
僕はこの人を知っている
■まるで見てきたかのように、江戸時代の物語を書く、17歳の歴史小説家・小早川紫。学校に通いつつ、小説家生活を送っている彼は、ある日学校で立花真秀という少女に出会う。初めてあったはずなのに、まるで彼女を知っているかのように感じられる、不思議な感覚。以来、紫は不思議な夢を伴う目眩に襲われて!?
「らせつの花」(→レビュー)の潮見知佳先生の新連載でございます。今度のお話は、歴史小説家の男子高校生が主人公となっています。その若さで既に人気の歴史小説家で、高校に通いながら小説を書くという生活を送っています。歴史小説と言っても、彼が書き出すのは江戸時代だけ。けれどもその情景があまりにリアルであるため、その若さにしてその地位を得たと言えなくもありません。彼からすると「実際に見てきた」と言えるほどに鮮明な記憶があり、それをただ文章として書き出しているだけという感覚だと言います。そんな彼が、ある日学校で立花真秀という少女に出会います。彼女とは初対面のはずなのに、どうしてか「彼女を知っている」という感覚を覚えて以降、紫は不思議な夢を伴う目眩に襲われて…気がついた時には自分は花魁の姿をしていて…

わかってはいてもそう簡単に花魁の生活に順応できるわけではない。着物だけでも相当な重さ。真っ直ぐちゃんと歩くこともままならなかったり。でも本人は至って冷静で、慌てない。
主人公の前世は、江戸時代の人気の花魁。目眩に襲われた結果、前世へと舞い戻ってしばらくの間花魁として行動をすることになります。元々物事に動じない性格の持ち主であるのと、前世の記憶を断片的に持っていたということもあり、意外とすんなり順応。振る舞いは不自然ながらも、前世での生活を楽しむことになります。そしてその先で出会う、現世の自分の周りにいる人たちの前世の姿。タイムスリップのきっかけとなった真秀も、前世で同じ遊郭で働く青年でした。そしてタイムスリップしたのも束の間、すぐに現世へと戻ってくることになります。以降物語は今と昔を行き来する、プチタイムスリップストーリーが展開。徐々に鮮明になってくる前世の記憶を手繰り寄せ、物語の焦点は前世でなぜ自分が亡くなったのかという所に当てられることになります。
現世での歴史小説家という肩書きはあまり機能せず、基本的には前世で謎解き、現世でそれの補強という感じで物語は進んでいきます。実際にタイムスリップしているという感じではなく、夢でトリップしているような感覚で、厳密に言うとタイムスリップものとは一線を画するのかもしれません。花魁ということで、エロいシーンもあるじゃないかという話なのですが、都合の良いところで現世へと舞い戻るという、お色気シーン前に入るCMのような都合の良さがあり。男の子が女体化して、エロいことされちゃうというのも見てはみたいものの、物語の方向性としてそういうのは邪魔なのでしょう。とりあえずはタイムスリップにミステリーミックスという感じで、コメディ要素や恋愛要素は薄め。前世との絡みから、真秀が本線なのでしょうが、そもそも主人公が不思議ちゃん系統なので、心が読めずわかりにくいところがあります。これは結構時間がかかるかもしれませんね。
【男性へのガイド】
→男性主人公ですが、なんとも掴みどころのない主人公のため、感情移入等々は難しいか。真秀かわいいですが。表紙から受け取る印象そのままという、受け入れの壁といいますか。
【感想まとめ】
→タイムスリップという要素を使って、あれやこれややりたいというのはわかるのですが、結局何をしたいのかという目的がぼやけて映るのは気のせいでしょうか。巻き込まれ系でありながら、行動は自分の意志で縛りも結構ユルいため、ちょっと1巻では消化不良気味。2巻以降に期待です。
■その他他作品レビュー
潮見知佳「KEY JACK」
作品DATA
■著者:潮見知佳
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:別冊花とゆめ(連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税
■購入する→潮見知佳「ゆかりズム」(1)