
■魔女、それは“紫綬の瞳”に魔力を宿した、誇り高い一族である。ある日、魔女を統べる長は、次期長候補である3人の優秀な魔女を呼び出し、こう言いました。「お前たちに使い魔を贈りましょう」。長が自ら世界を回って集めた蒐集品から、それぞれ選ばれた使い魔たち。1人は力の強い“獣”を選び、もう1人は頑丈な“ブリキ人形”を選び、そして最後の1人・チェルヴィが選んだのは唯一外に置かれていた蒐集品“案山子”であった。。。
花とゆめCOMICSでは先月「この新人を読め!」と題打って、新人さんのデビュー単行本が多数発売されております。当ブログではまだ1作もご紹介できていませんが、これから順次レビューしていく予定ですので、お楽しみに。というわけで、まずは手始めの1作目、壱春コマ先生の「オズのかかし使い」のご紹介です。
タイトルからもわかるように、「オズの魔法使い」をモチーフに…と思いきや、モチーフとして描かれるのは本当に最初の最初の設定部分くらい。その後はオリジナルの物語が展開されていきます。主人公になるのが、使い魔として選ばれた案山子。選んだ魔女であるチェルヴィの魔法(研究?)によって、命が吹き込まれた彼は“クロウ”と名づけられ、チェルヴィと共に生活することになります。魔女を統べる長の後継候補の1人であるチェルヴィは、美・力・知の3つを求める魔女としては珍しく、知への欲求だけが伸びてしまったタイプ。そのため非常に研究熱心でありながら、その見た目は年齢の割りにちんちくりんで、力もない異端者のような存在となっていました。この物語は、そんな決して“正統派”ではない二人の触れ合いを描いた、温かなファンタジーロマンとなっています。

こんなにちっこいチェルヴィ。その命令口調もなんだかとっても可愛らしいです。
表紙の絵を見ていただいてもわかるように、絵はどこか稚拙というか、低年齢向けにありそうなややシンプルなものとなっています。4コマとかに出てきそうな、デフォルメの効いた感じのキャラクター像。そんな絵を逆手にとってか、もしくはわざとなのか、ヒロインのチェルヴィは基本的に無表情なちんちくりんの少女。そしてそんな見た目でありながら、言葉遣いは命令口調でぶっきらぼう。はい、大好物意です。加えてその聡明な人柄も、非常に好感が持てるのですよ。言葉数は多くないけれど、自分で見たもの、選んだものはどこまでも貫く・信じる彼女の口から発せられる言葉は、いつも真っ直ぐで、とても信頼が置けるのです。視点が彼女本人ではなく、かかしの側となっているので、また彼女の言葉を受け入れやすいってのもあるかもしれません。
コメディベースの物語となるのですが、チェルヴィは研究に夢中なために、案山子と魔女のドタバタでほほえましい掛け合いを楽しむ…という方向にはなかなか転がりません。どちらかというとチェルヴィは、「クロウはそこに居てくれるだけでいいから、特に何もしないでくれ」というようなスタンスで、それを受けてクロウは逆に反発、「もっともっと!」でしゃばり役に立とうとするところから、トラブルが…というパターンとなります。物語の底にあるのが、クロウの「自分は役に立たない」という思い。そのコンプレックスを克服するために、自ら積極的に手伝い主人の役に立とうとするのですが、なかなか役に立てません。基本的にでなんでもできてしまうので、その良さはわかっていても、使い魔とどう接していいか良く分からないチェルヴィと、逆に自分の良さはわからないけれど、だからこそ接して役に立ちたいというクロウ。お互いに踏み出しきれない、自分の中にある“壁”というものを、それぞれが越えてくれる、ある種非常に理想的な主従関係というものが、優しく優しく描かれており、非常に温かい気持ちになれたというか。もっと積極的に人と接していきたいな、と前向きな気分にさせてくれる素敵な物語でした。
【男性へのガイド】
→物語のつくりは低年齢むけのそれっぽいのですが、ということはつまり、男女の壁というものもそんなにないんじゃないかな、と思うんですよね。チェルヴィかわいいし、恋愛要素も薄め。スタンダードな御伽噺のような雰囲気です。
【感想まとめ】
→この主従関係は、自分にとってはある種の理想。よきお話でした。あ、それとピンク髪の魔女の使い魔になりたいっていう願望はちょっと前からあってですね、要するにチェルヴィがかわい(略
作品DATA
■著者:壱春コマ
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめ
■掲載誌:花とゆめ
■全1巻
■価格:400円+税
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