
なにげない問いかけは
風のようにさっと木霊の心を揺らしたのでした
■その昔、ケヤキの木の精(木霊)であるほおずきは、人間である天馬に恋をし、星河町で暮らすようになった。しかし、天馬は130年前に、船の事故で消息を絶ち行方不明となったまま。けれども未だ天馬を待ち続ける、ほおずき。そして、そんな彼女に想いを寄せるのが、天馬の直系の子孫である高校生・一歩。切ない想いが時を越えて交錯する、星河の不思議へようこそ!
どうにも好きな作品が揃っている、ITANの新作も今月も。こちらは鈴木有布子先生の作品になります。当ブログでも、鈴木先生の作品はご紹介しているので既にご存知の方も多いとは思いますが、新書館やマッグガーデンなどで作品を多数発表されています。それでは作品の紹介へと移りましょう。
物語の舞台となるのは、とある田舎町・星河町。この町には昔から、樹齢の高い古木に宿る木霊という存在がおり、木霊が人間の家に嫁いでくることが度々あった(現在はまずない)という土地。その最後の人間に嫁いだ木霊・ほおずきがいる家に育ったのが、主人公の高校生・一歩。木霊の血が混じっていながら、これといった力は持っていない彼は、素行も見ためもその年なりの普通の高校生。もちろん恋だってするけれど、そのお相手がいけなかった。自分の4代母にあたる木霊・ほおずきを好きになってしまい、日々アタック。けれどももちろんほおずきは相手にしてくれません。ほおずきは、未だ帰らぬ夫を待つ日々。行方不明になったのは120年も前のこと、当然生きてはいないと思っている。けれどそれこそが、彼女の生きる意味だった…。

ただただ真っ直ぐにほおずきを想う一歩と、それをあしらうほおずき。この関係は、やがてあることをきっかけに変化していくことになる。
先に主人公を一歩としましたが、この物語の真の主人公は、表紙にも描かれているほおずきです。人間に嫁いだ最後の木霊である彼女が、未だ帰らぬ、そしてもう戻ってはこないであろう夫を待ち続ける中で、自分が存在する意味を考え見つめて行く過程が描かれます。もう何百年と生きているのですから、色々と本人の中で生きる答えというのは見つかっています。それでもなお揺れるのは、未だ諦めきれない待ち人への想いと、自分に想いを寄せる一歩の存在。取るに足らない少年ではあるのですが、その真っ直ぐな想いはしっかりとほおずきにも伝わるし、なにより見ためが待ち人・天馬にソックリ。それにはとある理由があるからなのですが、それは読んでからのお楽しみでございます。
小さな町で、比較的閉じた人間関係の中展開される物語。それゆえお互いを結ぶ絆はより深いものになり、それがそのまま作品の魅力となって映し出されることが、そういう作品には多いような気がします。しかしながら鈴木先生の作品って、変に感動的にさせようとしないので、そこまで大きな心情の揺れ動きはないかも(読み手の)。今回もほっこり温かい気持ちになれるシーンが断続的に続いていたのですが、どこか刺激不足…なんて思ってたらラストの切り方がとんでもなく絶妙で、これはもう2巻買わざるを得ないぞ、と。まんまとやられました。鈴木先生の作品は好きなのですが、回またぎでここまでドキドキさせられたことって今までなかったです。
そういう意味では1巻は丸々導入と言っても良いかもしれません。前段が長々と続くと飽きが来て振り落とされ率高くなるのですが、1巻ラストのタイミングで完璧に回収。序盤は完全に一歩視点のあったかコメディだったのに、気がつけば一人の女性の生き様を描く、とてもとてもシリアスな物語へと変貌していました。しかも次巻予告の内容がまた…!これは絶対これから面白くなると思います。もし気になる方がおられましたら、チェックしてみてください。
【男性へのガイド】
→導入が男の子視点という部分は男性が読むにあたって補強材料になる気もします。ただ今後の物語展開はおそらくほおずきの心情メインであって、そこについては女性の共感が絶大になりそうな予感。あ、あと幼なじみの女の子がかわいいです。
【感想まとめ】
→1巻通して言うならばオススメするか迷うところであったのですが、ラストの切り方と今後への期待感がすっごく高いので、やっぱりオススメで。
■作者他作品レビュー
ハイスペックなのに地味…そんな彼の高校庶務生活:鈴木有布子「歩くんの○○な日常」1巻
珠算部で作る、青春の1ページ:鈴木有布子「願いましては」
作品DATA
■著者:鈴木有布子
■出版社:講談社
■レーベル:KC ITAN
■掲載誌:ITAN(連載中)
■既刊1巻
■価格:526円+税
■購入する→Amazon