の時の二人の印象が、未だに彼のことを支配しているように受け取れる発言です。そんな彼に対し、千見寺さんはあくまで個々人の問題として言葉を投げかけます。というのも彼女は、二人が恋人同士で過ごしてきた時期を目の当たりにしたことがなく、あくまで「高校時代の矢野」と「社会人としての高橋」しか知らないわけですから。全く別の環境で、別の方向で好きな二人を、くっつけて考えるのはなかなか難しいです。それでも問題の根源はそこに眠っているわけで、彼女なりに精一杯、体当たりで言葉をぶつけていくその姿が、本当に格好良く映りました。こんな友達、ほしいですよね。
~竹内くんあんた14巻の宣言は…~
さて、そんな格好いい千見寺さんとは異なり、ちょっと笑ってしまったのが、竹内くんです。数年間狙いに狙い続けた渾身のプロポーズを、わずか数コマの思考で断られるという不遇っぷりを発揮した彼ですが、今回もなんかちょっとカッコ悪かった。ちなみに前回の竹内くんと七美を振り返ると…

もう会わない
二度と
そう、最後のお別れを告げていたのでした。彼なりの、精一杯の言葉。有言実行の彼のことですから、その決意は固いでしょう。この別れが、永遠の別れとな…

元気?
おい、早いだろ……。そして無駄に後光が射してるがムカつきます(笑)「二度と会わない」と宣言してから、僅か3話での再開。しかもアプローチは竹内くんから。なんか、すごいいい役割果たしてるんですが、なんかカッコ悪いっすよ…竹内くん…。早かったなぁ、もうこれ小学生が使う「一生のおねがいだから~」の“一生”ぐらいの重みしかないです。それでもこれ、竹内くんのいい人っぷりを表しているというか、彼の七美の好きっぷりを表しているというか。恋人や元恋人としての距離感を作るのは非常に苦手なのと同時に、友達としてのポジショニングは素晴らしいものがあるな、と。カッコ良く決まらないところも、こう恋人のゾーンに飛び込めない安心感みたいなものを感じさせるというか。竹内くん、多分モテるでしょうが、絶対モテないと思うな(矛盾した表現)
あ、それとちょっと今回読んでて気づいたのですが…

七美、あなた世田谷区民だったのね。。。太子堂…というか西太子堂って言ったら、三軒茶屋のお隣で、若干オサレなイメージありますよ、うん。若手でも、編集ともなればそれなりに良いとこに住めるのですか…なんていう私は、若手社員らしく千葉在住。単純にコンプレックスですはい。引越したいです。。。
~幸せって何?~
さて、だいぶ脱線してしまいましたが、そもそも七美が太子堂在住だと判明したのは、酔った矢野が七美の家を訪れたから。そう、お酒が入っていたとはいえ、ついに矢野から高橋に会いにきたのでした。そこで二人は、あの時には話す事ができなかったことについて、お互いに話し始めます。どちらともなく、自然と。そんな中、七美が矢野にこんな一言を投げかけます。
矢野にとって
幸せってなに?
幸せってなに?
この質問は、二人が出会って間もない高校1年の時、矢野から七美に向けられたものと同じ質問でした。この質問は七美の答えが印象的だったので、覚えている人も多いかと思います。その時の七美の答えは…

ほこほこするやつ
肉まんとか焼きイモみたいに
寒い時でもあっためるもの
心をポッとさせるもの
寒い時でもあったかい、ほこほこするもの。この質問を投げかけるとき、七美は矢野に、肉まんではありませんでしたが、たいやきを温めて手渡していました。ブレることない、彼女の幸せの価値観。そんな七美に対し、矢野が残した言葉は

…雪みたいなの
そこにあった矢野の想いとは。矢野は「雪みたい」という言葉を放つ前に、落ちてくる雪を手のひらで握り、溶かしています。そしてまた、矢野の表情を見るに、そこに浮かぶのは希望よりも辛い表情というような感じ。それを素直に受け取るならば、つかもうとしても、溶けてなくなってしまう儚いものというイメージでしょうか。七美の答えとはまるで正反対の、切ない切ない答え。これが今の彼を、形作っているものでした。
~死によって縛られ、死によって解かれる~
そもそも矢野は、幸せを願えるほどの状況に、長い間置かれることなく日々を過ごしてきました。大切な人との、2度の死別。それも、全てを捧げてでも良いと決意した相手に。それを彼は、心のどこかで「裏切り」と捉え、今までそれに縛られながら生きてくることになりました。そんな彼が、今回ついにその束縛から解放されることになります。それをしてくれたのが、山本さんのお母さんと、山本さん。山本さんのお母さんは、言ってみれば矢野の母親との死別を浄化し、そして山本さんは、あの言葉を伝えることによって、真の意味で奈々さんの呪いから矢野を解放したのかな、と。今まで山本さんが登場し続けることに対して自分は、懐疑的というか、むしろ批判的ですらあったのですが、今回の一件によって全てが腑に落ちました。
山本さん単体で捉えたとき、あの異様とも思える矢野への執着は、恐怖や嫌悪しか生みませんでした。皆さんもそうじゃないですか?「あれはやりすぎ」と。でもあれが、姉の言葉を伝えるためという想いがあったとしたら、それはそれで納得できるのですよ。もちろんそれのみで動いていたわけではないのは明白、だって山本さんは上京の理由に「欲しいものがある」と言っているわけですから。それでも、矢野が必要・救われたいという想いと共の陰に、少しでもそういった想いがあったのだとしたら、すごく救われるなぁ、と。もちろん「このタイミングで今さら?」って想いもあるのですが、もし仮にその言葉を彼女が矢野に早々に伝えてしまっていたとしたら、今の七美と矢野はないんじゃないかな、と思えるのもまた事実。だって今の二人は、奈々さんという存在がいたからこそ、より強い想いで結ばれたわけですから。
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