森下suu「まだ天の川にいけない」
こんなんじゃ
時々じゃ済まないくらい
泣くだろうな■初恋の香り立つ4つの物語を収録。それでは表題作をご紹介。
1年に1度、きらはこっちに親戚の家に遊びにくる。完全にアホだった小学校時代、まだまだバカしてた中学校時代、とにかく楽しかった思い出ばかり。笑顔で見送ったその夏はじめて、切なくなった。会いたくて、会いたくて、待ちに待った1年後、きらと再会を果たすけれど…
本日ご紹介するのも新人さんの作品でございます。先月からフェアを打っている集英社の新人特集でございます。こちらもまたズルい帯で、パッと見葉月めぐみ先生の作品のように見えるという(笑)なんとも幻想的な雰囲気を匂わせる表紙と、裏表紙はポップにかわいらしいキャラクター達が。タイトルとその表紙から、ファンタジーかと思いきやそういった作品は皆無。基本的に現実ベースの、少年少女の恋模様を描いていきます。
それでは収録されている物語を少しずつご紹介。表題作については冒頭にてご紹介していますので、その他を。まず「10年の雨」は、幼い頃は仲良く一緒に帰っていたのに、中学生になり相手を意識するあまり、ギクシャクしている幼なじみを描いたお話。相手を意識しているのはヒロインの方で、相手役はそうではないご様子。その歳の子らしい、いっぱいいっぱいながらも真っ直ぐに自分の気持ちと相手の気持ちを捉える様子が、非常に瑞々しい作品です。個人的にはこれが一番お気に入りでしょうか。これといって捻った話ではないのですが、シンプルに攻めるからこそ素材の味がわかりやすいと言いますか、すごく良かったです。

「10年の雨」より。その時、その瞬間の想いを、瑞々しく切り取る。
「恋に一番近い島」は読切りではなくシリーズもの。離島で暮らす元気一杯の女の子がヒロイン。この島にいたら恋なんてできないんじゃないか…と危機感を募らせたその直後、家の民宿にバイトとして本土からイケメンの青年がやってきて恋に落ちるというお話。こちらも「恋心」という自分の気持ちを持て余し、どう行動してよいのかわからずに戸惑い、それでも持ち前の若さで突っ走るというような、非常にキラキラとエネルギッシュに輝くお話になっています。
最後は「背中わって恋をする」。男性にとにかく免疫がないヒロインは、バイトとしてやっている着ぐるみを介してやっと男の人と話せるというようなレベル。そんな彼女に、同じバイト先で働く男の子が恋をし、猛アタックをかけるというお話。こちらは一転受け身一辺倒なお話なのですが、対して男子が活発であり、組み合わせの基本スタイルを再確認できるような造りになっています。
どのお話もはじめての恋を瑞々しく切り取ったお話となっており、マーガレットっぽくないかな、、、なんて思っていたら、イメージ的にすごくしっくり来る漫画家さんがマーガレットにおりました。それが、「僕らはいつも」(→レビュー)の藤宮あゆ先生。そもそもの絵のタッチ(人物のタッチはむしろ咲坂伊緒先生っぽいか)であるとか、デフォルメのキャラ描写、ギャグを入れるタイミング等、なんとなく似ている感があります。こういう系統のお話はマーガレットではむしろ王道ではないような気はするのですが、既に成功しているロールモデルがいる中で、安定して質の良い物語を描けている現状、受け入れられる下地は大きいのではないかな、と思います。
個人的にもこういう作風は大好き。基本的に恋愛に全てを傾け、現実的に…と回すタイプであると思いますので、物語の深さがキャラの仄暗い背景を強化するような方向に転がると途端にドロドロになりそうではありますが、逆にポジティブ面を強化するように働くのであれば、非常に読み心地は良いのです。今回の作品は読切り中心ということもあって、全てポジティブな面に反映されているような形。新人さんということで、多少の垢抜けなさはあるものの、これだけコンスタントに面白い物語を描けるというのはすごいことだと思います。ちょっとこの先も、名前を覚えておきたい漫画家さんです。
【男性へのガイド】→学生さんの恋愛メインの物語集、ということで王道少女漫画集でございます。そういうのが好きだという方は。
【感想まとめ】→オススメしても良いくらい。なんか久々に少女マンガらしい少女マンガの詰め合わせを読んだ気がします。
作品DATA■著者:森下suu
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:マーガレット
■全1巻
■価格:400円+税
■購入する→
Amazon