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Tag [続刊レビュー] 2011.08.01
作品紹介→海野つなみが描く、SF小公女:海野つなみ「小煌女」1巻
2巻レビュー→コマに隠された、とある工夫:海野つなみ「小煌女」2巻
3巻レビュー→原作へのアンサーとなる15話は、必読の珠玉の内容:海野つなみ「少煌女」3巻
関連作品紹介→海野つなみ「回転銀河」



1106046992.jpg海野つなみ「小煌女」(4)


ああ 彼女は今
輝くような恋をしているのね



■4巻発売です。
 亡くなったはずのトアンの王女が、社交界に現れたという噂が流れる。真相を探るべく、オナスンはサリーを同伴し、バッキンガム宮殿の王室舞踏会に向かう。一方、再びレベッカの元を訪れたシクサは、そこで意外な行動に出る。。。交錯するそれぞれの想いは、どこへ向かうのか。海野つなみ版、「SF小公女」、急転の第4巻!!


~4巻にして待ち受けていた、とんでもない恋愛展開~
もうすごいです、すごいです!本当にすごいんです!こんなにラブ・ストーリーバリバリの展開になるなんて、想像もしていなかったですよ!読みはじめた時、こんなにも心掴まれる時が来るなんて、想像もしていませんでした。前回は、レベッカとサリーを巡る、サリーの想いを浮き彫りにし、珠玉の物語に仕立て上げましたが、今度は恋で。まずは前回から想いが明らかになっていた、サリーとオナスンの二人です。

 レディに扮し、社交界デビューすることになったサリー。オナスンのエスコートの元、次々とやってくる、夢のような素敵な出来事に、彼女の幸福感とオナスンへの想いは一気に高まっていきますが、オナスンの一言によって、サリーの気持ちは落ちてしまいます。「そんなところ(彼らの星)へでも来てくれる?」、その問いに、サリーは何も答えることができませんでした。突然目の前に差し出された、一つの選択肢。ついこの間、レベッカとの身分の違いに絶望していた彼女は、それが自分の思い違いであることに気づき、そしてそこから逃げ出した自分自身に軽い失望を覚えたのでした。
 
 この繫ぎが、本当にすごいな、と。3巻であの話を描いてから、そのチャンスを目の前に差し出し、結局選び取れなかった自分を憂うような形に。ただ恋をしているだけでは、報われない恋です。そしてやがて訪れる、別れの時。その時のサリーの心情が、なんとも悲しくて


少煌女4-1
あたしは ただ
あなたのことが好きなだけ…
なんの覚悟もないあたしに
オナスンがもう一度
一緒に来てと
言うわけがないじゃない



 サリーは非常に快活な性格であるのですが、同時に自己評価の低さというのは、ずっと一貫しており、特に上流階級の人物と交わることで、その想いを浮き彫りにしてきました。今回もそう、オナスンに対しても、この運命に対しても、何も文句は言わず、ただただ自分の情けなさを呪う。真っ直ぐな彼女らしい、落ち込み方です。けれども今回は、3巻にて見せたような、底のない失望とはその性質が全く異なっていました。あの時は自分の意思ではどうすることもできない「生まれの違い」が失望の源泉となっていましたが、今回の源泉となっているのは、自分自身であり、それは自分の想いによって変えることが可能です。結果、悲しい別れをしたにも関わらず、サリーは前向きに自分を変える原動力へと、その失望を変質させたのでした。
 

少煌女4
不安だったり怖いのは
何も知らないから
だからあたしいろんなことを勉強して
もう一度彼に逢いたいんです



 勉強して、自分を変えて、もう一度あの人に会いたい。たとえ彼が会いに来てくれなくても、その努力は無駄にはならない。そういった言葉をレベッカに話す彼女を見た時に、「良い恋というのはこういうことを言うのだな」と、なんだかすごく救われたような気分になりました。



~相手を大切に想うあまり、言い出せない~
 一方静かに想いを重ねるのは、レベッカとシクサ。この二人の逢瀬はシリアスなんですが、奇妙すぎてちょっと怖いレベル。そして最後にシクサがヘタレた所とか、本当にサリーとオナスンの二人とは非常に対照的で面白かったです。その後の反応も全くもって対照的。それなりに吹っ切れたオナスンに対し、シクサは未練たらたらで、涙を流す始末。レベッカも、前向きになったサリーに対し、より孤独を恐れ将来を憂うようになります。この差は、一体なんなのでしょう。きっと様々な要因があってのことでしょうが、こうして対照的な落とし方にするところ、益々楽しみが増えました。そして海野つなみ先生のあとがきによると、5巻が最終巻とのこと。クライマックスです。3巻→4巻と全く違った方向から、しかもつながりを持って盛り上げてくれたので、5巻がどれくらい面白くなるのだろうと、今から楽しみで仕方ありません。これは是非とも、一気読みして頂きたい作品。まだ読んでいない方は、是非とも手に取ってみてください。



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