
君のことは
怖くない
■読切り4編を収録。それでは表題作のあらすじをご紹介。
夏休みだからと、田舎での林間学校に参加させられることになったレグルス。都会育ちで本好きの彼にとって、この林間学校は憂鬱でしかなかった。田舎なんて興味ないし、知らない子とゲームしたり、食事したり、一緒に寝たり。。。楽しいわけがない。そんな彼の予感は、思わぬ形で的中することになる。それなりに楽しく過ごしていた中、参加メンバーが次々と奇行を繰り返すように。彼らが執着するのは、赤。ルームメイトになったミランと共に、その原因を探るが…
「真空融接」(→レビュー)や「あめのちはれ」(→レビュー)のびっけ先生の、ITANでの掲載作を集めた短編集になります。もうこの作品がただひたすらに楽しみでした。鮮やかな赤が眩しい表紙は、書店で平積みされている中非常に目立っており、これをきっかけにびっけ先生の作品を手に取る人が増えてくれないかなぁなんて思ったりしています。それでは内容のご紹介に移りましょう。
第1話は表題作「赤の世界」。林間学校で次々と起こる、少年達の奇行・怪行に、都会育ちで読書好きの少年が迫るという物語。人と人の繋がりを、温かくも鮮烈に描き出すのが、びっけ先生の一つの特徴だと思っているのですが、この作品に関して言えば、人間同士の繋がりは、割とあっさり。どちらかと言えば、その事件が引き起こされた原因の解明と、それについて思うことがメインで描かれ、人間関係についてはこれから作られるというような終わり方。これはこれで、この先を想像することができて良いのですが、あれ、ちょっといつもと違う…?なんて思っていたら、これはその後に続く、珠玉の物語への布石に過ぎなかったのですよ。

物語のはじまりとなる表題作「赤の世界」。この話を入り口にして、物語はさらに広がりを見せていく。これ単体だと、ミステリーやサスペンスの様相が強い。
2話目で描かれるのは、戦争によって負傷して戻ってきた青年と、徴兵前から寄添い行きてきた彼女の関係を描いた一作。一人の男性を愛し続けるも、負傷がヒドく自分の支えなしでは生きてもいけないような彼を前に、様々渦巻く感情に苦しみます。ここから先について書いてしまうと、ネタバレになってしまうので自重しますが、この人の想いの強さと、「その後」の彼女の言葉の全てから感じる事ができるんですよね。そして最後に、1話目に繋がるんです。中盤からの急展開と、最後の繋ぎ、そのどれもが素晴らしく、ちょっと読んでいて泣きそうになってしまいました。読んだ人のみにしかわからない話ですが、これ、気になるのがレグルスの髪色。もちろん祖母と孫ですから、色々な血が入って黒髪成分が出る事もあるのでしょうが、少なくとも彼女とその結婚相手は黒髪ではなく。もちろん不自由な体で、そんなこと出来るのかっていう話もあるのですが、万が一の奇跡を信じてみてもいいんじゃないかな、って。そうしたら、ブルーノがあまりにも浮かばれないわけですけど(笑)
3話目は鳩の擬人化もの。こちらも戦時中が舞台。人と人との絆だけじゃなく、人と動物の強い繋がりを描くストーリーです。人の想いが、鳩を人の姿に見せているのか、それとも鳩の想いが、自らを人の姿に変えているのか。序盤は前者なのかな、なんて思っていたのですが、最後を考えると、有力なのはどうしても後者。人間からの一方通行ではなく、鳩からの愛情というものをああいった形で描き出してくるとは思っていなかったので、すごく良かったです。

4話目「掌の花」より。比較的甘い要素が少ない中、これは素直に甘かった。もちろん後々に苦みはあるのですが、それでもこういう描写があるだけで、読んでいる側は幸せ。
4話目もまた戦争中のお話。こちらは逆に、強く結ばれたいと思っても、結ばれない者同士の恋を描いた物語です。とある特殊な能力を持つが故に、捕虜になり監禁されてしまった美少女と、そんな彼女を監視する一人の青年兵が、登場人物です。こちらは比較的オーソドックスな、恋愛映画のそれを辿るのですが、それでも作品ならではの要素を落とし込み、しっかりと泣かせるポイントに繋げてくる。びっけ先生、ずるいです(感動の涙目)。もう最後の抱きしめるシーンとか、後ろに向いた手のひらが切なくて切なくて、涙なしには語れないっすよ(ちょっとテンション上げつつ)。そしてまた、最後には第一話へと繋がるという。この美しさ。素晴らしいです。
多分びっけ先生の作品はなんでも好きなんだ、私はきっと。いや、もちろんすごく素敵なお話ですので、全力でオススメですけれど。びっけ先生を知っている方も、知らない方も、是非とも、是非とも読んで欲しい一作です!
【男性へのガイド】
→是非とも。BLとかも描いてますが、そういうのは感じさせない絵・ストーリーだと思います!
【感想まとめ】
→これは良かった。期待していたのですが、いつもその上を行かれるものだから、もう大好きです。読切りでありながら、しっかりと各話を繋げるその構成もお見事。全力でオススメで。
■作者他作品レビュー
壁画の天使が恋に落ちたのは…:びっけ「壁の中の天使」
びっけ「獏-BAKU-」
作品DATA
■著者:びっけ
■出版社:講談社
■レーベル:コミックスITAN
■掲載誌:ITAN
■全1巻
■価格:562円+税
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