水森暦「はじまりのにいな」
また片想いから
はじめましょう■『前世から、あなたのことが好きでした』
桜咲く春、新しい家に引っ越してきた少女・青八木新菜・10歳「初めて来たはずなのに、私は確かにその街を知っていた」そして、「初めて会うはずなのに、私は確かにその人を知っていた」。。。隣に住む青年・篤郎(25歳)に出会い、蘇ったのは前世の記憶。彼は私の恋人だった人。10年ぶりの再会に、心躍らせる新菜だったけれど、その歳の差は15歳。時もだいぶ流れてしまった。それでもあなたから、目が離せない。少女の切ない恋を追った、転生ロマンス開幕です。
白泉社の「この新人を読め!」シリーズの一つ、水森暦先生の新作でございます。単行本としては初。作品を初めて発表したのは2003年ですから(コミックホームズさん調べ)、実に7年待っての単行本となりました。ほんとうにおめでとうございます。新人扱いでいいのか、という感じもしますが、単行本が出てやっと広く認知されるわけですから、これからバリバリ頑張って欲しいですねー!
さて、それでは物語の紹介に移りましょう。ヒロインは、10歳の女の子・新菜。この春、家族と共に新しい家に引っ越してきた彼女は、その町の景色に既視感を覚え、そしてそれはとある人との出会いによって確信へと変わります。それが、お隣に住む青年・篤郎。彼と出会った瞬間に、新菜の前世の記憶が蘇り、彼が自分の恋人であったことを思い出します。10年振りの再会、けれども向こうからしたら初対面、その上10歳差で自分は子ども。。。その距離感に悩みつつも、やっぱり彼から離れることができない新菜は、お隣さんの女の子として、何かにつけて篤郎の家に通うのですが…というお話。

過去の感覚と、今の感覚が混ざり合う、出会いたて。思わぬ相手の言葉に傷つく事もあれば、逆に心救われるときもある。
転生もののラブロマンス。こういったネタは少女漫画に限らずよく見られるのですが、転生したことへの戸惑いはカット。すんなりと転生の事実を受け入れ、その上で関係を作っていきます。それは、元々となるお話が完全な読切りとして掲載されたからで、それらをカットすることで物語をより濃密に、という白泉社ではよく使われる手法。1話目ですんなりと入ることができたので、続編となった2話目3話目も描きたいことに集中し、無理や忙しなさは全くなく物語は進行しており、非常に読みやすい内容となっています。
10歳と25歳というありえない歳の差であるために、恋愛ものとして成立するのかというところがあるのですが、早急に答えは出さずに、長い時間をかけて再びその関係を紡いでいきます。昔の恋人だからと伝えることなく、あくまで今の自分にできることを、精一杯に彼に。もちろん最初は子どもとして相手にする(相手にしない)篤郎ですが、時折見せる元彼女の面影や、新菜の真剣さに心動かされ、ちゃんと一人の人間として向き合うようになっていきます。その過程には、優しさしかなく、癒し効果は抜群。トキメキ出発の恋愛ものと違い、既にあった関係を元に出発しているために、ドキドキなシーンは少ないですが、今と過去の両方を大切にしながら、相手を思いやるその姿は愛おしさに溢れおり、何か大切なものを思い出させてくれるような安心感と温かさに包まれました。

はじめは子ども扱いで、向き合ってもくれなかったが、いつしかちゃんと一人の人間として認識してくれるように。
気づいてもらえない哀しみを抱えているヒロインに対して、彼女が亡くなった事への哀しさと罪悪感を抱える篤郎。彼もまた、頑張っているのですが、この作品においてはとかくヒロインの新菜の頑張りが際立っていまして。とにかく前向きなんですよ。シチュエーション的にはなかなか良い方向に向かなそうというか、阻むものが多そうなのですが、それを前にしてもめげることなくただただ頑張るその姿が健気で健気で。そういった前向きさがあるからこそ、どちらかというと後ろ向きで塞ぎ込みがちに映る篤郎を、再び前に歩ませることができたのかな、という気がします。とにかく良い子、良い子でした、はい。
【男性へのガイド】→ロリ需要という感じではなく、頑張る女の子がお好きな方とか、いかがでしょう。ロマンスと言いつつも、胸焼けがしそうな濃密な恋愛要素はなく、あくまで大切な存在を思いやる延長としての、、、という感じですから、拒否反応出る方はいないと思いますよ。
【感想まとめ】→新人といえどさすがの安定感。終始優しい気持ちで読む事ができました。表紙といい、本当にヒロインの新菜が素敵な一冊でした。
作品DATA■著者:水森暦
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:花とゆめ(連載中)
■全1巻
■価格:400円+税
■購入する→
Amazon