このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2011.07.05
1106035677.jpg高河ゆん「佐藤くんと田中さん-The blood highschool」1巻


あんなの反則だ


■佐藤くんは吸血鬼…転校してきてすぐにそうだと気づいた田中さんは、早速佐藤くんを呼び出し、自分の願いを叶えてもらおうとする。「佐藤くん、アナタを吸血鬼と見込んでお願いがあるの。。。」。そんな田中さんに、佐藤くんは「田中さんってアタマおかしいの?」。それでも引かない田中さん、強引に家に連れて行ったら、あれ佐藤くんが正体を現した!?しかも彼の狙いは、田中さんじゃなくて、田中さんのおばあちゃん!?あれれ、どうなる?吸血鬼ラブコメ、開幕!

 高河ゆん先生による、新作ラブコメでございます。一迅社で高河ゆん先生というと「LOVELESS」の印象が強いですが、「LOVELESS」はまだ連載中です!いや、別に何を言いたいとかそういうことはなくてですね…そもそも私、「LOVELESS」くらいしか高河ゆん先生の作品は読んだ事ないので、その本領というのを味わっていないというか。というわけで、「佐藤くんと田中さん」のご紹介です。一途でちょっと捻くれている吸血鬼の佐藤くんと、吸血鬼研究に明け暮れ人一倍ヴァンパイアに憧れるちょっとイタイ女の子・田中さんの二人が織り成す、ドタバタラブコメディでございます。


佐藤くんと田中さん
なるべく避けたい佐藤君、そしてなるべく関わりたい田中さん。田中さんの暴走によって、佐藤くんが迷惑を被るというのが一つのパターン。


 佐藤くんはこう見えても80年~90年くらい生きており、田中さんとは異なり様々な人と関わり、様々なことを経験してきました。今は流れ流れて学校に通っていますが、そうではないときもあったようで、彼のルーツは戦時中にまで遡ります。まだ生まれて十数年程度の彼が恋した相手、それが田中さんのおばあちゃん・文子さんでした。猛アタックをするも、結局彼女が選んだのは田中さんのお祖父ちゃん。そこで彼の恋は終わる…と思いきや、長寿のヴァンパイアである彼は、お爺さんが亡くなった後に現れると宣言までして、その想いを長きに渡って引きずるのでした。そして時は経ち現在、なんとその文子さんの孫に言い寄られるという状況に。これはある意味願ってもないチャンス!?けれどもその孫・田中さんは、文子さんとは似ても似つかぬ、超積極的なKY女子で…という背景。ここで面白いのが、この状況が作られているのは偶然ではなく、尽く必然めいた感覚を与えるというところにあります。
 
 例えば佐藤くんと田中さんが、田中さんと同じ学校の同じクラスであるというところ。何十年も想いを引きずるのであれば、その人の家族関係を把握しているんじゃないかな、と。要するに、佐藤くんが狙っていたという。逆に田中さんがヴァンパイアに興味を持ったのも、彼女の祖父が佐藤くんの再来を怖れてあれこれと研究・対策を書き溜めていたから。何気なく描かれていることでも、結構因果があってのこの状況という、なかなか興味深い構成です。
 
 コメディですので、基本的にはライトに、物語としての各話の繋がりは薄めに展開されるのですが、それ以上にブツブツと途切れるような印象を受けるのは、この先生の独特のリズムによるものなのでしょうか。常に一定のテンポで、そして前後の繋がりを意識していないような、なんとも不思議な感覚を受けます。ひとつのお話なのですが、まとまったお話というよりはぶつ切りのお話を詰め込んだような。そしてそれが、何故だか楽しく読んじゃうのですよ。げらげら笑うでもなく、ニヤニヤ読むわけでもなく、でもなんだか印象に残るという。後先考えない、ちょっとおバカな田中さんも、そんな彼女に気づけば振り回されている佐藤くん、どっちも可愛いです。本当に気楽に読む事ができる、良きコメディ作品だと思います。
 

【男性へのガイド】
→箸休め感覚というか、息抜きに読むのにすごく良さそうな。ヒロインかわいいですし、読みやすさはすごくあるかと。
【感想まとめ】
→なんだか不思議な感覚の残るコメディでした。面白いっていうか、なんだか、うん、読んじゃうんです。


作品DATA
■著者:高河ゆん
■出版社:一迅社
■レーベル:ZERO-SUMコミックス
■掲載誌:WARD(連載中)
■既刊1巻
■価格:552円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「WARD」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。