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Tag [新作レビュー] 2011.09.06
1106062778.jpg夏目イサク「あやかり草紙」(1)


俺の願いごと
叶ってたよ



■三年前に両親を亡くし、親戚の家で肩身の狭い想いをしていたひまわり。ある日何気なくお参りにきた神社で、“社長”と呼ばれる胡散臭い男と、巫女さん姿の女の子“マル”に声をかけられるも、彼らはなんと神様!彼らに気に入られたひまわりは、半ば強制的に、少ない参拝客の願いを叶える手伝いをさせられることに。連日神様達にこきつかわれて、他人の願いを叶えながら、自分の願いだけがわからずにいたけれど…?

 主にBLでご活躍なさっている夏目イサク先生のウイングスでの連載作でございます。主人公はケガで部活を休んでいる中学生の男の子・ひまわり。向こう見ずで自由な性格の両親に振り回されるように、全国各地を転々としあげく両親は事故で他界。親戚は自分を引き取ってはくれたものの、両親を疎ましく思っていたため扱いはぞんざい。そのためひまわりは家に居場所も作ることができず、鬱屈とした日々を過ごしていました。そんなある日何の気なしに訪れた人気のない神社。せっかく来たのだからとお参りをしたら、怪しげな男女に声をかけられた…と思ったら突然その二人は消え失せて!?なんとその二人の正体は、神社の神様。神様が見える体質ということで「これは良い」と、半強制的に神社のお手伝いをさせられることになるのでした。お手伝いとは、神社に訪れる人たちの願いごとを叶えること。連日神様達にこき使われる中、自分の願いだけがわからずにいたひまわりでしたが…というお話。


あやかり草紙
人の願いを叶えることで、自分も成長していく。

 表紙やタイトルからもわかるとおり、和物ファンタジーでございます。元気いっぱいだけどちょっと擦れた主人公と、そんな彼に無理矢理手伝いをさせることで自然と彼の居場所を作る、優しい物語。物語は1話読切り形式で、参拝客のお願いごとを叶える形で展開。その中で主人公が抱える寂しさや悩みを浮かび上がらせ、最終的にそれを癒し解決するというパターンが定型となります。両親に散々振り回されて苦労をした少年が、またしても散々振り回されて幸せを見つけていく様子は、まさにハートフル。決して感動一本というわけではないのですが、物語の根底に流れる「温かさ」は作品全体に良い影響を与えており、読むと優しい気持ちにさせてくれる一冊です。
 
 BL作家さんということで、男キャラ多めでBL臭のする組み合わせも多々あるのですが、そういったエッセンスを残した方が既存のファンもガッツリキープできるということなのかもしれません。やたらと裸になる狛犬(人の形)は過剰演出な気もするのですが、むしろ迸るホモの香りは主人公と親戚の男の子であったり、もう一人の狛犬であったり。。。いや、そういう目で見るからそう映るだけか。。。そんな中一服の清涼剤となってくれるのは、神社の神様でもある女の子・マル。この子が神様になった経緯を描いたお話が、ベタなんですが泣けるんですよ。こんな風に思ってくれているのだとしたら、自分達も幸せだなぁ、なんて。ちょっと物を大事にしようと思える一話でした。詳しい内容は、読んでからのお楽しみです。


【男性へのガイド】
→BL感を押したようなレビューになりましたが、そこまで強く薫るというわけじゃないですので、ご安心を。
【感想まとめ】
→1話1話しっかりとハートフルに感動を用意してくるのはさすがの腕前というところでしょうか。この手のお話はさほど珍しくないのですが、しっかりと作者さんの味付けをして、読ませる物語に仕上げています。


作品DATA
■著者:夏目イサク
■出版社:新書館
■レーベル:ウイングスコミックス
■掲載誌:Winds(連載中)
■既刊1巻
■価格:590円+税


■購入する→Amazon

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