このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] [オススメ] 2011.07.21
1106035595.jpg壱春コマ「オズのかかし使い」


■魔女、それは“紫綬の瞳”に魔力を宿した、誇り高い一族である。ある日、魔女を統べる長は、次期長候補である3人の優秀な魔女を呼び出し、こう言いました。「お前たちに使い魔を贈りましょう」。長が自ら世界を回って集めた蒐集品から、それぞれ選ばれた使い魔たち。1人は力の強い“獣”を選び、もう1人は頑丈な“ブリキ人形”を選び、そして最後の1人・チェルヴィが選んだのは唯一外に置かれていた蒐集品“案山子”であった。。。

 花とゆめCOMICSでは先月「この新人を読め!」と題打って、新人さんのデビュー単行本が多数発売されております。当ブログではまだ1作もご紹介できていませんが、これから順次レビューしていく予定ですので、お楽しみに。というわけで、まずは手始めの1作目、壱春コマ先生の「オズのかかし使い」のご紹介です。

 タイトルからもわかるように、「オズの魔法使い」をモチーフに…と思いきや、モチーフとして描かれるのは本当に最初の最初の設定部分くらい。その後はオリジナルの物語が展開されていきます。主人公になるのが、使い魔として選ばれた案山子。選んだ魔女であるチェルヴィの魔法(研究?)によって、命が吹き込まれた彼は“クロウ”と名づけられ、チェルヴィと共に生活することになります。魔女を統べる長の後継候補の1人であるチェルヴィは、美・力・知の3つを求める魔女としては珍しく、知への欲求だけが伸びてしまったタイプ。そのため非常に研究熱心でありながら、その見た目は年齢の割りにちんちくりんで、力もない異端者のような存在となっていました。この物語は、そんな決して“正統派”ではない二人の触れ合いを描いた、温かなファンタジーロマンとなっています。


オズのかかし使い
こんなにちっこいチェルヴィ。その命令口調もなんだかとっても可愛らしいです。


 表紙の絵を見ていただいてもわかるように、絵はどこか稚拙というか、低年齢向けにありそうなややシンプルなものとなっています。4コマとかに出てきそうな、デフォルメの効いた感じのキャラクター像。そんな絵を逆手にとってか、もしくはわざとなのか、ヒロインのチェルヴィは基本的に無表情なちんちくりんの少女。そしてそんな見た目でありながら、言葉遣いは命令口調でぶっきらぼう。はい、大好物意です。加えてその聡明な人柄も、非常に好感が持てるのですよ。言葉数は多くないけれど、自分で見たもの、選んだものはどこまでも貫く・信じる彼女の口から発せられる言葉は、いつも真っ直ぐで、とても信頼が置けるのです。視点が彼女本人ではなく、かかしの側となっているので、また彼女の言葉を受け入れやすいってのもあるかもしれません。

 コメディベースの物語となるのですが、チェルヴィは研究に夢中なために、案山子と魔女のドタバタでほほえましい掛け合いを楽しむ…という方向にはなかなか転がりません。どちらかというとチェルヴィは、「クロウはそこに居てくれるだけでいいから、特に何もしないでくれ」というようなスタンスで、それを受けてクロウは逆に反発、「もっともっと!」でしゃばり役に立とうとするところから、トラブルが…というパターンとなります。物語の底にあるのが、クロウの「自分は役に立たない」という思い。そのコンプレックスを克服するために、自ら積極的に手伝い主人の役に立とうとするのですが、なかなか役に立てません。基本的にでなんでもできてしまうので、その良さはわかっていても、使い魔とどう接していいか良く分からないチェルヴィと、逆に自分の良さはわからないけれど、だからこそ接して役に立ちたいというクロウ。お互いに踏み出しきれない、自分の中にある“壁”というものを、それぞれが越えてくれる、ある種非常に理想的な主従関係というものが、優しく優しく描かれており、非常に温かい気持ちになれたというか。もっと積極的に人と接していきたいな、と前向きな気分にさせてくれる素敵な物語でした。



【男性へのガイド】
→物語のつくりは低年齢むけのそれっぽいのですが、ということはつまり、男女の壁というものもそんなにないんじゃないかな、と思うんですよね。チェルヴィかわいいし、恋愛要素も薄め。スタンダードな御伽噺のような雰囲気です。
【感想まとめ】
→この主従関係は、自分にとってはある種の理想。よきお話でした。あ、それとピンク髪の魔女の使い魔になりたいっていう願望はちょっと前からあってですね、要するにチェルヴィがかわい(略


作品DATA
■著者:壱春コマ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめ
■掲載誌:花とゆめ
■全1巻
■価格:400円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「花とゆめ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。