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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2011.07.10
1106035946.jpgアルコ「リトルポップ」


本当に傷つけてたのは
自分だった



■読切り4編を収録。
 恋に落ちる準備は万端!運命の出会いを信じる紡の前に現れたのは、小学校の時に好きだった幼なじみ。小3の時の初チュー相手と、高1になっての再会。これはもしや運命!?久々で劇的な再会に心躍らせる紡は、その後も彼と一緒に過ごし、徐々に距離を縮めて行くけれど…。トキメキとシリアスに満ちた、恋の読切り集を、あなたにお届け!
 
 「ヤスコとケンジ」などで知られる、アルコ先生の読切り作品でございます。前作「終電車」(→レビュー)が恐ろしいほどに素晴らしい作品であったので、今回も期待大での読み初めとなりました。今回は表題作にも現れているように、ポップでかわいらしい恋物語が中心。その人の人生や、生き方といった部分をシリアスに切り取り描いていくというようなことはありません。その分ポップにキュートに、キラキラとした恋愛模様(というか恋する乙女の心と行動)を描いていきます。
 
 表題作のリトルポップは、小学校3年生の時に初チューをした相手と、高校生になって偶然再会するというところから始まるお話。運命とか、そういったものを信じ、恋に恋する年頃ですから、もうこの偶然は必然に思え、気持ちは一気に加速していく、そんな力強さと瑞々しさ、そして同時に訪れる痛々しさをしっかりと描ききった素敵なお話となっていました。恋に恋している時点では、やたらとプロセスにこだわろうとするのですが、痛みを知ってそれでもまだ想いが残っていたとき、そこではじめて自分の気持ちと相手に向き合えるという。なんてことない恋模様を描いた作品ではあるのですが、アルコ先生の、メッセージの物語への集約力を真っ正面から見せつけられるような、素敵なお話だと思いました。


リトルポップ
「恋する女の子」をそのままに。キラキラした様子も、落ち込む様子も、痛々しい様子も、全部詰め込んでいます。


 2話目に収録されているのは、スロウレイン。ごくごく普通の女子高生が、ひょんなことからヤクザなお兄さんと、その彼女、そしてその弟分のような人たちと知り合うというストーリー。無愛想で失礼で、良い所なんて全然ないのに、何故だか気になっていくという過程を描いていきます。ちょいとありえないシチュエーションのお話なので、ややとっつきにくさはあるかもしれませんが、落としどころは意外と普通で、「あ、こうなるのか」と最後で安心した作品でした。
 
 個人的には3話目4話目が良く印象に残りました。自分の可愛さを自覚し、男子から軒並み愛されることを喜びとするヒロインが、自分に全く興味を示さないクラスの地味男子に出会い、以降とにかく振り向かせようと執着するようになるというストーリー。最初は「振り向かせる」というその一点のみで彼にアタックしていたのですが、彼と関わるウチにだんだんと…という流れ。基本的には少女漫画でよく見られる展開ではあるのですが、自覚して以降も逆に吹っ切れて余計にウザったく絡むようになるという、ヒロインの行動力が素晴らしすぎて…。可愛いんだけど、ウザい、けど可愛いという、実に不思議な魅力を醸し出すヒロインでした。
 
 4話目は、そんな彼女につきまとわれるようになった男の子視点でのお話。もちろん普通の男の子ですから、やっぱりたくさんアタックされれば、嫌でも意識するようになります。もちろん向こうから言い寄られているので、こちらの方が優位であるのですが、スペック自体は向こうの方が断然上。そのジレンマに苦しみあえぐ、主人公の姿がとっても初々しく、なんだかニヤニヤしてしまいました。強烈キャラと、普通キャラ、その両方を楽しむ事の出来る、オトクなお話です(って2話ですけど)
 
 
【男性へのガイド】
→今回は少女漫画っぽい!という印象が強く、特に2話目とかはそんな感じが強いのではないかなぁと。
【感想まとめ】
→こういうモードもあるよね、というかこっちがアルコ先生の素なのですかね。可愛らしく、安易にありがちに落ち着かない、アルコ先生の魅力が詰まった恋愛読切り集でした。


■作者他作品レビュー
アルコ「超立!桃の木高校」
アルコ「Loveletter from...」


作品DATA
■著者:アルコ
■出版社:集英社
■レーベル:別冊マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

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かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。