このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2011.08.01
1106047318.jpg長江朋美「君のために弾くショパン」(1)


うん
たのしい
ピアノ



■木下和音は幼い頃にピアノで遊んだ弘之のことが忘れられない。偶然出会い、数時間だけピアノを一緒に弾いたあの日から、時は経ち、和音は大学生に。ごくごく普通の女の子として育った和音とは異なり、弘之は「ピアノ王子」として、有名な存在になっていた。東京にて再会を果たすも、和弘は和音のことを覚えていなくて。。。そんな中、落ち込む和音の前に現れたのは、あのショパンの幽霊で…!?

 長江朋美先生のシルキーでの新作になります。表紙、タイトルからもわかるように、音楽とピアノをテーマとして扱った、ちょっと不思議なテイストのあるラブコメディになります。ヒロインは、ピアノが大好きな女子・木下和音。田舎町の普通の家庭に生まれ育ったため、家にピアノもなければ、ピアノ教室もありませんでした。それでも教会のピアノを、牧師さんに習いながら、自分の好きなように楽しく弾いていた彼女は、独自の音を鳴らすように。そんな彼女のピアノを耳にし、驚き夢中になったのが、和音の住む田舎町に偶然立ち寄っていた、弘之。ピアノの英才教育を受け、実に綺麗な音を鳴らす弘之の音に、逆に和音は夢中になり、しばしの間二人は楽しく楽しくピアノを弾いたのでした。そしてそれから時は経ち、二人は大学生に。あの時以来全く会っていなかったものの、弘之のことを忘れる事ができなかった和音は、追いかけるように東京の大学に入り、彼に会いにいきます。けれども「ピアノ王子」として有名になっていた彼は、彼女のことを覚えておらず…というところから、物語は始まります。


君のために弾くショパン
完全にボケタイプなヒロインと、突っ込みタイプの相手役。男女としての相性はともかく、物語中でかけ合いを見せる二人としては、完璧です。


 落ち込む和音の前に現れたのは、ショパンの幽霊。ピアノは習っていないし、音大にも通っていない和音ですが、それでもその自由で特別な音というのは未だ保っており、それに刺激されるようにして、ショパンが蘇ったようです。そしてその音に反応するのは、ショパンだけではないわけで、程なくして和之も当時のことを思い出すのでした。
 
 自分自身、特殊な音を奏でる上、ショパンという天才の霊がバックアップ。時に乗り移ることによって、極上の音を響き渡らせます。彼女自身は音大の生徒でないので、いわゆるコンクールであるとか、テストというものがなく、音楽によって競い合い出世するというイベントは今のところ起こりません。ショパンの力を借りて、インチキで…という流れにはならず、あくまで和之の音楽での悩みを解消する方向に使われるというのは好印象。ヒロインとショパン、二つの特別な才能を、いかに使い分け物語で使っていくのか、そのメリハリが今のところなく、少々もの足りなさはありますが、おそらくこれからの展開で、それぞれ意味を持ってくるのでしょう。
 
 イメージ的には、「金色のコルダ」(→レビュー)と、「のだめカンタービレ」のエッセンスを取り込んだラブコメ的な。さすがベテランの先生ということで、読みやすさは抜群。変わり者でも最低限は常識人であるヒロインと、クールだけど不器用な相手役のコンビも、定番の組み合わせということもあって、しっかりと機能しています。ラブコメとして完結するのか、それとも音楽界への進出という展開が待っているのか、どちらになってもそれなりに読ませる安心の展開となりそうで、タイトルやあらすじが気になった方は、手に取ってみては如何でしょうか。きっと後悔はさせませんよー。
 

【男性へのガイド】
→女の子に都合良く描かれているとはいえ、その奔放さと強引さは結構グッと来る所があったりするかも。
【感想まとめ】
→シルキーほど安定して読める単行本のシリーズもないんじゃないかってくらい。あとは絵柄と作家さんと、ストーリーの好みの問題。


作品DATA
■著者:長江朋美
■出版社:白泉社
■レーベル:シルキー
■掲載誌:シルキー(連載中)
■既刊1巻
■価格:476円+税


■購入する→Amazon

カテゴリ「シルキー」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。