
あいつが
おまえだって
■ある日突然聞かされた、母親の再婚の話。なんの相談もなく、突然告げられた話に傷ついた光哉は、自立を決意する。そんな中、写生にきていた裏山で落雷に遭い、光哉は気を失う。そして目覚めたとき、目の前にいたのは見知らぬ青年。そして彼は、自分をしばらく預かると告げた。しかもその青年の苗字は、母の再婚相手と同じもので…。
「もういーよ」(→レビュー)のK先生の新作でございます。前作がデビュー作らしからぬ素敵な作品だったのですが、今作も負けず劣らず面白い作品になっておりますですよー。なんだか今の季節にぴったりな、タイトルと表紙。その通り、夏休みに少年の身に起きた、ちょっと不思議な出来事を、瑞々しくも温かに描いていきます。
主人公は、写生が好きな中学生の光哉。母親と二人で暮らしていたある日、突然母親から再婚の話を持ち出され、「何の相談もなしか」と驚き憤慨した彼は、「一人で生きていく」と決意します。そんな中、写生のために登った小山の木の上で、落雷に遭いブラックアウト。気がついた時には、見知らぬ男の家の布団の中にいたのでした。見知らぬその若い男は、岩崎と名乗るのですが、その名前は母親から聞いた再婚相手と同じ苗字の持ち主。この男が母親の再婚相手か、と警戒心と反発心を強める光哉でしたが、「しばらく預かる」との宣言をされ、何故だか一緒に生活することになるのでした。。。

いきなりの「しばらく預かる」宣言から始まる。この相手、誰かと思ったら。。。
どういったお話かというと、タイムリープものでございます。落雷によって飛ばされたのは、およそ15年後の未来。そこにいた若い男は、自分自身であり、向こうは気づいているのですが、自分は気づいていないという状況となっています。夏休みに、タイムリープ。もうこれだけで、「時をかける少女」とか「サマーウォーズ」とか、季節感と青春色溢れるアニメ映画の匂いを感じるわけですが、多分そういうの好きならこの作品もきっと好きなんじゃないかな、と。
物語は単純に未来の自分との関わりを通して、一つの答えを得るというものではありません。中学生の主人公が変化をするにあたって、影響を与えるのは、未来の主人公の他に、あと二人ほど。一人は未来の主人公のご近所さんで、実質世話焼きをしている女子高生・記ちゃん。そしてもう一人が、記ちゃんの弟で、未来を視ることができるという特殊な能力を持つ・紀人。この物語の面白いところは、自分にこれから起こることがわかるという、未来の自分が登場するのに加え、その時点よりも先の未来を見ることができる少年がいるということ。つまるところ、いつの時代に於いても、主人公の「それから」を知る人物がいるというわけなのですが、その「未来を知っているが故の悩み」というものが、一つ大きなテーマとして描かれます。
この物語では、「目の前にいる大切な人の未来を知っている」という人物が二人登場します。一人は未来の主人公、そしてもう一人は、紀人。どちらも言うか言わざるべきかを悩み、各々に答えを出すわけですが、そのアプローチが真逆であったのが、新鮮でした。もちろんその情報が、「幸福な未来」と「不幸な未来」という違いはあったにせよ、結局選び取るのは自分自身であり、そのどちらも、非常に納得のいくものでした。

記がとにかく可愛らしい。彼女自身は何も持ち合わせていない、ごくごく普通の女の子として登場するのですが、そのナチュラルさに、皆々心癒されるのです。
なんて、あれやこれやと語っておりますが、多分最終的にこの作品の魅力は、ヒロインである記ちゃんのかわいさに集約されるのだろうなぁ、と。歳の離れた男性相手に、しっかりと自分の気持ちを伝え、一度だめでも距離はおかずにまた近づく。その素直さと、心の強さに、心奪われましたよもう。登場する男3人はうだうだと悩み塞ぎ込むわけですが、記ちゃんだけはしっかりと前を向いて、辛い事があっても塞ぎ込む事なく進んでいきました。全くこんな女の子に好かれるなんて、ホント幸せ者ですよ。
【男性へのガイド】
→男の子が主人公ということもありますし、この雰囲気は男女共に楽しめるものだと思われます。K先生の前作も、男女共に評判良かったようですし。
【感想まとめ】
→2作目も面白かったです。夏にタイムリープというのは、どこかベタな感じもするのですが、それでもしっかりと話を紡ぎ、素敵な作品に仕上げてきました。説明的でない分、序盤はやや戸惑うやもしれませんが、それもまた雰囲気があって良いです、はい。
作品DATA
■著者:K
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックアヴァルス
■掲載誌:アヴァルス
■全1巻
■価格:571円+税
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