
私はすぐ傍にいるよ
早く身体を取り戻して
会いたい
■この世界で「男」とは、もはや幻の化け物。西暦2012年、太陽系に発生した磁気嵐群の影響で、地球上のヒト科のY染色体は絶滅し、地球上は女だけとなった。このままでは、繁殖不可能で人類は滅びる…。しかし残された人類は、卵子同士での生殖に成功。地球は女だけの世界へと生まれ変わった。だが、運命の西暦3992年、安西・Y・姫、誕生。彼は世界たったひとりの、男性となった…。
阿仁谷ユイジ先生によるITANでの連載作。すごいです、ITANの勢いが自分の中で止まりません。こちら、舞台となるのは西暦3992年のとある国。太陽系で発生した磁気嵐群の影響で、地球上のヒト科のY染色体が消失し、男性が絶滅。それがいわゆる「メール・ロスト」と呼ばれる出来事で、西暦2012年の出来事になります。残された女性たちは、卵子同士での生殖に成功。以来人間は、女性という一つの性別のみで構成される社会を築いてきました。そんな中生まれ落ちたのが、主人公の安斉・Y・姫。地球上で唯一“男性”として生まれ落ちた彼は、その社会の中で自分の性別を隠しながら生きていかなくてはならないのでした。時を同じくして、政府機関の研究により、とある事実が発覚するのですが、、、というSF系統のお話となります。

「消え去った男性は、不要なものだった」という認識が共有されている世界。男なんていう存在は、伝説の生き物のようなもの。
男性がいないこの世界では、同性愛がスタンダード(というかそれ以外ない)。女性同士であるため、自然に繁殖行為が行えないということから、18歳以上の者には国民の義務として人工授精からの「出産」が命じられています。彼女達を分けるのは、恋愛感覚ではなく、出産感覚。出産義務に感情を挟まない合理出産派と、恋愛感情ありきという考えの、感情出産派が存在します。これだけでもかなり特異な状況にあると思うのですが、そんな中に男として生まれ落ちてしまった主人公はもう大変。男性というのは伝聞上でしか知り得ない存在で、今となってはモンスターのように思われています。社会的にも男性として生きる余地はそこにはなく、彼はひたすら自分の性別を隠しながら日々を送っているのでした。唯一心許した高校時代の恋人も、打ち明けた途端に拒絶。物語は、この主人公と、打ち明けられたそのことがトラウマとなってしまった秀才・皇の二人の視点から展開されることになります。

直面する問題を救う救世主となり得る存在かもしれない姫だが、自身は男としての自分を強く拒絶し、女性になりたいと強く願う。
SFらしく、物語は二人の男女の関係で終結するほど、小さい世界では終わりません。とある事実が明らかになり、物語は序盤からいきなり緊迫したムードとなります。人類がぶつかる大きな壁と、それを越える鍵となる存在。1巻時点で、おおまかなラストの姿は見える気もするのですが、それでもなお美しく見事な構成。読みすすめざるを得ません。
話の基礎となっている遺伝子の話題についても、基本的にはちゃんとした知識から。もちろん完全なサイエンスものではないですから、ファンタジックに脚色した部分はありますが、そんなの気にならない程度には練り込まれています。2012年にフォトンベルトへの突入によって…というのも実際に俄に囁かれているのお話だったりします。
地球が次に完全突入するのは2012年12月23日(JSTでは24日)で、その時には強力なフォトン(光子)によって、人類の遺伝子構造が変化し進化を引き起こすとも言われる。(Wikipediaより)
なお遺伝子形質の変化により、再び大きな壁にぶち当たるのが、3992年。そしてフォトンベルトに突入し、抜けきるのが2000年後ということですから、この辺もちゃんと計算されているんだな、と。いわゆるムー系のネタに分類されるものではありますが、その中でしっかりと練り込むと意外と味わえるのですよね。また卵子同士から子どもを作るというのも、マウスレベルでは成功しており、この辺も盛り込まれているのかもしれません。
というわけで、女性向けのSFということでなかなか注目の本作。奇抜な設定というだけでなく、物語としても面白いです。ITANの作品はどれも面白いですが、この作品に関しては多少話題にもなりそうで、是非ともチェックを。
【男性へのガイド】
→絵柄といい、表情といい、BL作家さんっぽいなぁと感じるところは多いのですが、こういった物語は男性もすきであろう、と。
【感想まとめ】
→物語そのものの魅力と、多分これから注目されるであろう設定など、要注目の一作。オススメです。
作品DATA
■著者:阿仁谷ユイジ
■出版社:講談社
■レーベル:ITAN
■掲載誌:ITAN(連載中)
■既刊1巻
■価格:562円+税
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