椎名橙「嵐とドクター」
楽しいも
嬉しいも
惜しみなく降る
この場所なら■10歳の時に最愛の両親を亡くした白崎嵐。ワケあって家出中だった嵐は、ケガをして倒れていた所を、「獣医界のブラックジャック」こと、黒髪右一郎に拾われる。どんな病気やケガだって、見事に治療してみせるその腕は確か、けれどもふっかける値段は法外なもの。おまけに動物嫌いの性悪ドクター。。。動物の扱いに慣れた嵐は、そんな右一郎に見出されて、住み込みで助手をすることになるのだが…!?
こちらの作品も、「この新人を読め!」と銘打たれて発売されている作品になります。とはいえ椎名橙先生は、既に長期連載の経験もあったりと、新人さん扱いはむしろ若干失礼なんじゃないかっていう程度には実績を残されている漫画家さんです(連載作はこちら「不思議ののマリア君」(→
レビュー))。今作は、ファンタジー要素はなく、現実ベースで物語は進んで行きます。主人公は、とある裕福な家庭に引き取られるも、様々なしがらみや反発心から家を飛び出した女子高生・嵐。ケガをして倒れているところを、表紙の長髪黒髪メガネのドクターに保護されます。その黒髪ドクター(黒髪というのは苗字ですよ)、ドクターと言っても人間のドクターではなく、動物のドクター。いわゆる獣医さんです。しかも真っ当な獣医ではなく、腕は確かだけどもその請求額は法外なものという、獣医版・ブラックジャックと言ったところ。行くあてもなく、さらには動物に好かれるという特性を持った嵐は、「ここに居ることは誰にも言わないから、置いておいてやる」という条件と引き換えに、彼の助手としてこの動物病院で働くことになるのでした。

心優しく、動物好きなヒロインの姿に、クセ者の黒髪ドクターも心動かされる。
獣医さんだけど、動物は嫌い。ふっかける値段も、言い値でしかも驚くほどの高値。これだけ聞くと、とんでもない極悪獣医のような印象を受けるかもしれませんが、これは彼なりの照れ隠しでもあり、根っからの極悪人というわけではありません。稼ぎが少ない人に対しては、お金に代わる何かを要求することもあるなど、むやみやたらに吹っ掛けるなどはなし。その人にとって、許されるギリギリのラインを狙った価格を言い、それを飼い主が承諾するかどうか。それがそのまま飼っている動物への愛情のバロメーターになるわけで、むしろ飼われている動物達への愛情は、人一倍強いと言えなくもありません。
ヒロインの嵐は、動物好きの女の子。その見ためからもわかる通り、非常に活発でお上品さとはかけ離れた性格をしています。けれども良家の養子ということもあり、ちゃんと粧せばめちゃくちゃキレイ。磨けば光るものを持っているようです。しかし本人はあまりそういうの好まないのですよね。女子が自分自身を磨く上で、一つ大きな原動力になるのが、恋愛感情だと思うのですが、彼女はそういった感情に疎く、なかなかそういった方向につながっていきません。というわけで、恋愛色は若干薄めではありますが、一緒に暮らすカッコいい先生を意識しないわけはなく、「好きという感情は芽生えつつあるけど、どうしよう意識するばかりで何も出来ない…」みたいな瑞々しいもどかしさを堪能することができます。とりあえず巻数表示ないので、これで終わりだとは思うのですが、恋愛方面での広がりを考えるのであれば、2巻以降出ても楽しみです。
【男性へのガイド】→どこかアッサリした感があるのですが、それが逆に受け付けづらさというものを感じさせない方向に働くのではないのでしょうか。
【感想まとめ】→同居ものと動物もの、結構美味しい要素を入れたコメディ。さすがに上手いし読ませます。恋愛要素薄めをどう捉えるかが各人の評価の高低に寄与してきそう。
作品DATA■著者:椎名橙
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:花とゆめ(連載中)
■全1巻
■価格:400円+税
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