
次はどんなお客様が
来るのでしょう
■その街には、どんな願い事も叶えてくれる魔法の靴屋があるという。願いを伝えれば、履いている限りはその願いが叶い続けるという靴を作ってくれるのだ。そして人々は、各々の願いを叶えてもらうため、今日も靴屋を訪れる。ある者は大切な人の幸せを願い、またある者は残酷な復讐を心に誓う。その歩みが導くのは、光り輝く未来か、それとも暗闇の中の絶望か。幻想的な雰囲気で贈る、極上のファンタジー連作を、あなたにお届けです。
酒井まゆ先生が描く、願いごとを叶える靴を巡る4つの物語。りぼんマスコットコミックスでの発売になっていますが、4編のうち2編はジャンプスクウェア(休刊となった月刊少年ジャンプの実質的な後継誌)に掲載されております。物語に登場するのは、願いを叶える靴を作ってくれる靴屋「クレマチカ靴店」。お客のオーダーを聞き、数日かけて靴を制作、その靴を履いていれば、必ずその願いが叶うという、魔法の靴。描かれるのは、様々な願いを持った人々の、靴を手に入れる前後の様子。大切な人の幸せを願う者、自分の復讐を考える者、その願いは様々。願い通り幸せになる者もいれば、思わぬ壁に阻まれることも…時に優しく、時に残酷な、極上のファンタジー集です。

相手の不幸せにするような願いを伝える者もいる。結果はどうなれど、靴屋はそれを作るのみ。
願いごとを叶えてくれるというのは、例えば「笑うせぇるすまん」に代表されるように、頻繁に見られるテーマです。この「クレマチカ靴店」も、いわばその潮流を受けついだ物語。靴店の店主は、どんなリクエストであっても決して拒否することなく、その願いを叶える靴を作り続けます。もちろん注文を受ける時に、忠告めいたことはするのですが、積極的に介入してこようとはしません。どうなるのかある程度わかっているけれど、自分は靴を作るだけ。そこには悪意も何もありません。靴店としての使命をただ果たすだけ。それが逆に残酷であり、公平であるところでもあります。
結局のところは、あるべきところに落ち着くのですが、そこに至るまでの話運びはさすがに熟れており、終始緊張の糸を張り詰めさせ、緩むことなく最後まで進んでいきます。個人的にお気に入りなのは、第一話。とある実業家の家で働くメイドロボが、夢見る事をやめられる靴を注文するというお話。心優しい発明家と、主人を愛するメイドロボの織り成す、優しく切ない物語です。最後のまとめ方が少々力技の感があるのですが、こういう幸せな結末は大好き。悲恋の様相を呈しつつも、最後に願いかなってめでたしめでたしって、素敵だと思いませんか?その他は結構ブラックなテイストの強い作品が多かったりなのですが、これはホワイトにホワイトに。ブラック交えつつは、リボン読者にはどうなんだろうとか読んでいて思ったのですが、ジャンプスクウェアならば納得。ひと手間加えた奥行きのある物語を、是非とも楽しんでみてください。
【男性へのガイド】
→ジャンプスクウェア掲載ということで、男性でも抵抗なく読める側面は多いにあると思われます。絵は完全にりぼんのそれですが、そういうのが気にならないのであれば。
【感想まとめ】
→靴でなければありふれた題材ではあるのですが、熟れた方が描くのであれば、しっかりと読ませる面白い作品に。ひと手間加えた複雑さを、プラスと捉えるかマイナスと捉えるかは読んだ人の趣味に依ると思いますが、やっぱり上手いものは上手いな、と。
作品DATA
■著者:酒井まゆ
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:りぼん、ジャンプスクウェア
■全1巻
■価格:400円+税
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